魔法使いの少年と学園の女神様

龍 翠玉

文字の大きさ
24 / 46

24.女神様の耳掃除

しおりを挟む
 夕食後、母さんは明日も仕事らしく帰っていった。
 二人で並んでこたつに入りながら、同棲についての話をする。

「なぁ、穂香。どこから話す?」

 こたつの上の珈琲に手を伸ばし、喉を潤して穂香の返事を待つ。

「そうね……おばあちゃんの事から話すね。結論から言うと、おばあちゃんは、ユウ君ならいいよって」

 うん?俺は穂香のおばあちゃんに会ったことないぞ?それなのにいいとはどういうことだ?

「ユウ君、おばあちゃんに会ったことないのに何で?って顔してるね」
「ああ、よくわかったな」
「ユウ君はね、おばあちゃんに何回も会ってるのよ。このマンションの管理人って言えばわかる?」 
「え?じゃあ……」

 これはなかなか衝撃的な事実だ。世間は狭いと実感させられる。
 このマンションの管理人のばあちゃん――と言っても、まだ六十代だと思うが、初めて会ったのは入居してすぐだ。

 引っ越しやらなんやらで運動不足気味だったからランニングしていた時だった。近くの公園のベンチで、足を捻挫して歩けなくなってた、ばあちゃんがいた。
 その日に限って携帯を家に置いたまま出てきて、誰にも連絡とれずにいたようだ。そんな時、たまたま通りがかった俺がおんぶして、近くの病院に連れていったのだ。帰りもおんぶして帰ったのだが、その場所がこのマンションだった。

 帰ってからは、孫にみてもらうから大丈夫って言ってたけど、今考えたらそれが穂香か。
 ばあちゃんとは、それ以降、話し相手になったり、植木を植え替える手伝いしたりしたこともあった。
 お菓子もらったり、夏場はスイカ一緒に食べたりしたこともある。そのばあちゃんが穂香のばあちゃんだったとは……。

「そう。おばあちゃんにユウ君の事を言いに行ったら、逆におばあちゃんからユウ君の事を聞かされて……ユウ君は私だけじゃなくて、おばあちゃんも助けてくれてたんだ、って。それでね、おばあちゃんからは、たまには一緒にご飯食べてほしいって」
「ああ、もちろん。穂香と三人でな」
「うん、ありがと。私、その話聞いた時、思わず泣いちゃったんだから」

 そう言うと、俺の胸に身体を預けてきた。
 優しく頭を撫でてやると、次第にとろんとした表情になってくる。そのまま、どちらからともなく、お互いの唇を啄む。穂香の唇は上品な和菓子のような瑞々しさと弾力があって、いつまでたっても飽きることがない。

「ん……んむ…………あ、そうだ!」

 穂香が突然何かを思い出した様に身体を起こした。
 何だ?何か料理中で放置してたのかと思ったが、

「ほら、ここに頭乗せて。耳掃除してあげる」

 足をのばして座ると、太股を叩いて誘導してきた。もちろん断る理由もないし、密かに楽しみにしてたので、遠慮なくしてもらうことにする。
 生地の厚いズボンをはいているので太股の感触はあまりわからないのは残念だが、頭を身体で包み込まれる様な感覚はいいものだ。

「う~ん、ユウ君、ちょっと起き上がって」

 なかなか始まらないと思ってたら、なぜか起きてくれと言われた。言う通りにすると、いきなりズボンを脱ぎ出す。

「え?穂香?」

 何で脱ぐんだと思ってたら、生足になって「はいどうぞ」ときた。穂香の気遣いに感謝だ。
 こういうのは恥ずかしがらないんだなと思いつつ、太股に頭を乗せる。頬から伝わる感触と、耳掃除の気持ちよさにウトウトしてしまってた。

「えへへ……気持ちよかった?じゃあ反対向いて」

 夢心地のまま、言われた通り反対向くと、当然穂香の身体の方を向くわけで。目の前には下腹部が存在している。下着着けているとはいっても、眠気を一撃で吹き飛ばしてくれた。

