声優召喚!

白川ちさと

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シルフ編

第87話 自信喪失

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 この夜、怪我人たちの手当てもひと段落すると、わたしたちはルーシャちゃんの家にお邪魔することになった。

「いらっしゃいませ。ルーシャが大変世話になりました」

 迎えてくれたのは厳ついひげの生えた男性だ。

 ルーシャちゃんのお父さんだそうだ。

「ユメノさま、イオさま。ルーシャは迷惑をかけたでしょう。昔からこの子は何も出来なくて、申し訳ない」

 ルーシャちゃんのお父さんは、申し訳なさそうな顔で頭を下げる。

「い、いえ! 頭をあげてください。ルーシャちゃんはわたしを助けてくれましたから、感謝しているぐらいです」

 すると、心底意外そうな顔をするお父さん。

「ルーシャが?」

「はい。サラマンダーと戦ったときに炎から守ってくれたのは、ルーシャちゃんの精霊のミルフィーユです」

「そうでしたか……」

 信じられないみたいだけど、事実は事実だ。

 わたしたちはそれぞれ部屋に案内される。わたしを部屋に案内したのは、ルーシャちゃんだ。もう夜も遅い。

 あくびをしそうになりながら、ルーシャちゃんを振り返った。

「じゃあ、ルーシャちゃんおやすみなさい」

 ドアを閉めようとする。

 だけど、そのドアをルーシャちゃんが押さえた。

「ん? どうしたの?」

「……わたくし。どうしてシルフはわたくしを選んだのですの?」

 どうしてシルフはルーシャちゃんを選んだか。

 それはわたしにも疑問だった。そこにはSランクのシュルカさんがいたのに。

 でも、考えられることは一つだろう。

「んー。本人が言っていたように、ルーシャちゃんには隠れた力があるんじゃないかな?」

 そうとしか言いようがない。

 だけど、ルーシャちゃんは声を荒げた。

「嘘ですわッ! そんな力がないことは長老だって知っていましたもの!!」

「でも……選んだのはシルフだし。それにルーシャちゃんは力がないわけじゃないじゃない」

「それは精霊使いだとしたらですわ。エレメンタルハーフとしてのわたくしは半人前にもなれないんですの……」

 そう言ってルーシャちゃんは俯いてしまう。

 これほど自信のないルーシャちゃんは初めて見た。

 いつも有り余るほどの自信で溢れていたのに。 

「半人前にもなれないって、どういうこと?」

 エルメラがルーシャちゃんの前に飛んでいって尋ねた。ルーシャちゃんは目をそらして、震えるような声で言う。

「……お兄様たちは、パートナーの精霊と融合していたでしょう」

「うん」

「わたくしはそれが出来ませんの。普通、十歳ぐらいになったら、村の子はみんな出来るようになるのに」

 ルーシャちゃんが村に帰りたがらない理由が分かった。村を出た理由も。

 十歳になったら皆が出来るようになることが出来ない。肩身が狭いに違いなかった。

「それは何か理由があるの?」

「分かりませんの。でも、最初にミルフィーユと融合しようとしたとき、精霊の感覚にわたくし怖くなって。それで失敗してしまいましたの。それはよくあることで、次第に慣れて行くものですけれど……、わたくしだけは、いつまでたっても出来ないまま」

 何と言っていいか分からなかった。何となく分かる話だ。

 わたしは実は自転車に乗れない。はじめて乗ったときに坂道でスピードが出過ぎて怖くなってしまったんだ。それと同じような話じゃないかとは思う。

 でも、未だに自転車に乗れないわたしには、どうアドバイスしてあげればいいか分からない。とにかく練習するしかないって言っても、散々したんだろうから――。

 そんな風にわたしが悩んでいるとエルメラが声を上げた。

「そうだ! ルーシャもユメノに声優を習えばいいよ!」

「え! 声優を!?」

 ルーシャちゃんより、わたしの方がびっくりした。

「声優って、ユメノが話していた違う世界の技術ですの?」

「うん。そう! エレメンタルハーフとしてダメでも、精霊使いで一流になればいいんだよ!」

 エルメラが言うことに、確かにそれならシルフの力を引き出して村の人も納得するとは思うけれど。

「でも、ルーシャちゃんはそれでいいの?」

「……わたくしもユメノのようになれますの?」

 ルーシャちゃんの瞳はしょんぼりしているけれど、どこか期待の光があるように思えた。

「そうだね。声優は誰にでもなれるし、誰にでもなれない。特にアニメのないこの世界では」

 そもそも、アニメがないのに声優を教えるって言っても。

 当てるキャラクターがいないと難しいかも。

 とはいえ、常識的なことは今のルーシャちゃんには必要ない。

 わたしは顔を上げて、出来るだけ安心させる笑顔を作る。

「でも! ルーシャちゃんには素質がある!」

「本当に?」

 可愛い声をしているから、向こうの世界なら絶対にファンがつく声優になれるだろう。

 問題は技術だ。

「授業をしてあげる! その代わり、わたしの授業は厳しいんだからね!」

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