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25人の妖精〜第十九章〜

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「つまりはこういう事ですね。3人で分担してプリントを解いたと…。」
「筆跡でバレるなんて思わなかったんだよ。」
「そもそも答え合ってればいいだけのことでしょう?」
旦那様のうちには陽平君が遊びに来ていた。
「で、追加の課題が出たと。」
「陽平君解いてよー。天界警察の試験より簡単でしょう?」
「ハハハ、なんていうことでしょう。」
見るに見かねて旦那様が顔を出した。
「陽平はお休みを頂いてうちに遊びに来てくれるんです。負担をかけてはいけませんよ。」
「はーい。」
「陽平君、バドミントンしようよ。勝ったらゴロゴロコミックの最新刊買ってよー。」
「昔の君たちはもっと純粋だったはずだー。目を覚ますんだー。」
そう言って陽平君はバドミントンで戦い始めた。

「天界警察交通課マヤでふ!!今日はよろひくお願いしまふ。」
マヤは口いっぱいにご飯を詰め込んで話した。
「ふふふ、マヤちゃん。合コンってご飯食べる場所じゃないんだぞ。」
居酒屋で盛喜多さんが笑う。
「マヤちゃんってレジスタンスだったんでしょう?」
「話聞きたいなぁ。」
「あら、盛喜多には興味ないかしら。」
「盛喜多さんはどーせいつもの話しかしないでしょう?」
「武器とかどうやって集めるの?」
「レジスタンスになろうとしたきっかけは?」
「その前に焼き鳥食べたい。」
「良いよ。今日は俺たち全額払うよ。」
「わーい。有難う。」
「いっぱい食べな。」

「学さん…墓参りに行きませんか?」
「墓参りってお前といつから家族になった。」
「潤君のお墓参りです。」
鹿児島中央の神社では学さんと一色さんが話していた。
「遺族に塩撒かれるのに行けるかよ。」
「今、行っておかないともういけなくなりますよ。」
一色さんは真剣な目をしている。
「明日、2時な。」
そう言って学さんは風呂に行った。

天界、魔界ではそれぞれが自分らしく住みたい街に暮らせるようになった。天界への移住者が増えると思われていた魔界だったが住み慣れた土地から離れたくないと自宅を再建して野菜の販売に従事する者が出始めた。
魔界の土地は表面は荒れ果てているが地面を掘っていくと水が噴き出す。
皆が協力して作物を育てるようになった。
学校では昔は魔界の住人が子供をさらって食べていたという話はされなくなった。
しかし、魔界の住人に対する偏見は根強く残っていた。

「我々、NPO法人トリカゴは魔界の住人を魔界に戻すよう運動を続けます!!」
「うるさいんだよ!!朝っぱらから!!」
「帰れー!!」
魔界の住人の居住区では連日NPO法人が演説をするようになった。
「我々は立ち上がる必要があるのです!!魔界の住人の居ない天界を!!」

そのしわ寄せはアイリーンのもとに来ていた。
「関税ですか…。」
「この間も上がったばかりですよね?」
部下の仲村が嘆く。
「ところでこれお手紙です。またファンレターですね~。」
「適当に処分しておいてください。」
「いいんですか?橘さんですよ。」
「え。貸してください。」
「ファンレターじゃなくラブレターですね。ふふふ。」
「2、3日留守にします。その間のことは任せます。」
「はーい。いってらっしゃーい。」

次の日の昼過ぎ、鹿児島の墓地に学さんと一色さんの姿があった。
花を取り替えて線香とろうそくに火をつける。
「ご家族も月に何度か来ているようですね。」
「ああ。子供思いの親御さんだったからな。」
学さんは下を向いて黙る。
「もう自分を許してもいいんですよ。」
「二枚舌の一色に言われてもなぁ…。」
そう言ってろうそくの火を消す。
「来れてよかったよ。ありがとな。」
「学さん…。」
「俺とお前が仲良くするかは別問題だからな。」
そう言ってふたりは笑った。

「おはよーございまーす。」
「たっち~。聞いてよ~。」
天界警察に出勤した陽平君に鏑木さんが飛びついてくる。
「はいはい。沈黙は金なり。」
「たっち~がどんどんすれていく…。」
「おじいちゃんのせいでしょ。」
「田所さんはみんなと仲良くなれたじゃない?」
「おじいちゃんのおかげだと言いたいんですか?」
「違うの?」
「心の底から違うと言えます。あと綾鷹3本減ってましたからね!!」
「おじいちゃんじゃなくて…。」
「じゃあ誰なんです。」
「この手が悪いんです。」
「じゃあこの手はいりませんね。」
そう言って田所さんは鏑木さんの両手を縛った。
「そんな古典的な説教嫌あぁぁ!!」
「またやってますね。」
「うちの名物だからな。」
坂本さんが新聞を読みながらそう答える。
「あ。橘君、警視総監に呼ばれてるから行ってきて。」
田所さんが話す。
「首ですか?」
「そこまでは知らないなぁ。」
陽平君は恐る恐る警視総監の部屋へと向かった。
「神官護衛課橘陽平であります!!」
そう言って、敬礼した。
「噂通りの真面目な子ですね。」
「はぁ…?」
「君に他部署での長官を命じたい。1週間待つ。答えを聞かせて欲しい。」
「長官!!ぼくがですか?!」
「君が長官になったら史上最年少長官斗歩伸之の記録を抜くな。」
そう言って皆が笑う。
「前向きに検討させていただきます。」
そう言って陽平君は部屋を出た。
長官になったらお給料増えるのかな?陽平君はそんな事を思った。

