魔法使いの少年と学園の女神様

龍 翠玉

文字の大きさ
28 / 46

28.女神様は魔法に興味津々

しおりを挟む
 人の噂も七十五日というように、俺と穂香の事も次第に話題に出なくなってきた。他に面白そうな話があればそちらに食いつき、また違ううわさがあればそちらに……そんな感じで俺たちは思いのほか早く、平穏な生活を送ることができるようになった。
 登下校は手を繋いでいき、昼は穂香の作った弁当を食べる。それが当たり前になってくると、意外に誰も何も言わなくなってくるものだ。
 主に女子からは好意的に、男子からは羨望と嫉妬の入り乱れた眼差しで見られることが多かったが。

 一月も終わりにさしかかり、クリスマスにほぼ使い切った魔力がある程度回復してきた頃だった。

「ねぇ、もう一緒に住んで一か月以上たつけど、あれから一度も魔法使ったとこ見たことないのよ。いつ使ってるの?」

 夕食後の寛ぎタイム中に、穂香がふと思い出したように聞いてきた。

「ああ、そうだな。結論から言うと、一度も使ってないぞ」
「え?なんで?」
「なんでとはなんでだ?」
 
 我ながら変な質問返しをしたものだと思うが、まぁ、穂香の言い分を聞いてみよう。

「だって、色々できるなら、使った方が便利なんじゃないの?」
「俺も昔はそう思ったんだけどな。例えば、キャンプしたり、無人島で生活するなら、魔法ほど便利なものはないだろう。火も水も出せるし、獲物も狩れる。魚だって簡単に獲れる。土や木で住居も作れるからな。でも、これだけ文明が発達していれば、大抵の事は家電や設備で事足りるだろ?」

 穂香は俺の言葉にしばらく考えると、今言ったことにはそれなりに納得したようだった。

「なるほどね~わざわざ魔法を使う意味がないってことなのね。じゃあ、他にはどんなことができるの?」
「あとは怪我や傷の治療だな。理由はわからないが、風邪などの病気は治せない」
「どんな怪我でも治せるの?」
「切り傷や擦り傷は治せる。ただ、例えば指を切り落した場合なら、切り落した指があればくっつけて治せると思うが、なければ無理だな」

 人で試したことがあるわけじゃないからわからないけどな、と付け加えておいた。たまたま脚のない昆虫でやった時の経験しかない。実際に俺自身もどこまでできるかもわからないのだ。

「じゃあ、料理中に指切ったりしたら治してくれる?」
「ああ、もちろんだ。その時はすぐに言ってくれ。そのくらいは簡単に治せる」
「うん、すぐに言うよ。ん~……魔法ってもっと便利なものだと思ったのになぁ」

 残念ながらそんなに便利ではないということは、一応わかってもらえたようだ。

「穂香は使ってるところが見たいのか?」
「それもあるけど、他の人には見せられない中で、何か便利な使い道がないのかなって思ったの。ユウ君は誰にも言えないっていうのがあったから、そういう可能性とかはあまり模索してこなかったんじゃないかなって」

 確かにそうだな。何かあった時に一番役に立ちそうな、身体強化と治癒以外はあまり考えてなかった。

「じゃあ、穂香が日常生活の中で、こんな事ができたらいいのに、みたいな事は何かあるか?」
「ん~そうね…………あ、ちなみに、魔法って使うとユウ君にはどれくらい負担がかかるの?無償ってわけじゃないんでしょ?」
「もちろん無償ではないぞ。使った力はなかなか回復しないからな。いざという時のための身体強化と治癒を使えるようにしておくとしたら、そんなに乱用はできないな。ちなみに、身体強化はやりすぎると筋肉痛になるけどな」

 これに関しては仕方ない。そういう負担を抑えるためにも、普段から筋トレとかしてるんだということを伝えると、胸板をピタピタ触りだした。やがて飽きてきたのか、そのまま抱き着いて胸の鼓動を聞くかのように頭をつけてくる。
 こうなるとしばらくはこのままなので、俺は撫でやすい位置に来た頭を撫で始める。いつもはこのまま「ふにゅ~」って感じになったりするのだが、今日に関してはならなかった。
 まだ考え中らしい。何を言ってくるかわからないが、穂香がしたいことはさせてあげられたらいいなと思う。

