広くて狭いQの上で

白川ちさと

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第三章 学園祭準備編

第六話 尽きない悩み

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 次の日。僕らは温室に集まって、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 スタンプラリーの企画は出したい。けれど、やはり西棟の食堂を巡る争いに巻き込まれたくはない。

 かといって、審査の通る代替案がそう簡単に出て来るだろうか。

「どうしようか」

「美味しいごはんは食べたいけれど……」

「きっと負けた方からはトレジャーハンター部は敵とみなされるかもね。来年のことを考えるとそれは避けたい」

 津川先輩の言葉にまた僕らは唸ってしまう。

「こういうのはどう? たぶん、多数決になるだろうから、僕ら半々で票を入れて引き分けにするんだよ!」

「それだよ! 水上くん!」

 最高の解決案が出来た。そう思ったけれど、うーんと倉野さんが首をひねる。

「でも、どちらか圧倒的に美味しいとどうなる?」

 津川先輩も、そうだねと頷く。

「園芸部は家庭教師と手を組んでいる。運動部中心の野球部とはいくらスペシャルメニューのアイディアが良くても、美味しさでは勝てないだろう」

「ということは、自動的に園芸部の部長さんが勝つということでは……」

「でも、運動部の人たちから睨まれるのは勘弁だよ」

 慈従学園の運動部の人たちは、閉鎖された空間にいるからかほとんどがストイックな人たちばかりだ。視線で威圧されただけで、僕らトレジャーハンター部なんて吹き飛んでしまうだろう。

 倉野さんが肘をテーブルについて、指を組む。

「やっぱり、この勝負メリットない」

 僕も深く頷く。トレジャーハンター部はそもそも、学園最弱の部活。それがもっと隅に追いやられてしまうだろう。

 これだけ話し合って、出た結論ははっきりしていた。

「……そうだよね。今からでも、なかったことにしてもらおう」

 これが最善と、僕らは二組の部活の元へ向かった。




 まずやって来たのは、園芸部のところだ。園芸部は主に部活棟の裏を使っている。そこには、広々とした畑が広がっているのだ。

 ここの他にも、東棟と西棟の花壇の管理も任されている。

 さすがに、温室の植物の管理は特殊過ぎて任せてもらえないが、園芸部はとにかく一年中忙しくしている。規模も大きければ部員の数も多い。

「あれ? トレジャーハンター部の三人がどうしてここに?」

 雑草を抜いていた男子部員が、軍手に着いた土を払いながら立ち上がった。僕たちのクラスメイトだ。

「加賀くん。園芸部だったんだ」

「うん。知らなかった?」

 加賀くんは日に焼けた肌に八重歯を見せて、にっかりと笑った。クラスでもさわやかな彼は、どこか運動部に所属しているのだろうと勝手に勘違いしていた。

「わたしたち、園芸部の部長に用がある」

「ああ。部長? 部長なら、家庭科部のところにいるよ。最近はあまりこっちにいないかな」

「そっか。残念」

「もしかして、例のスペシャルメニューのこと?」

 加賀くんが周りを気にしつつ、声をひそめて聞いて来る。僕もこっそりと話す。

「そう。その、断ろうと思って。だって、僕らが審査員なんて荷が重いよ」

「そうだよね。俺たちも困っているんだ」

 あれ?と思った。園芸部の部長があれだけ張り切っているのだから、園芸部の部員たちも気合を入れているに違いないと思い込んでいた。

 けれど――

「もしかして、部長嫌われている?」

「いっ! 倉野さん!」

 僕は慌てて倉野さんの口をふさいだ。目の前の加賀くんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたけれど、すぐにハハッと笑った。

「そんなことないよ。これだけ、園芸部員がいるんだよ。嫌われていたら、まず部長になんてなれないよ」

 確かに畑で作業している部員は多い。畑の規模が大きいし、一番盛り上がる学園祭で中心の部活となるなら入部希望者も多いはずだ。

「ただ……」

「ただ?」

「元々、熱のある人なんだけど、最近さらに熱血というか。スペシャルメニューもそうだし、スペシャルのために他のメニューも見直すっていうんだよ。ほら、材料が限られているからさ」

「他のメニューも!」

 ただ一つメニューを増やすと言っても、意外と大事おおごとなのだと驚いた。

「スペシャル以前に、今年はなんか違うらしいんだ。毎年、七月の学期末テストが終わった辺りからメニューを考えるらしいんだけど、六月初めには部長が音頭を取っていたし。それからすぐに家庭科部と打ち合わせを始めて」

 説明を聞いて僕らは首をひねる。

「早めに決めて、料理の質をさらに上げたってこと?」

「そうだね、水上くん。そう考えるのが自然だよね。そのときは後々楽になるからいいかなって思っていたんだけど、スペシャルメニューなんてさ……」

 加賀くんの口から大きなため息が出て来た。あの猪突猛進の部長についていくのは大変らしい。

「頼むよ。トレジャーハンター部で、部長を止めて欲しい。まだ、余裕で間に合うからさ」

 僕たちはめまいがするような思いだ。だって、加賀くんの話だとそれだけ学園祭での模擬店出店に命をかけているってことだ。

 そんな人を簡単に止められるはずがない。

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