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シルフ編
第83話 強い風が吹く
しおりを挟む「エレメンタルハーフって、精霊の、それもシルフの血を引く人たちってことだよね」
ルーシャちゃんを見つめて、首を捻る。
ザックさんにも聞かされたけれど、まだ詳しく説明を受けていない。
「そうですわ。でも、ただ血を引いているだけではありませんの。先ほど話したように精霊の言葉が分かる。ただ、自分のパートナーに限りますわ」
「あれ? でも、ルーシャちゃんに初めて会ったとき、わたし、ミルフィーユを盗っちゃったんだよね」
言葉が完全に通じるなら、どうしてミルフィーユはルーシャちゃんから離れようとしたのだろう。
「そうそう。そのとき、ユメノがミルフィーユにルーシャの方について行ってって言って、ルーシャを追いかけていったんだよね」
エルメラがすごく余計なことを言ってしまった。
「な、なんですって?」
思った通り、ルーシャちゃんは顔を真っ赤にさせる。すぐに精霊石から、ミルフィーユを呼んだ。
「ミルフィーユ! あなた、やっぱりわたくしの方が主人に相応しいからと言って、自分から戻ってきたのではありませんの!」
ルーシャちゃんは、ミルフィーユの口先を指さして怒り心頭だ。
するとミルフィーユはそっぽを向いて口笛を吹くような素振りをする。
「嘘も方便ですって!? どうせ、わたくしから怒られるのが嫌で嘘をついたのでしょう!」
どうやら、ミルフィーユは嘘をついていたみたいだ。でも、これで本当に精霊と話が出来ると分かった。
「相変わらず、二人はケンカばかりのようじゃのう」
長老がひげを撫でながら、微笑ましそうにしている。
そういえば、この浮島に飛んでいくときもルーシャちゃんとミルフィーユはケンカしているみたいだった。
「エルメンタルハーフって、精霊の話すこと以外に何が出来るの? 精霊使いとして特別素質があるとか?」
わたしは長老に尋ねてみる。
「確かに精霊使いとしての素質は地上の人間よりはあるじゃろう。全員が精霊と意志を通じ合わせられるわけじゃから。しかし、特別素質があるのはユメノの方じゃないかの」
「わたし?」
ちろりと長老からの目線を受けて、自分を指さす。
「ユメノは声優なんだよ。違う世界で声のお仕事をしていたの。すごいんだよ。いろんな声が出せるの」
エルメラが自分のことのように胸を張って言う。
「ほう。なるほど、それは特別なことかもしれぬの」
「ううん。そんなことないよ」
わたしは首を振る。
「確かに元から持っている声質も関係ないとは言わない。だけど、わたしがもっている技術は全部努力で得たものだよ。声優の世界って厳しいんだから!」
自分で言いながら、うんうんと腕を組んで頷く。
わたしだけじゃなくてオーディションでは毎回、みんな努力しているなって感じる。やっぱりなるべく早く戻って勘を取り戻さないといけない。
「努力で……」
ルーシャちゃんが、ぼんやりとつぶやく。そのときだ。
突然、辺りが暗くなる。
「え。何?」
焚火も松明の火も消えている。
どうしたのだろう、突然。誰かが消したというわけではない。
「この風……」
ルーシャちゃんがつぶやく。
「シルフの風じゃ」
長老が言った途端に、ゴッと強風が吹き荒れる。
生暖かくて、じっとりとした風だ。わたしの長い髪が大きくなびく。
「子供たちを家の中へ! 男たちは武器を取れ!」
ザックさんの声が聞こえる。
でも、こんなに暗くちゃ、家に入るのにも手間取っているみたい。
「そうだ! ホムラ!」
わたしは杖の精霊石に声を掛ける。
すると赤い光の玉が出てきて、火の蛇が出てきた。辺りは少し明るくなる。
けれど、わたしたちの周りだけで、しかも強い風にあおられて消えてしまいそうなほど、ホムラの炎は揺れている。
「それなら! 我と契約せし、火の精霊ホムラよ。紅蓮の業火を燃やし、その身を我にゆだねたまえ。その真なる力を解放せん」
「きゅるる!」
解放されたホムラは、さっきよりもいっそう辺りを照らしている。
風にだって負けやしない。
「消えている松明に火を付けて行こう!」
わたしたちは塀を飛び降りて走り出す。
「あ! 待ってユメノ」
「お待ちなさい!」
エルメラとルーシャちゃんもついて来た。
「さぁ、これに火を点けて」
「きゅる!」
消えていた松明に火を点けると、精霊のホムラの炎だからか風に揺れても消えずにいる。逃げまどっていた子供たちも火を頼りに家の中に入っていった。
次々と付けて行って、五か所目をつけ終えたときだ。
「正体が見えたぞ!」
イオの声だ。
上に向けて剣を構えている。わたしも上を見あげて、シルフの正体を見た。
「……また、黒い影」
全身が黒いシルフは人型に、黒い蜘蛛のように尖った羽を生やしていた。
精霊ギルドで見た彫像とは全く違う禍々しい姿だ。
「シルフ! ねぇ! あなたにも何か事情があるんでしょ!? 答えて!」
わたしはサラマンダーのときのように声をかけた。
だけど、シルフは全く反応せずに、村の子供に覆いかぶさるように羽を伸ばして捕まえようとする。
「はぁッ!」
ザックさんがすんでのところで槍で防いだ。
シルフの心臓を完全に突いたように見えたけれど、シルフはバラバラに黒いもやのようになって、またすぐに上空で合体する。
「シルフの影に声も攻撃も通じない。ここを防ぐには精霊の力が必要だ。みんな、行くぞ!」
ザックさんが村の男の人たちに声を掛けた。いつのまにか、槍や剣を持って武装している。
彼らの肩にはそれぞれ鳥の精霊がとまっていた。
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