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ウンディーネ編
第125話 穴の先
しおりを挟む足場が無くなって、わたしたちは真っ逆さまに落ちていくしかない。
――わけではなかった。
「ミルフィーユ!」
すぐにルーシャちゃんが叫んだ。ミルフィーユが出て来る。ルーシャちゃんがいる限り、落下して潰れてしまう心配はない。
「ツルオリ!」
だけど、メジロも黙っていない。穴の上からツルオリに命令して、大きな氷柱をたくさん振らせてきた。
「くっ! 邪魔でありますの!」
「ここは俺に任せろ」
イオが土の足場を空中に作って、ダンッと強引に跳躍する。
氷柱を剣で斬りつけていく。
その間に、ルーシャちゃんがわたしたちの下に上昇気流を起こした。ふわりと空中に浮く感覚がする。ルーシャちゃんがわたしの腰を抱えた。
「これで……、あ、あれ?」
これで上に向かって脱出できると思った矢先だ。辺りが真っ暗になったのだ。
もともと、落ちて来た穴からしか、か細い光が入って来なかった。上を見るとどうやらそれも、メジロによって閉じられたようだ。
「ホムラ!」
わたしはホムラを呼び出す。炎の蛇のホムラが杖に巻き付くと、暗かった辺りが少しは明るくなった。周りは氷の壁で、鈍く光を吸収している。
「……上に行くのは危険かもしれませんわ」
「ああ、きっとメジロが出て来るのを待ち構えているだろう。針のむしろだ」
イオは氷の壁に足場を作って立っている。
メジロの実力はこの旅で十分に分かっていた。
「じゃあ、下に行くしかないよね。でも、これってどこまで続いているの?」
エルメラがわたしのフードから出て、下を覗き込んだ。
確かに穴は光が全く届かないほど続いている。
そいうえば、水の龍がいない。上に残ったようだ。
エルメラが下をのぞき込みながら言う。
「この穴、メジロが堀ったのかな?」
「どうだろう。これほど深く掘る意味がない。自然にあった穴を利用したんじゃないか」
「とりあえず、こうしていても体力を消耗するだけですわ。降りてみませんこと」
ゆっくりと下へと下っていく。
慎重に降りたので、地面が見えて来るまで五分ぐらいかかった。
「一番下は氷じゃないんだ」
そこは硬い岩の地面だった。結構広くて、一軒家がすっぽり入ってしまうぐらいの空間だ。それに左右を眺めてみると、穴が続いている。
「洞窟になっているみたいだね。しかも鍾乳洞みたい」
垂れ下がった岩は、どうみても石灰の成分が溶けだして固まった鍾乳石に見える。
地面からも生えているから間違いないだろう。
水の精霊の王を祀る神殿の地下にあるだけあって、水が落ちる音がする。
「ただの洞窟じゃないんですの?」
「岩の形がわたしの世界の洞窟にそっくりってだけだよ」
「出口はあるだろうか」
たくさんある穴を見つめる。どれかが、出口に繋がっているといいんだけど。
「……こういうときってどうするの?」
イオはあごに指をかけて考える。
「そうだな。洞窟は探索したことはないが、印をつけながらしらみつぶしに調べていくしかないだろう」
確かにそれしかない。
「はぐれないように行こう。俺が先頭を、ユメノが真ん中、ルーシャが最後だ」
妥当な順番だ。灯りになるホムラはわたしのそばに居るし、前を行った方がいいんだろうけれど、ここではほとんど戦えない。
「エルメラ。精霊は出てきそう?」
そもそも、この洞窟は精霊が出てくるのだろうか。
「気配はするよ。でも、これは……ウンディーネの気配? さっき、上で感じたウンディーネとそっくりな気配がする」
「え? それって、この洞窟にウンディーネがいるってこと? でも、上で凍っていたよね」
「ウンディーネ本体じゃないかも、すごく薄い気配だから。どういうことかは、わたしにも分からないけど」
「うーん。よく分からないけれど、とにかく今はここを脱出しないとね」
わたしたちは出口を探すために洞窟を探索し始めた。
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