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ノーム編
第四十五話 城へ
しおりを挟む町の人々は普通の人々に見えた。精霊石を持ってもいなさそう。町は工芸が盛んなのだろう。金属を打ちつける音が聞こえてきたり、開け放たれた家で籠を編んでいる人がいたり。そのどれもが派手ではなくとも華やかなものが多い。
また驚くことに、たくさんの精霊が普通に町に馴染んでいる。窓辺に座った花の精霊が風に揺れ、小さな土の精霊がどんぐりのように転がって遊んでいた。精霊使いでもない小さな子供と遊んでいる姿も見られる。
にぎやかな町の中央の道を歩いて、少しわき道に入ったところでカッツェが一軒の家の前で止まる。
「外からの人間が泊まれる場所はここしかない」
看板も掲げていないし普通の家にしか見えなかった。他の家と同じように、窓辺や路地にはやはり花が咲いている。
「俺の家だ」
「え!」
カッツェの家と言われて驚く。花が飾られているのは同じだけど、他の家と比べたら結構大きい。ただの見張り番が住めるとは思わなかった。
「おーい、来客だ!」
カッツェは木製の扉を開けて、大きな声で二階へと呼び掛ける。
「はいはい。いらっしゃい。お久しぶりにカッツェさまのお客様ですね」
奥から白いエプロンをしたお手伝いさんらしいおばさんがやって来た。
「今日からここに泊まる旅芸人の三人だ」
「それはいいですね。町がにぎやかになります。お茶でも用意しましょう」
にこやかに歓迎するお手伝いさんは、奥の方へと向かう。さてと言いながら、カッツェがわたしたちを振り返った。
「俺に無断でこの家から出てはならない。特に夜は絶対に外に出てはいけない。いいな」
「なぜだ」
イオが尋ねると、カッツェが睨んで答える。
「昼には大人しく言うことを聞く精霊たちが、なぜか夜には狂暴になるんだ。この町の人間だって傷つけられる。命が惜しければこの家にいるんだな」
その後、わたしたちは二階の客室に案内され、ダイニングでジャスミン茶を飲んだ。暗くなってきた外を眺めながめる。一人一部屋用意された。しかも一部屋が広い。
とりあえず、わたしの部屋にみんなで集まって相談をする。
「なんで夜は精霊が狂暴になるのかな。そもそも、なんで昼間は大人しくいうことを聞くの?」
紅い精霊石がぼんやりと光って話す。サラマンダーの声だ。
「そばに精霊使いがいる様子もなし、ノームの力の影響であろう」
「やっぱり無関係ではないんだ。厄介だなぁ」
「でも、本物のノームを味方に出来れば、上手くことが運ぶのではないですか」
ムウさんの言うことに「確かにな」とサラマンダーも頷く。これだけの力を一介の精霊使いがどうにか出来るわけがない。ノームの力で昼は大人しく、夜は力が届かず狂暴になっていると考えるのが自然だ。そのノームをわたしたちの味方に出来れば、勝ったも同然だろう。
問題は本物のノームがどこにいるかだ。
「やっぱり幽閉されているのかな」
「されているとしたら、あそこだろうな」
イオが窓の外を指さす。あのサクラダファミリアのようなお城。暗くなってきたから、灯りがともされ出していた。
「明日、行ってみようか」
エルメラも窓辺に飛んで来て城を見る。
「でもカッツェも来るんだよね。見張られているのに大丈夫?」
心配そうなエルメラにわたしはカラッ笑って見せた。
「大丈夫、大丈夫。だって見に行くだけだもん。偉大なるノーム王の城を見てみたいんだって言えば大丈夫でしょ」
「たぶん、あそこに妖精の樹もあると思う」
窓際に座ったカカがじっと城を見つめていた。何か感じるものがあるのかもしれない。
次の日、朝ご飯のときにノーム王の城に行ってみたいとカッツェに伝える。
「なぜ、行きたいのだ! お前らまさか……」
「別にノーム王に刃を向けたりしないよ。ただ、やっぱり町でお世話になるなら統治している王様にご挨拶しておいた方がいいかと思って」
「なんだ! そういうことならいいだろう!」
カッツェは途端に笑顔になった。やっぱりこの見張り番は、ちょろいなと思ってしまう。
