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シルフ編
第90話 VSペンギン
しおりを挟むキュウキュウ鳴くペンギンたち。
風をきってサラマンダーへ体当たりしてくる。まるで捨て身の攻撃だ。
「うぬぬぬ! 吾輩がそれしきの攻撃で倒れると思っているのか!」
サラマンダーも避けるように羽ばたくけれど、全部は避けきれない。
わたしたちが背中に乗っているから、むやみに動けないからだ。
「ホムラ!」「クロック」「ミルフィーユ!」「クロキカゼよ」
一斉にそれぞれの精霊たちが精霊石から飛び出て来る。
「ホムラ! 敵を撃て!」
解放はせずに蛇のままの姿で、ホムラは火の玉を口から吐く。
一体のペンギンに直撃した。
「クロック! サラマンダーを守れ!」
空中だからどうするのかと思ったけれど、イオは土の精霊のクロックにサラマンダーを守らせた。お腹に体当たりしてくるペンギンを防ぐために、瞬間的に土の壁を作りだしていく。
「我と命を共にし精霊クロキカゼよ、我と融合せよ」
シュルカさんの場合は直接ペンギンを叩きに行く。
風の精霊のクロキカゼと一つになり、カラスの翼を背中に生やした。サラマンダーの背中に乗っているよりも自由が利く。
「クロキカゼ、風を斬り裂く刃を」
シュルカさんが手を出すと、羽から黒い風が集まって来る。それが一本の薙刀になった。柄の部分を持ち、シュルカさんは羽ばたく。
「さあ! 俺にいい風を浴びせてみろ!」
ペンギンの群れの中に飛び込んでいった。ペンギンに向けて薙刀を大きく振るう。
「ミルフィーユ! あなたも行きなさい!」
ルーシャちゃんは融合が出来ないから、ミルフィーユだけを向かわせるつもりだ。
だけど、小鳥のミルフィーユはふいと横を向く。
「な! 嫌ですって!? どうしてですの!? 多勢に無勢? でも、シュルカさんは向かっていったではありませんの!」
「な、なんかケンカし始めちゃった」
そうしている間にも、シュルカさんは薙刀でペンギンたちを一人薙ぎ払っていく。
飛ぶスピードもペンギンたちよりもずっと上で、薙刀からは黒い斬撃が飛んでいった。ペンギンの精霊たちは次々に空中に消えていく。
わたしとイオは、シュルカさんの攻撃から、たまにすり抜け出てくるペンギンに攻撃をする。サラマンダーを守り、事なきを得た。
エルメラがわたしの肩に乗り、安堵したように額をぬぐう。
「ふぅ。よかった。数は多かったけれど、一体一体は大したことなかったね」
「シュルカさん、お疲れさま」
シュルカさんも融合を解いて、サラマンダーの背中に戻ってきた。
さすがに体力を使ったからか、少し息を切らしている。
シュルカさんにルーシャちゃんは頭を下げた。
「……シュルカさん、加勢できずに申し訳ないですわ」
その頭をシュルカさんは黙って見つめている。
あまりに重たい沈黙なので、わたしの方が耐えられなかった。
「まあ、ルーシャちゃんがっていうか、ミルフィーユがいうことを聞かなかったんだんからしょうがないんじゃないのかな」
そう、フォローしたのだけど――。
「いや、パートナーの精霊がいうことを聞かないのは、主人に問題があるからだ」
シュルカさんは低い声でつぶやく。
いつもの調子なんだけど、今はより一層重たく響く。
「ミルフィーユがいうことを聞かないのは、わたくしが問題……? でも、こうなるのはたまにですし、いつもはちゃんということを聞くんですのよ」
ルーシャちゃんの言葉に、シュルカさんはふぅと息を吐く。
「風は気まぐれだ。それでも力を最大限に引き出すには、魂のこもった声が必要なんだ。大人たちから、よく言われただろう」
「そう、……ですけれど」
「融合出来ないのもそれが一因なのかもしれない」
すっかりルーシャちゃんはしょんぼりと肩を落としてしまった。
ゲーズの街で同じところにいたのに一緒に行動していなかったは、もしかしてこの二人相性が悪いからなのかもしれない。
シュルカさんは結構真面目で、ルーシャちゃんはいつも調子に乗りやすい。
性格が正反対なんだ。
「でもさ! 魂のこもった声が必要なんでしょ! ユメノに声優を習えば、きっとミルフィーユもいうこと聞くようになるよ。融合だって出来るようになるんじゃないかな?」
エルメラが重たい空気を払うように、ルーシャちゃんを元気づける。
「そ、そうだよ! 何かがダメでも、違う角度からアプローチするって大事だよ!」
わたしも、うんうんと頷く。
イオは基本無口だし、シュルカさんもおしゃべりなタイプじゃない。
ルーシャちゃんはいつもの高飛車な調子は完全になくなってしまった。
とにかく、この空の旅で、わたしとエルメラぐらいは明るくしていないといけない。
でも、最初からこんな調子で、四体もシルフの影を掴まえられるのだろうか。
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