そのまましばらく待っていたのだが、

「やっぱりダメ……ユウ君、身体ごと反対向いて。恥ずかしくて手元狂いそうだから……こっち向くの禁止」

 と、言われてしまった。結局反対向いたのだが、またウトウト眠ってしまったのは言うまでもない。
 ふと目を覚ますと、目の前に穂香の顔があった。仰向けでひざまくらされているようだ。そして、いつも通り髪をいじられる。

「短くなったから触り応えないだろ?」
「そんなことないよ。ユウ君の髪だからいいの」

 そんなものなのかと思っていたら、昼間の事を思い出した。

「髪と言えば……今日、浩介と菜摘に会ったけど、菜摘にはどこまで話してあるんだ?」

 ピタッと穂香の手が止まり、顔を見ると目が泳いでいる。穂香はこういう話をすると、非常にわかりやすい反応をしてくれる。
 菜摘とか女友達と話すときもバレバレで、隠し事なんてできていないだろう。
 そんなところも可愛くていいのだが、常にノーガード状態でだだ洩れなのは少し困るかもな。

「それは……その……ユウ君としちゃったってこと……くらいしか言ってないよ」

 まぁ、直接会って話してるわけじゃないからそんなものか。

「そうか、それならいいんだ」
「何かあったの?」
「ああ、あいつらのプレゼントを早々に使い切ったことを言ったら驚かれてな」

 それでわかったのか、なるほど~みたいな感じだったが、何かを思い出したかのように笑顔になった。

「ユウ君ってさ……普通の人より……えっちだよね」

 穂香は笑顔だが、これは悪い笑顔だ。下手に答えると失敗するので、穂香の次の言葉を待つことにした。
 こういう時こそ会話の基本だ。相手の話をしっかり聞く。大事なことだ。

「あのね、他の人は初めての時、どんな感じだったのかなって思って、ネットの体験談とかそういうの見てたの。友達には聞きにくいし、聞いたら聞かれるしね。それでね、痛かった~とか、全然痛くなかったとかの感想は……まぁいいのよ。問題はね、回数と時間なの。特に初めての時なんて、一回で終わるって人が多かったんだけど、それについて何か弁解はあるかしら?」
「いや……それは……」
「初めてなのに朝まで寝かせてもらえなくて、リアルに立てなくなったなんて……なっちゃんにも言えないに決まってるじゃない……それとも言ってもいいの?」

 その時の事を思い出したのか、顔を赤く染めて言ってきた。
 だが、菜摘に知られるのはマズイ。あいつにそんなネタを提供したら、何かあるたびに弄られそうだ。

「それは勘弁してくれ。あの時は、穂香とそうなれたのが嬉しくて……頑張りすぎた。その、穂香も拒まなかったし……」
「私は、初めてでよく知らなかったから、そういうものなのかなって思ってたの!」

 ぷりぷりしてる穂香の顔を引き寄せ、唇を重ねた。卑怯かもしれないが、ここは逃げさせてもらう。

「ん……はぅ…………んん……もう……いきなりはズルい……」
「嫌か?」

 離れた唇を耳元へ移動させ、囁き、更に耳たぶを甘噛みする。

「ひぁっ!い、嫌なわけない……けど……耳はダメ……」

 穂香の反応が可愛くて堪能していたが逃げられてしまった。

「もう!弱いのわかっててしてるでしょ。む~、後でユウ君にも同じことするんだからね」
「わかった。その勝負、受けて立とう」

 上手く話が逸れてくれたが、この勝負は俺の勝ちが確定している。俺はくすぐられたりするのには滅法強い。対して穂香はというと、見ての通り弱い。
 年の瀬に何をしょうもないことをしてるんだ、と思われるかもしれないが、たまにはこういうじゃれ合いもいい。
 そして、勝負はもちろん、俺の完全勝利で終わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...