「たっちぃばっなー。」
陽平君は食堂で藤崎にあった。
「僕、長官になりませんかって言われてるんだ。」
「マジか!!さすが俺等の橘…!!」
そう言って藤崎はくーっといった。
「酒飲みか!!」
陽平君は突っ込む。
「辞めておいたほうが良いと思うけどなぁ…。」
市松が向かいの席に座る。
「橘って今役付だろう。そこから一気に長官になると仕事も変わるし人間関係も変わるし大変だと思う。」
「そうなんだよねぇ…。」
そう言って陽平君は親子丼を食べる。
「たぶんウチって一番軽い部署じゃないかと思うんだ。鏑木さんとか田所さんとか。まあ田所さんは鏑木さんの分まで働いてピリピリしているんだけども…。」
「今のまんまでも充分だと思うよ。」
「とりあえず1週間考えてみるよ。」

「良いか?これは特殊任務だ。僕たちの夏休みがかかっている。」
学校では旦那さまの家の妖精が集まって話をしていた。
「ノートは交代で取って後は皆で写す。追試にだけはならないぞ!!」
「行けるよ僕たちなら。」
「ファイト、オー。」
「また、妖精で集まって何やってんの?」
星崎が笑う。
「夏休みをかけた聖戦が始まるんだ。」
「ようするに馬鹿なんだろ?」
「僕らは働いていた頃、お昼寝の時間があったからその時間手薄になるんだ。」
「ノートだったらポケモンシール1枚で1人1回見せてやるよ。」
星崎はそう言って、まあ頑張れよと言い残していった。
「ポケモンシールかぁ…なかなか手ごわいなぁ…。」
「1枚で1回なら安いものかもしれないぞ…。」
そう言って皆は話した。

アイリーンは陽平君に会いに天界に来ていた。
「待たせてごめん。アイリーン!!」
「仕事は大丈夫なの?」
「今日は早朝からだから。」
そう言ってふたりは水族館に向かった。
「橘…。今日も何も言ってくれないのね。」
そう言ってアイリーンは寂しそうにした。
「僕が無理矢理付き合わせてるんじゃないか。」
「私は橘を待つわよ。」
「今、長官にならないかって話が出てるんだ…。そうしたら少しはアイリーンに近づけるかと思って…。」
「今のままでも充分なのよ。」
「でも僕たちは一緒に暮らすことは出来ないと思うんだ。魔界にはアイリーンの代わりになる人は居ない。」
「橘…。」
「だから、こうやってたまに会えるだけで幸せなんだ。」
そう言って陽平君は頭を掻いた。
アイリーンはそっと陽平君に口付けした。
「明日は休みだから…。」
「そうね。一緒に過ごしましょう。」
アイリーンは幸せそうに笑った。

「やっぱりポケモンシールに頼るしか…。」
「借りて次の日返せば皆が写せるよ。」
「よし!!その手で行こう!!」
「でも学年1の秀才、星崎君だったらそのくらいお見通しかもよ。」
「聞こえてるから…。」
星崎は苦笑いした。
「手持ちのポケモンシール見せろよ。レアキャラだったら1枚で全員写してもいいぞ。」
「うぅ…。そういうのお代官様って言うんでしょう?」
「何その偏った知識…。じゃあ、今日はこれで勘弁してやるよ。」
そう言って星崎はポケモンシールとノートを交換していった。

次の日、陽平君はアイリーンと朝を迎えた。
「今日はどこ行こうか?」
「橘の行きたいところでいいわ。」
そう言ってふたりはホテルで朝ごはんを食べた。
「長官になったら今より休みは増えるの?」
「どうかなぁ?今度、鏑木さんに聞いてみるよ。アイリーンは随分穢が無くなったけど魔界での生活は大丈夫なのかい?」
「私の周りは天界に近いから…。それより橘、私…。」
「何?話しにくいこと?」
「今度話すわ。」
「意味深だなぁ…。」
そう言ってふたりは美術館に向かった。

天界警察では斗歩長官が悩んでいた。ご先祖様に魔界の住人と交流があった人がいるという話は聞いていた。だが、それは嘘か本当か分からない話だった。しかし、魔界のトップに立ったアイリーンを見た時、それは確信に変わった。
「また何か言いたそうな顔をしてるわね。」
そう言って彩女が笑う。
「放っておいてください。夢見が悪かっただけです。」
そう言って斗歩長官は仕事に手を付けた。
身内に魔界の住人が居る…それはこの先自分の進退に関わって来るんじゃないか、斗歩長官はそう思った。

「さすが学年1の秀才、星崎君…。」
「要点がまとまっている。」
妖精たちは家に帰って休みに入ると星崎君から借りたノートを写した。
星崎君のノートはわかり易く先生の話などもまとめられていた。
「100点取れるかもしれないよ。」
「星崎ノートがあれば僕たちも突破できる!!」
そう言って妖精たちはノートをせっせと写した。

アイリーンと陽平君は美術館帰り、お茶をしていた。
「橘…私…。」
「さっきの話?」
「子供が出来たの…。」
陽平君はガタンと立ち上がった。
「よっしゃー!!」
陽平君は叫んだ。
「僕、長官になるよ。決意したよ。」
そう言って陽平君は席についた。
「女の子かな?男の子かな?」
「橘、ちょっと待って。私達結婚もまだなのよ。」
「そうだね。結婚しようよ。」
「橘、やっと言ってくれたわね…。」
そう言ってアイリーンは涙ぐんだ。

陽平君は次の日、警視総監の部屋へと向かった。
「神官護衛課、橘陽平であります!!」
「答えは出ましたか?」
「長官になる話、ぜひとも受けさせていただきます。光栄であります!!」
そう言って陽平君は長官になった。
半年後、ふたりは式をあげた。アイリーンのお腹は少し膨らんでいた。
天界も魔界も平和でありますように。
そう願ってふたりは結婚した。
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