とある一般人女性の日常

歌龍吟伶

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おんぎゃーふかふかふかちゃん

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これは、私が幼稚園生くらいの時の話。

私には、宝物にしているぬいぐるみキーホルダーがあった。

押すと音が鳴る、小さな羊のぬいぐるみキーホルダー。

ぷぎゅぅうううぷぎゃー!

と鳴るその音が、幼い私には「おんぎゃーふかふかふか」と聞こえていたらしく、そのまま名付けて可愛がっていた。

どこに行くにも連れて歩いていたある日。

母と電車に乗るため、駅のホームで待っていた時に事件は起きた。

いつものように手に持っていたおんぎゃーふかふかふかちゃんを、私は線路に落としてしまったのだ。


「あ!!おんぎゃーふかふかふかちゃんが!!」


しかし線路に降りるわけにいかない。

さらに間の悪いことに、電車が来るアナウンスが聞こえてきていた。


「おんぎゃーふかふかふかちゃんが!!」


線路を指差して泣く私に、母は優しく声をかける。


「後で駅の人にとってもらおうね」

「でも…電車来ちゃう」

「だから今は取れないの。後でね」


私はおんぎゃーふかふかふかちゃんを見つめながら泣き続けた。


「おんぎゃーふかふかふかちゃん、笑ってるのに…!」


ヒツジのぬいぐるみのため、口が「ω」の形をしている。

それを笑顔だと認識していた私は、今まさに電車に轢かれようというその時でも笑っているおんぎゃーふかふかふかちゃんを見て更に泣いた。

そして、目の前を通過する電車。

容赦なく轢かれたおんぎゃーふかふかふかちゃん…

そして電車がいなくなると、ホームで大泣きする私に気づいてくれていた駅員さんが線路に棒を伸ばして拾ってくれた。

手元に戻ってきた、おんぎゃーふかふかふかちゃん。

なんということでしょう、全くの無傷!

小さかったおかげか車輪を避けることができていたらしく、潰れることも破れることもなく生還したのだ。

その後もしばらくは大切にされていたおんぎゃーふかふかふかちゃんは、次のお気に入りができるとアッサリ仕舞い込まれたのであった。
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