ということで、わたしたちは身支度を整えて城を目指す。カッツェの家を出て、小道を進むと大きな広場に出た。一段上がった丸いステージがあり、周りは花に囲まれている。花のステージだ。
「興行をするときは、ここで行うといい」
カッツェが言う通り、ベンチも置いてあり、町の憩いの場のようだ。その広場からさらに奥に続く道へ入る。奥へ行けば行くほど、神秘的な雰囲気に包まれていた。ホオズキのようなオレンジ色の丸い植物が花の咲く木に巻き付いている。
しかも、地面のこれは……、
「宝石!?」
ただの砂利ではなく色とりどりに光る小さな宝石が地面に敷き詰められていた。宝石が太陽の光を反射して、プリズムのように辺りは七色に光っている。宝石の道の脇をちらりと見て、さらに呆れた。
「普通に水晶が生えているし……」
神秘的を通り越してくどい気さえしてきた。しかし、カッツェは胸を張って当たり前のように答える。
「ノーム王が通る道だ。それ相応に美しくなければならない」
カッツェの美的センスは少しずれているみたいだ。百メートルぐらい歩くと、城が見えて来た。城の前には鉄の柵がある。門は閉じていて、その横には赤と青の宝石で出来た甲冑を着た騎士が守っていた。どう見ても歓迎している様子はない。
「入れないの?」
「当たり前だ! ここで深々と礼をするんだ。直接ノーム王に会おうなんて恐れ多いことだぞ!」
「ふーん。残念」
ノーム王に会って、わたしが腰布に隠してある精霊石に呼び掛けてサラマンダーが出てきさえすれば、それで終わりなのに。
イオが尋ねる。
「ノーム王にはいつ会うことが出来る?」
「会えないぞ。お前らやっぱり何かしようと」
疑ってくるカッツェに誤魔化すようにイオとの間に割って入った。
「そんな訳ないじゃない。わたしたちは立派な王様に、自慢の芸を見て欲しいだけだよ。ねっ、ムウさん」
「ええ。わたしのたて琴を聞いていただきたいですね。こちらで弾いてもよろしいでしょうか」
ムウさんはその場でたて琴を弾き始めた。美しい音色に怪しんでいたカッツェも黙りこくる。
「……そうだな。芸を見ていただく機会があるとしたら、来月の奉納祭だな」
「奉納祭?」
「ああ、日ごろの感謝を込めて、踊りや歌をノーム王に奉納するんだ。なにしろ、ノーム王は美しいものがお好きだ。お前たちが町で一番の芸だと認められたら、披露してもらうことになるだろう」
なるほど。まずは町での興行が鍵を握るってことだ。
「それじゃ、戻って最初の興行の準備と行きましょうか」
わたしたちは回れ右をした。戻る道を歩いている途中、カカが小さな声でささやく。
「やっぱり、妖精の樹はあの城の奥にあるみたいだ。でも、弱ってきている。感じるんだ」
予想通りだけれど、弱って来ている妖精の樹をどうやって助けるのだろう。お医者さんがいるわけじゃないんだ。それとも妖精たちなら分かるのだろうか。どちらにしても、まずはその妖精の樹にたどり着かないと分からない。カカはさらに続ける。
「この森の異常な絢爛豪華さは、妖精の樹の力を吸い取っているに違いない。早く助けてやってくれ」
そうは言っても、ことは簡単には運ばなかった。
わたしたちは行きに通りがかった広場に戻ってきた。すると、人だかりが出来ていて、笛や太鼓の音が聞こえてくる。手拍子の音も聞こえてきた。
「わたしたちの他にも旅芸人がいるの?」
「いや、これは町の楽団と踊り子たちだ。たまにこうして踊っているんだ」
どんな踊りなのだろうと、背伸びをする。ステージが少し高くなっているとはいえ、大人たちが取り囲んでいてはよく見えない。
「ねえ、イオ」
どんな感じ? そう聞こうとしたときだった。だけど、イオは真正面を見てポツリとつぶやく。
「ジュリ……」
「え?」
「ジュリ!」
イオが突然叫んで、人の壁をかき分け始めた。こんなこと、サラマンダーを目の前にしたとき以来だ。
「ジュリって、どこかで聞いたような……」
けれど、それが分かる前にイオは人の間に消えてしまう。
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