「それなら、物を直接熱したり冷ましたりってできる?」

 穂香が言ってきたことは、それほど難しいことではない。どちらかというと簡単な方だ。

「例えばこういうことか?」

 俺はこたつの上のみかんを一個むいて、弱めに魔法を使う。

――凍れ――

 そして、俺の手の中にはシャリシャリの冷凍みかんが一個出来上がった。硬さも丁度良い、食べ頃だ。

「わぁ~そうそう、そういうこと。それ、半分食べたい」

 穂香が両手を合わせて目を輝かせてる。こういう時は子供っぽい可愛さがあるな。
 とりあえず、出来立ての冷凍みかんを二人で食べる。こたつに入りながらのこれはいいものだな。

「冷たくて美味しかった。じゃあ、土日だけでもいいから、一緒に料理したいな」
「な、料理?俺、自慢じゃないが何にもできないぞ。いつも任せっきりだから、何か手伝ったりしてあげたいんだけどな」
「大丈夫。熱したり冷ましたりが一瞬でできるなんて、とんでもないことなのよ。他にも料理には色々活用できそうな気がするわ」
「わかった。色々迷惑かけるとは思うが、やってみよう。面白そうだしな」
「やったぁ。楽しみだな~ユウ君と一緒に料理。何作るか考えておくね」

 ニコニコして嬉しそうだ。俺もいつも申し訳ないってのもあるから、少しでも役に立てるようにしないと。まだまだ先になるとは思うが、いつか俺の料理を穂香に食べてもらうってのもいいな。穂香に少しずつ教えてもらって、隠れて練習するか。
 うん、今年の目標の一つにしておこう。
 
 そんなことを考えていると、穂香がテレビでやってるアニメのCM見て言ってきた。

「ねぇねぇ、あれやりたい」
 
 あれというのは、よく戦闘シーンとかである自分のオーラとかで服がなびいて髪の毛が逆立つような演出の事だ。似たような事は出来なくはないと思うが、やったことない。面白そうだが。

「ん~風を使えば似たような事は出来ると思うが、やったことないからな。とりあえず、加減がわからないから自分にやってみるよ」

――風よ――

 色々試してみたが弱い竜巻と上昇気流を混ぜる感じの方が良さそうだな。

「どうだ?」
「凄い!カッコいい!次、私。やってやって」
 
――風よ――

 俺と同じ強さだと、穂香の長い髪が持ち上がらないので、少しずつ強くしていく。

「わぁ~凄い!髪の毛が上に向かってなびいてる~」

 自分の髪が、上に向かってなびく様をキョロキョロ見る仕草は可愛く、俺から見る全体像は純粋に綺麗だって思った。アニメみたいに周りをキラキラさせたりしたらもっと綺麗だろうな。今後の課題にしておくか。
 ただ、ここで一つ問題が発生した。髪の毛が長い分、俺の時より風を強くしたため、スカートが完全にめくれている。今日はピンクか。だが、穂香は上の方を向いているため気付いていない。

 どうしよう。 

 このまま自然な感じで風を弱くして、気付かれないうちになかったことにするか。それとも正直に見えていると伝えるべきか。
 ……よし、ここはいい気分で体験を終了してもらえるように、そっと弱めよう。俺は悪くない。
 
「あ~楽しかった。あれ?どうしたの?結構疲れたりした?」
「い、いや。大丈夫だ。初めてだったから調節が難しかったくらいだな」

 どうやら、バレていないようだ。

「そうなんだ。ユウ君、また今度やって。風がすごい気持ちいいの」
「ああ、これくらいなら、いつでもいいぞ」
「うん、楽しみにしてるね」

 その笑顔が眩しすぎて、ちょっと罪悪感がある俺は、真っすぐに顔を見ることができなかった。

 でも、俺は悪くない……よな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...