声優召喚!

白川ちさと

文字の大きさ
上 下
67 / 153
ノーム編

第67話 みんなを守る炎

しおりを挟む

 ノームの巨像の鎧の中は、真っ暗だった。

「うわっ!」

 飛び込んで何メートルか落ちると、ボスンと何かの上で身体がバウンドする。

「ユメノ大丈夫?」

「辺りを照らせられるか?」

 エルメラとカカも付いて来てくれていた。なんとか身を起して、腰につけている精霊石に話しかける。

「ホムラ。灯りをちょうだい」

 すぐに出てきてポウッと身体を黄色い光で包んで、辺りを照らしてくれた。

 だけど、見えた途端に身体をこわばらせる。

「うわっ!」「きゃあ!」「うを!」

 照らし出された、それ。わたしたちがいたのは当然、黄金に光る妖精の樹の上だ。
だけど、樹には黒い大きな花が生えている。

 それだけじゃなかった。取り囲むように黒い花が顔をそろえて、一斉にわたしたちの方を向いていたのだ。

 花なのに口がついていた。流ちょうに動いて話し始める。

『あらあら、小さなお客さんよ。みんな』

『まあ! さっき戦っていたお嬢さんじゃないの』

『こんな所にどうしたのかしら、迷子?』

 そんなことを口々に話し始めた。

 綺麗な貴婦人のような声に聞こえるが、はっきり言って不気味だ。

 わたしはグッと拳を握る。

「迷子な訳ない。妖精の樹から力を奪い取っている、あなた達を燃やしに来たの!」

『まぁ怖い。でもね。わたしたちは何も悪くないの』

『そうよ。そうよ。わたしたちはノームに言われて、仕方なく妖精の樹から力を土に流していたの』

 本当なのだろうか。この花たちは何も悪くないのだろうか。

 何だか、話を聞いている内に分からなくなってくる。

『それにあなたとっても可愛いわ』

『それにとっても力がある。ねえ、一緒に町で楽しく過ごしましょう』

『そうしましょう。そうしましょう。町を作り直すのだって、ノームがいればあっという間よ』

『それにあなたがいればきっと夢の町になるわ。どんな町がいいかしら』

「夢の町……」

 頭がぼうっとしてくる。確かにノーマレッジは夢の町のようだった。

 あれほど美しい町をわたしは見たことがない。

 暮らしも豊かで、これ以上の町はここ以外には……。

『さぁ、ノームに力を託すの。そうすればきっとあなたの夢が……』

 ――夢が叶う。

 そう心の中でつぶやいたとき、頬に小さな痛みがする。

「ユメノの夢は声優! ラブピュアになること! それはノームじゃ、絶対に叶えられない!」

 エルメラの声にハッとする。ぺちぺちと頬を叩かれていた。

 カカも耳元で大きな声を上げる。

「ユメノ! しっかりするんだ! あの花のいうことに惑わされてはいけない!」

「カカ、エルメラ」

 妖精たちの顔を見つめる。

 そうだ。二人の為にも、妖精の樹を解放させなくてはいけない。

 わたしは胸の前で手を組む。

「わたしの夢は、愛と勇気の戦士になること。ここでみんなを守らないと、夢を叶えたいなんて言えない。ホムラ。みんなを守る炎を!」

「きゅるるるる!」

 ホムラを青い炎が包む。炎に照らされた黒い花たちが身をよじり始める。

『そんな。ダメよ』

『燃やさないで、お願い』

『い、いやああああああ』

 青い炎は広がっていき、黒い花だけを包み込んでいく。黒い花は青い炎と共に、ボロボロと崩れ去って消え去った。

 後は黄金に光る枝葉だけが残る。

「やった!」

「すごいよ、ユメノ!」

「これでイオも……!」

 そのとき、地面が揺れ始める。カカとエルメラも辺りを見回した。

「な、なんだ?」

 揺れるというか、下へ落ちていっているような――。

「ユメノ! 樹にしがみつくんだ!」

「う、うん!」

 必死に妖精の樹の枝にしがみついた。



  ◇◇◇



 イオは短剣を自らに突き付けたまま、ノームと対峙していた。

 花の精霊の女王がふんと鼻を鳴らす。

「そのようなことをしても、わたしが傷つける前に……」

「何かしようとする動きを少しでも見せたら、すぐに斬る」

 その首筋からはまた一滴の血のしずくが流れた。

「お前たち、何もするではないぞ」

 ノームの言葉に二人の王は引き下がる。

「名はイオと言ったな。わたしの物になることは誉れ高きこと。そうは思わぬか」

「思わない」

「なぜ」

「ノームのことを美しいと思ったことなど一度もない。姿も、声も、生き方も。お前は全てが醜い」

 ノームの表情が固まった。頭を抱えて、揺さぶり始める。

「醜い……、このわたしが? この姿だからか」

「違う。どの姿だろうと、お前がしてきたことがお前を作っている。だからだ」

 そのとき、黒いオーラが花の形になってノームにまとわりつく。

『耳を貸してはなりません。ノーム様、あなたは美しい。その大いなる力を使い、ここまで美しくなったのです。この者の言うことに惑わされては……』

 黒い花はピタリと言葉を止める。

「なんだ。どうした」

 ノームは振り返るが、黒い花は身をくねらせて悶えている。

 様子がおかしい。

『い、いや、熱い。何をぼーっとしている、ノーム! 早く消火を……ああああああああ!』

 黒い花は燃えて消し炭のように消えた。花だった黒いものを握りしめて、ノームはしゃがみ込む。

「お、おい! そなたがいないとわたしは、わたしは……」

「「ノーム王……」」

 全ての力を失ったかのように、花の精霊の女王と宝石の精霊の王は姿を消す。
そして、ガラガラと部屋の、いやノームの巨像の崩壊が始まった。

しおりを挟む

処理中です...