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第二十四話
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二人が家に着く頃、再び吹雪が吹き出した。
強い風の中、雪に足を取られそうになりながらも家に着くと、物音を聞いてアカートが慌てて外に出てきた。
「お前ら、ジュラーヴリと会わなかったか!」
アカートの言葉にルルススとコスティは顔を見合わせる。
「とりあえず中に入れ」
アカートに言われて家に入り、雪を落とすと三人は居間に向かった。
ルルススが何が起こったか話すと、アカートは怒りを隠そうともせずに口を開いた。
「あいつが攫われるのをただ見てただけだってのか!」
アカートが怒鳴ったが、二人はただ受け止めることしかできなかった。
二人相手に怒っても仕方ないと思ったのか、アカートは息を吐いて気持ちを切り替えた。
「……金ならある」
「では、それでジュラーヴリは……」
ルルススの言葉をアカートは途中で遮った。
「ある、が。ただ出せばいいってものじゃねえ。受け渡しが早いのはこっちに考えさせないためだ。いくら金を渡しても、あっちに返す気がなけりゃどうしようもない」
「では、どうしたら……」
「俺が考えておく。お前らは休んでろ」
アカートは言うと書斎に向かった。
残された二人は少し悩んだ末に客間に戻る。
コスティはベッドの上に自分の荷物を放り、そのまま腰掛ける。
向かいにあるベッドにルルススが座った。
蝋燭の火は、二人の心のように不安定に揺れている。
「……俺が、何も言わないで出てったから……」
コスティは膝に頬杖をつき、手で顔を覆う。
ルルススは声をかけようと口を開いたが、言葉は出なかった。
コスティが何も言わずに家を出たのは自分と顔を合わせたくなかったからで、そうなったのは昨晩自分がコスティを拒んだからだ。
苦悩に顔を歪めながら、ルルススは目を閉じる。
「コスティ、聞いてくれ」
コスティが顔を上げた。
ルルススは躊躇いを断ち切るように目を開き、口にする。
――気持ちだから、大事にしないといけません。
ジュラーヴリの言葉が頭を過った。
しかし、それ以上に大事にしたいものがある。
「この街を離れるとき、私達も別れよう」
「な、なんだよ、いきなり……!」
驚きに目を見開いているコスティを見られず、ルルススは俯く。
「私と関わったら不幸になる。私は一人でいるべきだ」
「ジュラーヴリのことは黒服の奴らが悪いんだ、お前が気に病むようなことじゃ……」
「それでも、こんなことは、もう二度と……。君を危険に巻き込んでしまったら、私は……」
「ルルスス……」
悲嘆に暮れて俯くルルススをコスティは見つめる。
「アカートさんに、言われたことがある。私に新しい名前をつけてくれると。そうすれば今の状態を保てる。少なくとも言葉として消えることはないだろうと」
「でも、それじゃお前は誰かわからないままじゃ……」
「私が誰であったかなど、忘れられた方がいいんだ。私自身からも」
「ルルスス」
いつの間にか目の前に立っていたコスティに強く名前を呼ばれ、ルルススは体を強張らせる。
コスティは膝をつくとルルススの片手を両手で握り、懇願するように額をつける。
「忘れられた方がいいとか、そんなこと言うなよ」
なぜ、自分よりコスティの方がつらそうなのだろう。
ルルススは自分の感情がよくわからなくなる。
良い感情も、悪い感情も、全てがかき乱されてぐちゃぐちゃになる。
「お前が名前を探すってことは、生きたいってことだろ。諦めるなよ、全部、全部……」
ルルススははっと目を見開いた。
生きる。
何より強く願いつつも、いつしか諦めていた望み。
些細なことで笑い、悲しみ、夜には静かな眠りに落ち、昇りくる陽に感謝し、ありふれた、けれどもかけがえのない日々を送る。
眠らぬ自分が見る夢なのだと。
何よりも遠い夢なのだと思っていた。
それを、思い出してしまった。
コスティは静かにルルススを抱きしめる。今にも脆く崩れ落ちそうなルルススの体を、心を潰さぬよう、そっと。
「俺は、お前の名前を呼びたい」
「コスティ……」
「お前が、好きだ。ずっと隣にいたい」
寒さしか感じていなかった心に、再び熱が戻った気がした。
「言わなきゃ駄目なんだ。言わなきゃ、伝わらない」
コスティの言葉にルルススは頷き、力の限りコスティを抱きしめる。
「私も、君が好きだ。……君の隣にいたい」
ルルススは自分の想いを言葉にする。
言葉はすぐに飛び去るものであろうとも、この想いは蔦のように離れず、永久に輝くだろう。
「何があっても一緒にいる」
「ああ。何があっても一緒にいよう」
