広くて狭いＱの上で

第四章 学園祭編

第八話 アリスの仮装の人

　僕たちトレジャーハンター部の四人はエプロンを外して、店内を振り返る。

「それじゃあ、よろしくお願いします！」

「うん。任せてくれて大丈夫だよ」

　代わりにエプロンを付けているのは、将棋部の部長さんだ。軽く手を振って見送ってくれている。

「じゃあ、まずはどこに行こうか」

　僕は学園祭のパンフレットを広げる。

　みんなでのぞき込んで、次々に行きたい場所を言い合う。

「二年Ｂ組のプラネタリウムに行ってみたいかな。なんでも、オリジナル脚本に力を入れたらしいよ」

「化学部のフランクフルト！　ガスバーナーであぶって、パリパリで美味しいらしいよ！」

「お化け屋敷って行ったことないから、行ってみたい」

「……わたし、スペシャル……」

　あれ？　聞きなれない声がした。頭の中で瞬間的に整理する。

　プラネタリウムに行きたいと言ったのが、津川先輩。

　フランクフルトを食べたいと言ったのが、水上くん。

　お化け屋敷に行ってみたいと言ったのが、倉野さん。

　そして、スペシャル……？？

「スペシャルって、園芸部と野球部が合同で出しているスペシャルメニューのことだよね」

「うん。そう」

　か細い声で返事が帰って来た。僕の妹と仲良くなったアリスの仮装をした女の子だ。お姉さんを探しているらしい。

「えっ！　こっちに来たの？」

　てっきり、僕の家族と一緒に行動して、お姉さんを探すつもりなのだと思っていた。すると、水上くんが人さし指を立てて言う。

「あ、もしかしてお姉さんが西棟の食堂にいるとか？」

「……わかんない」

　僕らは顔を見合わせる。

　声は聞こえにくいけれど、落ち込んでいる様子はない。元々、見つけるのは大変だと分かっていたような雰囲気だ。たぶん、この子はスマホも持っていないのだろう。

　すると、倉野さんが心得たように頷く。

「一緒に来るといい。名前は？」

「……アリス」

「明らかに偽名だけど」

「別に構わないさ。きっとお姉さんが見つかるまでの間だからね」

　津川先輩の言う通りだ。長くても一日の仲に違いない。

「じゃあ、アリスは西棟のスペシャルメニューが食べたいんだね。奇遇だな。僕もちょうど食べたいと思っていたんだ」

　ニッカリ笑った水上くんが親指を立てる。倉野さんも腕を組んで頷く。

「お昼どきは人多いだろうけれど、まあいい」

「うん。どちらにしても、行くつもりだったし。きっといつ行っても人が多いだろうから」

　スペシャルメニューの噂は、学園中に届いていた。

　そのうえ、あれからまた改良を加えたという。僕らは西棟の食堂へと足を向けた。