吸血貴公子

歌龍吟伶

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第1章〜農村の娘〜

第4話

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「今はシェダと二人きりに…」


暫く静かにして欲しい。 

そんな願いは、


「そんな事はどうでも良い!!早く答えなさい!!」 


医者の怒号に踏みつぶされる。 


(・・・そんな、こと?) 


アンシェは呆然とした。 

医者として患者を助ける薬が欲しい気持ちは分かる。 

しかし、死を悼む事を「どうでも良い」と言われるとは。 

酷く傷付いたアンシェの耳に、さらに信じられない言葉が入ってくる。 


「お前、これを独り占めする気か?! さては魔物と取引をしたんだな?!」 


医者がそんな事を言い始めた。 


「・・・は?」 


「そうに違いない! 弟を助けようとして悪魔に魂を売ったたんだな!!」 


「何言って・・・」 


有り得ない発想にアンシェは唖然とした。 

ところが。


「アンシェ、お前って子は・・・」 


驚いた事に、ほかの村人にまでその考えが伝染した。 


「え?!」 


「なんて恐ろしい娘なんだろう」 


「悪魔と契約した娘なんて置いておいたら、村が…」 


人々の目に殺意が浮かぶ。 


「ま、まってよみんな・・・どうしてそうなるの?!」 


アンシェは慌てた。 

しかし、人々にはもうアンシェの言葉は届かない。 


「・・・殺してしまおう」 


「ああ、村の為だ」 


「待ちなさい、実の入手法を・・・!」 


医者が止めに入ったが、 


「悪魔と契約した人間が口を割るはず無いだろう!!」 


「災いが起きたらどうする!!」 


村人達に押しのけられ、医者がアンシェから離れた。 

アンシェはその隙をついて逃げ出す。 


「待ちなさい!!」 


家を飛び出したアンシェは、村人達の叫び声を背に森へと逃げ込んだ。


(なんで?!どうして?!) 


何故こんなことに?


(たすけて・・・!!) 


当てもなく森を走りながら心の中で叫ぶ。
 
すると、 


ガサッ


「きゃっ!!」 


突然目の前に大きな影が現れ、アンシェは転んでしまった。 

そんな彼女を心配そうに見つめてくるのは、先程乗せてくれた生き物。


「いたた・・・」 


すりむいた膝を見ると、かなり削れてしまっていた。 

その傷を、謎の生き物が舐めてくれる。 


「痛っ・・・心配してくれてありがとう」 


痛かったが、舐められると出血が止まっていくようだった。 

緊張が解けてきて、アンシェはポロポロと泣き出す。 

謎の生き物はアンシェの涙も舐め取ろうとしてくれる。 


「ありがとう・・・!」 
 

アンシェはその生き物の背に突っ伏して泣き出した。 


「ふ・・・ぅ・・・っ」 


なんで? 
どうして? 


疑問と悲しみがアンシェを支配する。

泣きじゃくっているうちに、アンシェは気を失った。
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