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ウンディーネ編
第141話 月へ行こう
しおりを挟むわたしたちがウンディーネをぽかんと見つめていると、サラマンダーたちが精霊石の中から愉快そうに話し出す。
「おお! 月に行くのは久しぶりではないか!」
「以前はよくピクニックに行きましたね」
「何百年も前のことだけどね」
どうやら精霊たちは夜空に浮かぶ月と言っても、気軽に行けるみたいだ。
「じゃあ、四人で月の様子を見て来るんだね」
ウンディーネが言う皆さんで月に行こうという話は、精霊の王たち四人でという意味だったみたいだ。
自分たちも一緒かと思って驚いてしまった。
だけど、ウンディーネはニコニコして言う。
「何を言っているのですか? もちろん、エルメラさまたちも一緒ですよ? 月は美しいところですよ」
エルメラは目を丸くして、わたしを振り返った。
わたしの世界でも月に行けるのかと聞きたいのだろうけれど、わたしも信じられない話だ。
けれど、神妙な顔をしたイオが口を開く。
「……災いと関係があるかもしれない月に行くとして、どこに月があると思う」
さすがに月には行けないと思うよという言葉を一度飲み込んだ。
確かに月に行ける精霊たちも、場所が分からないと行けない。夜空には星しか無くて、月は太陽のように夜の間動いているはずだ。
サラマンダーも、うーむと唸った。
「それは行ってみないと分からないであろう」
「そうだね。本当になくなってしまっていたなら、それはそれで確かめないと。でも、あれだけ大きなものが忽然と無くなるとは思えないよ」
シルフの言うことはもっともだ。
「わたくしは見たことありませんけど、夜空にあるはずの月に行くのですわよね。サラマンダーの背中に乗っていきますの?」
「いやいやいや!」
わたしはルーシャちゃんの言うことに、素早く手を振る。
いくらサラマンダーの背中に乗っていけるとしても、宇宙には空気がない。
すぐに窒息してしまう。
「無理だよ!」
「ユメノの言う通りである。さすがに吾輩も休憩もなしに月には行けぬ。それに月は真上であるから、吾輩の背中では皆振り落とされてしまうであろう」
「そういう意味じゃないんだけど……」
でも、やっぱりわたしたちが月に行くなんて無理なんだ。
だけど、わたしのことは無視してウンディーネが話を進める。
「それに月はとても遠いです。わたしたちでも、以前月に行ったときは一月かかりました。エルメラさまたちも一緒なのに、それほど時間はかけていられませんね」
「以前は僕たちが休憩するのに、いかだを作ったね」
「ええ。わたしが樹々を出して、シルフが風で浮かせたのでした」
「うむ。ユメノたちが一緒ならばその程度では心もとないである」
精霊の王たちは、わたしたちを余所に話し込みはじめた。
「月ってどんな所だろう」
「いくら何でも月には行けないと思うよ。エルメラ」
きっと明日には諦めようと結論が出ているはずだ。
とにかく今日は疲れた。食事を片付けると、わたしたちは寝ることにする。
毛布にくるまって、精霊たちの声を子守唄に眠りについた。
トントントン、カンカンカン
「んー……、何の音?」
まだ眠いのに何かを叩く音で目が覚めた。
「まだ眠いよー」
上半身を起こすと、わたしのお腹の上にいたエルメラも文句を言う。
「でも、こううるさいと眠れないよ。ふわあぁ」
大きなあくびをして、周りを見る。けれど、わたしたちが運び入れた荷物が置かれているだけだ。
神殿にはイオもルーシャちゃんもメジロもウンディーネも、誰もいない。
みんな、早起きだ。
神殿の中にいないということは、外に違いない。エルメラを手の平に乗せて、神殿の入り口の方へと向かった。
外に出ると、朝陽がまぶしく目を細める。そういえば、精霊の海はずっと雲が厚くかかっていたけれど、晴れたみたいだ。ウンディーネが復活したせいだろう。
けれど、少し歩いたところで、足を止めた。
「え……」
わたしは朝陽が照らす、それを見てあんぐりと口を開ける。
「何しているの?」
エルメラも驚いていた。何もなかったはずの神殿の前では、土の人形であるゴーレムたちがたくさん働いている。ノームが生やしたのだろう、大木をノコギリで切り、金づちをもって大工仕事をしている。
ノームが指示を出して、花の精霊の女王や宝石の精霊の王も手伝っていた。
「音の正体はこれかぁ……。でも、何しているの?」
彼らが何をしているか、さっぱり見当がつかなかった。
「これは船を作っているのです」
「船?」
気づくとすぐそばにウンディーネが立っていた。
「おはようございます、エルメラさま」
「あ、うん。おはよう、ウンディーネ。船って、もしかして月へ行くための?」
「はい。もちろんです」
清々しい顔で言うウンディーネ。
しかし、わたしの口角はぎこちなく動く。
「い、いやいや。船って、浮かぶところがないじゃない。空だよ、空!」
思わず大きな声を出して、空を指さした。
「そうですね、今は」
「今は??」
「わたしが目を覚ました以上、精霊の海をこのまま凍ったままにしておくわけにはいきません。昔は人々にも愛される湖でしたから」
人も寄りつけないくらい厳しい寒さの土地だけど、昔はきっと温暖で気持ちのいい湖だったのだろう。
今のウンディーネなら氷も溶かせるみたいだ。
「ですが、氷を溶かすにあたって一つ問題があります」
「問題?」
「溶かしたら何か悪いことがあるの?」
エルメラの顔を見て、はいと頷くウンディーネ。
「氷の土地は長い年月を経て、空気中の水分も雪が降り積もることで氷として堆積させています。それを全て溶かしてしまったら」
「そっか! 湖の容量を超えて、あふれ出ちゃうんだ!」
ウンディーネはゆっくりと頷いた。
きっと精霊の海の周りの森も水浸しになってしまうだろう。
「でもそれじゃ、ずっとこのまま溶かせないんじゃ……」
ちょっとずつ溶かしていくぐらいしか思いつかない。
「そこで余剰になった水は天に昇らせようと思うのです」
「天に?」
「ええ。天に昇った水はシルフたちの協力を得て、まんべんなく雨として降らせます。地上には少し長く雨が降ることにはなりますが、溢れさせてしまうよりもずっとよろしいでしょう」
「「なるほどー」」
わたしとエルメラは素直に感心した。
雨を降らせるように調整することは、精霊の王たちの力だからこそ出来るのだろう。
だけど、感心したのは束の間だった。
「そして、水を天に昇らせる勢いを利用して、船を空に上げるのです」
わたしたちは目が点になる。
「どうですか。一石二鳥でいいアイデアでしょう」
ウンディーネは誇らしげだ。
でも、船を空に浮かべるなんて、聞いただけで、とんでもないことのような気がする。
その上、わたしたちがその船に乗る!?
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