声優召喚!

白川ちさと

文字の大きさ
141 / 153
ウンディーネ編

第141話 月へ行こう

しおりを挟む

 わたしたちがウンディーネをぽかんと見つめていると、サラマンダーたちが精霊石の中から愉快そうに話し出す。

「おお! 月に行くのは久しぶりではないか!」

「以前はよくピクニックに行きましたね」

「何百年も前のことだけどね」

 どうやら精霊たちは夜空に浮かぶ月と言っても、気軽に行けるみたいだ。

「じゃあ、四人で月の様子を見て来るんだね」

 ウンディーネが言う皆さんで月に行こうという話は、精霊の王たち四人でという意味だったみたいだ。

 自分たちも一緒かと思って驚いてしまった。

 だけど、ウンディーネはニコニコして言う。

「何を言っているのですか? もちろん、エルメラさまたちも一緒ですよ? 月は美しいところですよ」

 エルメラは目を丸くして、わたしを振り返った。

 わたしの世界でも月に行けるのかと聞きたいのだろうけれど、わたしも信じられない話だ。

 けれど、神妙な顔をしたイオが口を開く。

「……災いと関係があるかもしれない月に行くとして、どこに月があると思う」

 さすがに月には行けないと思うよという言葉を一度飲み込んだ。

 確かに月に行ける精霊たちも、場所が分からないと行けない。夜空には星しか無くて、月は太陽のように夜の間動いているはずだ。

 サラマンダーも、うーむと唸った。

「それは行ってみないと分からないであろう」

「そうだね。本当になくなってしまっていたなら、それはそれで確かめないと。でも、あれだけ大きなものが忽然と無くなるとは思えないよ」

 シルフの言うことはもっともだ。

「わたくしは見たことありませんけど、夜空にあるはずの月に行くのですわよね。サラマンダーの背中に乗っていきますの?」

「いやいやいや!」

 わたしはルーシャちゃんの言うことに、素早く手を振る。

 いくらサラマンダーの背中に乗っていけるとしても、宇宙には空気がない。
すぐに窒息してしまう。

「無理だよ!」

「ユメノの言う通りである。さすがに吾輩も休憩もなしに月には行けぬ。それに月は真上であるから、吾輩の背中では皆振り落とされてしまうであろう」

「そういう意味じゃないんだけど……」

 でも、やっぱりわたしたちが月に行くなんて無理なんだ。

 だけど、わたしのことは無視してウンディーネが話を進める。

「それに月はとても遠いです。わたしたちでも、以前月に行ったときは一月かかりました。エルメラさまたちも一緒なのに、それほど時間はかけていられませんね」

「以前は僕たちが休憩するのに、いかだを作ったね」

「ええ。わたしが樹々を出して、シルフが風で浮かせたのでした」

「うむ。ユメノたちが一緒ならばその程度では心もとないである」

 精霊の王たちは、わたしたちを余所に話し込みはじめた。


「月ってどんな所だろう」

「いくら何でも月には行けないと思うよ。エルメラ」

 きっと明日には諦めようと結論が出ているはずだ。

 とにかく今日は疲れた。食事を片付けると、わたしたちは寝ることにする。
毛布にくるまって、精霊たちの声を子守唄に眠りについた。




 トントントン、カンカンカン

「んー……、何の音?」

 まだ眠いのに何かを叩く音で目が覚めた。

「まだ眠いよー」

 上半身を起こすと、わたしのお腹の上にいたエルメラも文句を言う。

「でも、こううるさいと眠れないよ。ふわあぁ」

 大きなあくびをして、周りを見る。けれど、わたしたちが運び入れた荷物が置かれているだけだ。

 神殿にはイオもルーシャちゃんもメジロもウンディーネも、誰もいない。

 みんな、早起きだ。

 神殿の中にいないということは、外に違いない。エルメラを手の平に乗せて、神殿の入り口の方へと向かった。

 外に出ると、朝陽がまぶしく目を細める。そういえば、精霊の海はずっと雲が厚くかかっていたけれど、晴れたみたいだ。ウンディーネが復活したせいだろう。

 けれど、少し歩いたところで、足を止めた。

「え……」

 わたしは朝陽が照らす、それを見てあんぐりと口を開ける。

「何しているの?」

 エルメラも驚いていた。何もなかったはずの神殿の前では、土の人形であるゴーレムたちがたくさん働いている。ノームが生やしたのだろう、大木をノコギリで切り、金づちをもって大工仕事をしている。

 ノームが指示を出して、花の精霊の女王や宝石の精霊の王も手伝っていた。

「音の正体はこれかぁ……。でも、何しているの?」

 彼らが何をしているか、さっぱり見当がつかなかった。

「これは船を作っているのです」

「船?」

 気づくとすぐそばにウンディーネが立っていた。

「おはようございます、エルメラさま」

「あ、うん。おはよう、ウンディーネ。船って、もしかして月へ行くための?」

「はい。もちろんです」

 清々しい顔で言うウンディーネ。

 しかし、わたしの口角はぎこちなく動く。

「い、いやいや。船って、浮かぶところがないじゃない。空だよ、空!」

 思わず大きな声を出して、空を指さした。

「そうですね、今は」

「今は??」

「わたしが目を覚ました以上、精霊の海をこのまま凍ったままにしておくわけにはいきません。昔は人々にも愛される湖でしたから」

 人も寄りつけないくらい厳しい寒さの土地だけど、昔はきっと温暖で気持ちのいい湖だったのだろう。

 今のウンディーネなら氷も溶かせるみたいだ。

「ですが、氷を溶かすにあたって一つ問題があります」

「問題?」

「溶かしたら何か悪いことがあるの?」

 エルメラの顔を見て、はいと頷くウンディーネ。

「氷の土地は長い年月を経て、空気中の水分も雪が降り積もることで氷として堆積させています。それを全て溶かしてしまったら」

「そっか! 湖の容量を超えて、あふれ出ちゃうんだ!」

 ウンディーネはゆっくりと頷いた。

 きっと精霊の海の周りの森も水浸しになってしまうだろう。

「でもそれじゃ、ずっとこのまま溶かせないんじゃ……」

 ちょっとずつ溶かしていくぐらいしか思いつかない。

「そこで余剰になった水は天に昇らせようと思うのです」

「天に?」

「ええ。天に昇った水はシルフたちの協力を得て、まんべんなく雨として降らせます。地上には少し長く雨が降ることにはなりますが、溢れさせてしまうよりもずっとよろしいでしょう」

「「なるほどー」」

 わたしとエルメラは素直に感心した。

 雨を降らせるように調整することは、精霊の王たちの力だからこそ出来るのだろう。

 だけど、感心したのは束の間だった。

「そして、水を天に昇らせる勢いを利用して、船を空に上げるのです」

 わたしたちは目が点になる。

「どうですか。一石二鳥でいいアイデアでしょう」

 ウンディーネは誇らしげだ。

 でも、船を空に浮かべるなんて、聞いただけで、とんでもないことのような気がする。

 その上、わたしたちがその船に乗る!?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

処理中です...