広くて狭いQの上で

白川ちさと

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第二章 オランダ旅行編

第二話 倉野さんの叔父さん

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 飛行機は夜間飛行だ。日本を夜に出発して、向こうの朝に到着する。

 搭乗前にはしゃぎすぎたせいか、水上くんと機内の映画を観ると言っていたのに、ぐっすりと眠ってしまった。寝ている間にかなり時間が過ぎて、朝になると周りの物音でぼんやりと目を開ける。眠気まなこで朝食を食べた。

「若狭くん。どうやら、そろそろ到着のようだよ」

 窓際に座る津川先輩が窓の外を指さす。僕も身を寄せて、窓の外をのぞき込む。そこには、広大な緑の大地が広がっていた。

 やっぱりどこか日本の風景とは違う。

「海外に来たって感じだ」

「ははっ。まだ到着もしていないのに、気が早いよ」

 後ろの席の水上くんは茶化して言うけれど、彼と違って僕は初めての海外で、初めてのヨーロッパだ。

「わたしが初めて日本に行ったときも、そんな風に思った。空の空気まで違う」

 倉野さんは分かってくれたようだ。きっと、別の場所に来たという高揚感がそう思わせているのだろう。

 倉野さんがふふんと鼻先を上げて言う。

「砂の一粒まで違うということを分からせるから、楽しみにしているといい」

「……さすがに、そこまで違うとは思えないけれど」

 別の意味で倉野さんは張り切っているようだ。

 思えば、全十二日の日程で、飛行機で移動すること以外は、オランダの倉野さんの家に泊るということしか決めていない。

 期末試験やら、親に許可を取ることに夢中で、旅程などは何も考えていないのだ。

「……旅の準備もあったし。いまさらだけど、大丈夫かな」

 スマホがあるとはいえ、ガイドブックすらない。ひとりで迷子になって路頭に迷うことだけはしないようにしようと、心に決めた。




 オランダの国際空港に着いた。首都のアムステルダムから十キロと近い場所にある。

 倉野さんの家はアムステルダムの郊外にあるそうだ。

 僕らは荷物が流れて来るのを待つ。中々、倉野さんのスーツケースが出てこない。

「倉野さんの家族が待っているんだよね」

「うん、叔父さんが迎えに来る。大丈夫」

 本当に大丈夫なのだろうかと若干不安に思いつつ、待つしかない。スーツケースは本当に最後の最後に出て来た。

「やっと出て来たね。急ごう」

 これ以上、待たせてはいけないと四人で出口に向かう。

「……叔父さん、まだ来てない。連絡してみる」

 僕たちは並んで、空港のベンチに座る。倉野さんがスマホで連絡を入れていた。

「今、向かっている。あと十分ぐらいで着くって。もう! 到着時間はちゃんと伝えていたのに!」

 倉野さんが癇癪を起す。僕ははじめての旅で何でも物珍しく感じるけれど、倉野さんにとっては長旅で疲れているのだろう。

 津川先輩が苦笑いしてなだめる。

「国内と違って、国際線は遅れたりすることが多いからね。それを見越していたんじゃないかな」

「ねぇ、みんな! 売店にこんなの売っていたよ」

 いつの間にか水上くんがひとり離れて、買い物に行っていたようだ。手には水の入ったペットボトル四本と何かお菓子の箱を手にしている。

 相変わらず、食べ物のことには行動力があるなと妙に感心した。

「ああ。ストロープワッフル」

 倉野さんが水上くんの手から水を受け取って言う。

「ストロー?」

「ストロープワッフル。日本でワッフルって言うとフワフワのやつを思い浮かべると思うけど、これは薄く焼いて中にキャラメルを挟んでいる」

「へー」

「紅茶のカップの上で温めて食べたら美味しいけど」

 いま手にしているのは、冷たい水だ。温かい飲み物を買って来ても、温めることは無理だろう。

「うん。でも、そのままでも美味しいよ。温めても食べてみたいな」

 水上くんは気にせずお菓子を食べている。でも、確かに一枚もらって食べたら、ほどよく甘くておいしい。紅茶に合いそうだ。

「アナベル!」

 突如、ロビーに響いた大きな声。振り返ると、大柄のブロンドの男性が手を広げてこちらに歩いてきていた。

「バート叔父さん!」

 倉野さんは叔父さんと呼んだ男の人の胸に飛び込む。

「おかえり、アナベル!」

「叔父さん、ちゃんとひげ剃ってない!」

 無理やり頬ずりされている倉野さんは、いつもより子供のように見えた。


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