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ウンディーネ編
第127話 引き込まれる三人
しおりを挟む風に包まれて、わたしたちは水面の上を飛ぶ。
ゆっくりと湖に波紋を作りながら、穴の方へと向かった。
「全員では通れなさそうだね」
天井に開いている穴は、人ひとりぐらいなら簡単に通れそうだけれど、三人が横並びでは通れなさそう。
「では、イオ。三、二、一であなたを風で押し上げますわよ」
「ああ。剣で穴を広げればいいんだな」
イオの片手には剣が握られている。
「では行きますわよ。三、二……」
――いち。
わたしは心の中でカウントしていた。だけど、ルーシャちゃんの声は聞こえてこなかった。ルーシャちゃんはカウントを辞めて、後ろを振り向いたのだ。
「二人とも! 水が!!」
「え……」
後ろを振り返ると、静かだった湖面の水が、わたしたちのいる所までせり上がってきていた。水面から二メートルは上を飛んでいるのにだ。
その水がせり上がったまま渦を巻く。ゴオッと音を立てて、襲い掛かって来た。
「精霊の仕業か!?」
一番近くにいたイオが最初に標的にされた。
イオも黙って見てはいない。剣を振るって応戦する。
だけど、それは水の精霊じゃなくて水そのもの。剣は水を斬るけれど、すぐにまた形を作ってイオに向かってくる。
「くっ……」
水はイオに覆いかぶさった。
「イオ!」
水の勢いはすさまじく、ルーシャちゃんから手が離れてしまう。
湖の中に引き込まれてしまった。
さらにイオを襲ったもの以外にも湖から水がせり上がって、ルーシャちゃんに向かって来る。
「風は水には負けませんわ!」
ルーシャちゃんは羽を羽ばたかせて、迫って来る水に風をぶつけた。幾重にも重なった風は水を四散させる。
「イオ! いま助けに!」
ルーシャちゃんは湖に引き込まれようとしているイオに近づく。
「ル、ルーシャちゃ……」
わたしは完全に油断していた。
いや、たぶん油断していなくても、ルーシャちゃんに身を任せていたので、きっと出来ることなんて限られている。
そんなときに、後ろから水がわたしの身体を覆って来たのだ。よく考えたら、湖面の上にいるから、八方から囲まれていた。
水の圧力が強い。あっと言う間に、ルーシャちゃんから手が離れてしまう。
「ユメノ! このっ!」
エルメラの声が聞こえる。水にわたしを連れていかれまいとするエルメラを、わたしは必死に引きはがした。このままでは、二人とも溺れてしまう。
「今助けて、ッ! ……しまっ、た……」
おぼろげな視界にルーシャちゃんも水に捕まってしまうのが映った。
だ、ダメだ……。
わたしたちは湖の底に沈んでいく。
◇ ◇ ◇
「うそ……」
エルメラの小さなつぶやきが響くほど、洞窟は静まり返っていた。あれだけ水が暴れていたとは思えないほど、湖面は波紋一つない。
「みんな!」
エルメラは水面に近づく。
しかし、さっきまでなかった薄い氷の膜が張っていて、水中には行けなかった。
「イオ! ルーシャ!」
湖面をあちこち飛んで姿を探すが、姿すら見えない。
「ユメノォ!」
エルメラがいくら叫んでも、返事はない。
瞳から流れた水滴が湖面に落ちる。
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