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ウンディーネ編
第151話 後悔
しおりを挟むサラマンダーとわたしは、闇の眼のすぐ真横にまで飛んで来た。
ここなら、眼から落ちて来る闇にも当たらない。
『あの眼、きっと精霊なんだよね』
だから、わたしの声も聞こえている。エルメラもずっと精霊の気配を追って来たのだから、そうなのだろう。
「うむ。精霊、それも闇の精霊の眷属か何かには違いない」
『闇の精霊自身ではないんだね』
「闇の精霊であったなら、光の精霊が黙っていまい。それに闇の精霊よりも力は強くないように思える」
これで強くないと言ったら、闇の精霊はどれだけ強いのだろう。
「そろそろ突入するが良いか」
わたしは神妙に頷いた。
「では、参るぞ!」
突入なんてどうするのかと思っていたら、サラマンダーは炎を吐きながら闇の眼に羽ばたいていく。
『わっ! わっ! ぶつかる!』
魂の状態のわたしもぶつかるかは不明だけれど、闇の眼がすぐ目の前に迫った。
『馬鹿な火トカゲめ! 懐の中で潰してやる!』
金色の真っ黒な瞳の中にサラマンダーは突っ込んでいく。
『まさか眼の中に!?』
ボスッと少しの抵抗を感じたけれど、簡単に中に入った。
『真っ暗!』
思った通り、そこは闇の真っ只中。何も見えない。
「う、うぐ」
わたしは何ともないけれど、サラマンダーは苦しそうだ。見ただけで闇が圧力をかけていると分かる。身体を覆う炎だけでは、効果がないみたいだ。
『サラマンダー、炎で闇を晴らして!』
「分かっておる!」
サラマンダーは口から炎を辺り一面に吐く。サラマンダーを苦しめていた闇が退いた。
『やった!』
『無駄だ! 闇は際限なくお前を苦しめる!』
一度は退いた闇だったが、再びサラマンダーにまとわりつこうとしてくる。
「ユメノ! こやつの本体を探すのだ! 必ずいるはずである!」
『うん!』
サラマンダーは炎を吐きながら闇の中を突進した。
だけど、変幻自在な闇とはいえ、本体なんているのだろうか。闇の声はあらゆる方向から聞こえて来た。
『ここに来た時点でお前たちの負けだ! 召喚者を失い、唯一対抗できる火の精霊の王を失えば残った者たちにもう希望など残されていない! 奴らはこの月で力尽きるのだ!』
「……そんなこと、させないッ!」
『その虚勢がどれほど続くだろうな!』
わたしは目の前の闇を睨みつける。
本体がどこにいるかは分からないけれど、声は間違いなく届いていた。絶えず声をかけ続けて、本体への糸口を見つける。
今のわたしにはそれしか出来ない。
『今頃、奴らも後悔している。異世界から代わりの魂など呼ばなければ、あの者と行動を共にしなければ。こんな場所で闇に押しつぶされ死ぬことは無かったのにと! 地上で緩やかな滅びの中にいた方がましだっただろう!』
『そんなことは……』
「そんなことはないである!」
わたしが言い淀むとサラマンダーが叫んだ。
「ユメノが吾輩の元に来てくれて、吾輩を鎮めてくれた。これほど気分が晴れ、気持ちの良い日々は何百年ぶりであっただろうか。ユメノと友になり、共に旅をして本当に良かった! それは他の仲間たちも間違いなく同じ思いである!」
サラマンダーの言葉がジンと胸に響く。
ちょっとでも、闇の言うことも一理あるんじゃないかと思った自分が恥ずかしい。
みんなでたくさんの壁を乗り越えて来た。
だから、わたしたちはここまでたどり着いた。
『黙れ……』
闇がいきなり静かになった。
何か薄っすらと影が見える。もしかして、あれが本体なのだろうか。
『黙れ、黙れ、黙れーッ』
叫びと共に濃い闇があふれ出す。瞬時にサラマンダーを拘束した。
「ぐ……」
『純粋な光でもない炎の精霊風情が闇に敵うはずがない!』
『サラマンダー!!』
闇は無理やり、わたしとサラマンダーを引き離す。
『魂だけになったお前に手だしが出来ないと思ったか! 元の世界に帰れないように留めることぐらい出来る! あのとき素直に元の世界に戻っておけば良かったな! お前はずっと孤独に闇の中でさ迷うのだ!!』
魂だけになったから、寒さなんて感じないはずだ。
だけど、サラマンダーと引き離されて、確かにヒヤリとした感覚が背中を伝った。
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