コスティの言葉を繰り返し、ルルススは目を閉じた。
強い風の中、雪に足を取られそうになりながらも家に着くと、物音を聞いてアカートが慌てて外に出てきた。
「お前ら、ジュラーヴリと会わなかったか!」
アカートの言葉にルルススとコスティは顔を見合わせる。
「とりあえず中に入れ」
アカートに言われて家に入り、雪を落とすと三人は居間に向かった。
ルルススが何が起こったか話すと、アカートは怒りを隠そうともせずに口を開いた。
「あいつが攫われるのをただ見てただけだってのか!」
アカートが怒鳴ったが、二人はただ受け止めることしかできなかった。
二人相手に怒っても仕方ないと思ったのか、アカートは息を吐いて気持ちを切り替えた。
「……金ならある」
「では、それでジュラーヴリは……」
ルルススの言葉をアカートは途中で遮った。
「ある、が。ただ出せばいいってものじゃねえ。受け渡しが早いのはこっちに考えさせないためだ。いくら金を渡しても、あっちに返す気がなけりゃどうしようもない」
「では、どうしたら……」
「俺が考えておく。お前らは休んでろ」
アカートは言うと書斎に向かった。
残された二人は少し悩んだ末に客間に戻る。
コスティはベッドの上に自分の荷物を放り、そのまま腰掛ける。
向かいにあるベッドにルルススが座った。
蝋燭の火は、二人の心のように不安定に揺れている。
「……俺が、何も言わないで出てったから……」
コスティは膝に頬杖をつき、手で顔を覆う。
ルルススは声をかけようと口を開いたが、言葉は出なかった。
コスティが何も言わずに家を出たのは自分と顔を合わせたくなかったからで、そうなったのは昨晩自分がコスティを拒んだからだ。
苦悩に顔を歪めながら、ルルススは目を閉じる。
「コスティ、聞いてくれ」
コスティが顔を上げた。
ルルススは躊躇いを断ち切るように目を開き、口にする。
――気持ちだから、大事にしないといけません。
ジュラーヴリの言葉が頭を過った。
しかし、それ以上に大事にしたいものがある。
「この街を離れるとき、私達も別れよう」
「な、なんだよ、いきなり……!」
驚きに目を見開いているコスティを見られず、ルルススは俯く。
「私と関わったら不幸になる。私は一人でいるべきだ」
「ジュラーヴリのことは黒服の奴らが悪いんだ、お前が気に病むようなことじゃ……」
「それでも、こんなことは、もう二度と……。君を危険に巻き込んでしまったら、私は……」
「ルルスス……」
悲嘆に暮れて俯くルルススをコスティは見つめる。
「アカートさんに、言われたことがある。私に新しい名前をつけてくれると。そうすれば今の状態を保てる。少なくとも言葉として消えることはないだろうと」
「でも、それじゃお前は誰かわからないままじゃ……」
「私が誰であったかなど、忘れられた方がいいんだ。私自身からも」
「ルルスス」
いつの間にか目の前に立っていたコスティに強く名前を呼ばれ、ルルススは体を強張らせる。
コスティは膝をつくとルルススの片手を両手で握り、懇願するように額をつける。
「忘れられた方がいいとか、そんなこと言うなよ」
なぜ、自分よりコスティの方がつらそうなのだろう。
ルルススは自分の感情がよくわからなくなる。
良い感情も、悪い感情も、全てがかき乱されてぐちゃぐちゃになる。
「お前が名前を探すってことは、生きたいってことだろ。諦めるなよ、全部、全部……」
ルルススははっと目を見開いた。
生きる。
何より強く願いつつも、いつしか諦めていた望み。
些細なことで笑い、悲しみ、夜には静かな眠りに落ち、昇りくる陽に感謝し、ありふれた、けれどもかけがえのない日々を送る。
眠らぬ自分が見る夢なのだと。
何よりも遠い夢なのだと思っていた。
それを、思い出してしまった。
コスティは静かにルルススを抱きしめる。今にも脆く崩れ落ちそうなルルススの体を、心を潰さぬよう、そっと。
「俺は、お前の名前を呼びたい」
「コスティ……」
「お前が、好きだ。ずっと隣にいたい」
寒さしか感じていなかった心に、再び熱が戻った気がした。
「言わなきゃ駄目なんだ。言わなきゃ、伝わらない」
コスティの言葉にルルススは頷き、力の限りコスティを抱きしめる。
「私も、君が好きだ。……君の隣にいたい」
ルルススは自分の想いを言葉にする。
言葉はすぐに飛び去るものであろうとも、この想いは蔦のように離れず、永久に輝くだろう。
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コスティの言葉を繰り返し、ルルススは目を閉じた。
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