声優召喚!

白川ちさと

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ウンディーネ編

第121話 吹雪のその先へ

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 わたしたちは再びソリに乗って、精霊の海の中央、水の神殿へ向かった。

 以前通ったときと同じく、だんだんと吹雪いてくる。それでも強引にツルオリが引っ張って進む。

「行け! この吹雪は同じ属性の精霊のものである! 力負けしてはならぬぞ!」

 メジロが声を掛ける度に落ちていたスピードが増す。

 だけど、それもそろそろ限界みたいだ。強く向かい風が吹く中、雪に埋まってソリは停止した。

 わたしたちは、最低限の荷物を持ってソリを降りる。

「ううう。目も開けられない……」

 腕で目に雪が入って来ないようにかばう。

「そろそろ、わたくしの出番ですわね。シルフ! ミルフィーユ!」

 ルーシャちゃんの精霊石からシルフとミルフィーユが飛び出してくる。

 二人とも強い風をものともしない。

「行くよ、ルーシャ!」

「ええ、ミルフィーユ! 融合ですわ!」

 ルーシャちゃんとミルフィーユが重なり、翼を生やす。

「さあ! わたくしたちで吹雪を追い返しますわ!」

 ルーシャちゃんは杖に風を纏わせ大斧を具現化させた。

 それを天に大きく振り上げる。

「僕も力を貸すよ!」

 シルフが風の玉を作って、ルーシャちゃんの斧の精霊石に放った。すると、大斧の周りに緑色の風が渦巻く。

「う……。これがシルフの力」

 大斧が重くなったのか、ルーシャちゃんの腕が振るえる。

「でも! 行ける!!」

 ルーシャちゃんは大斧を一直線に振り下ろした。

 ゴウッ

「うわ!」

 風の爆弾が目の前で弾けたようだった。向かい風だった風が一気に反対側に吹く。

「え……」

 あまりに強い風で、わたしは踏ん張りがきかずにふわりと身体が浮いた。

「きゃああああ!」

 そのまま風に吸い込まれて行ってしまう。

「ユメノ!」

「わ!」

 下から土の手が生えて来てわたしを掴む。イオが助けてくれたのだ。

 でも、ホッとしたのも束の間だった。

「う、ぬをおおお!」

「メジロ!」

 横を猛スピードでメジロが飛ばされていく。今度はイオも間に合わなかった。

「すぐ助けに……!」

 そのとき、耳を裂くような咆哮が聞こえる。

 ヴォォォォオ!!

「もしかして、エルメラが言っていた吹雪を起こしている強い精霊?!」

「うん! そうだよ! この先にいる!」

 エルメラが指さした方向はメジロが飛んでいった方向だ。

「ぜ、絶対ヤバイ!」

「イオ! ルーシャちゃん!」

 わたしは振り返って二人を呼ぶ。

「ああ、行こう」

「助けに行きますわ!」

 私たちは駆け出す。吹雪はもう止んでいた。




 ザクザクと新雪の上を出来るだけ速くと足を進めるけれど、そう簡単には進まない。

 それに――

「何も見えてこないね」

「でも、いるよ。すぐ近くに」

 エルメラは真剣な目で前を見ている。

「メジロは」

 メジロの姿も見えない。確かにこっちに飛ばされたはずなのに。

 だけど、目の前に何か見えて来た。石の柱が建っている。

「あ。水の神殿……」

 パルテノン神殿のような姿の石造りの神殿だ。氷に囲まれて、青色に光っている。

 荘厳な姿にしばらく見惚れてしまう。

 そのときだ。

「何者だ。ここはウンディーネさまを祀る神殿である」

 どこからともなく声が聞こえて来た。まるで空から降るような声に思わず顔を見上げて、首を巡らせる。

 エルメラが真上を見上げて言う。

「この声、精霊の声だよ!」

「え! 精霊なのに話せるの!?」

 普通の精霊はしゃべることは出来ない。ルーシャちゃんはパートナーの精霊なら話せるけれど、普通の精霊使いはそれも出来ない。

 話せるとしたら、サラマンダーやノーム、シルフのような精霊の王たちだけだ。

 そこで、あ、と思い出す。他にも話している精霊がいた。

「我はウンディーネさまの眷属なり。何人たりともここを通させはしない」

 眷属。ノームの部下の花の精霊の女王や宝石の精霊の王は話せた。

 きっと、それと同じことなのだろう。

 それならばと、わたしは大きな声で呼びかける。

「それは、ウンディーネの命令なの!? わたしたちはウンディーネを助けに来たの!」

 話が出来ると言うことは、きっと話も通じるということ。

 だけど、返って来たのはもっと強い拒絶の言葉だった。

「ならぬ! そう言って、我をたばかろうというつもりであろう!!」

 怒号が響いたと同時に、分厚い雲が覆っていた空から何かが降りて来る。

 それは水色の長い身体をしていて、黒く丸い目をこちらに凝らしていた。

「りゅ、龍!?」

 青いたてがみの龍が地に降り立つ。

 それだけで、ビリビリと殺気を肌で感じた。

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