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5章 エイリアン・セルフィ―
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「まあ、そういうわけなので、まずは病気についてしっかり理解し、ゆっくり認知の歪みを解きほぐしていけばいいでしょう」
「認知の歪み? よくわかんないですけど、カウンセリングに通えってことですか?」
「もちろん、それも大事ですが、まずはスマホを捨てることからはじめましょう」
「ス、スマホを捨てる?」
萌花はぎょっとした。まずは、と、軽く言うくせに、めちゃくちゃハードなミッションだ。
「なんでいきなりそんなことしなくちゃいけないんですか!」
「あなたのような人にとっては、スマホのカメラを使うこと自体が危険だからです。そもそも、スマホのカメラは実は自撮りにかなり向いていないのですよ。普通に至近距離から自分の顔を撮影すると本来のサイズより鼻が大きく写ってしまいますからね。実際、欧米ではこれに悩まされている人も多いのです。こんな認知の歪みを誘発するようなデバイスは、極力使わないほうがいいに決まっているのです」
「そんなの知りません! だいたい、今時、スマホがなかったら、何もできないじゃないですか!」
「できますよ。電話は家のものがあるでしょう。お友達とは学校で交流すればいいでしょう。調べ物は家や図書館のパソコンを使えばいいでしょう。ほら、何も不自由しないじゃないですか」
「します! それだと、どこかお店に行ったときとか、SNSの更新ができないじゃないですか!」
「更新する必要なんてないでしょう。むしろ、今すぐSNSのアカウントをすべて削除したほうがいいです」
「アカを削除?」
またぎょっとした。この男、いきなり何を言うんだろう。
「何言ってるんですか! あなたもさっき、見たじゃないですか! 私のアカ、フォロワーがやっと千人突破したんですよ! みんな更新を楽しみにしてるんですよ! やめられるわけない――」
「いえ、スマホもSNSも、やめなければ何も解決しません」
ウロマはきっぱりと言い切った。
「先ほども説明したとおり、あなたの心の病気の原因は、スマホを使った自撮りの修正の繰り返しにあります。また、それをSNSにアップするのも大いに悪い影響があるでしょう。それらの、いわば宇宙人顔生産供給ルートを断ち切らない限り、あなたの苦しみは未来永劫なくなりません」
未来永劫って。もはや言葉遣いが霊感商法の業者みたいだ。
「さあ、最初の大きな一歩を踏み出しましょう。まずは、この場でSNSのアカウントを削除です。さあ!」
と、ウロマの掲げた手には、なんと、萌花のスマホが握られていた。いつのまにパクったのか。萌花は手を伸ばし、あわててそれを奪い返した。
「ア、アカの削除とか、別に今じゃなくてもできるでしょ!」
「できません。今やらなければ、あなたはこれからもSNSを続けるでしょう。そして、それでは、当然スマホ断ちもできません。今、この場で、すべての未練を断ち切る必要があるのですよ」
ウロマはまた強い口調で言うと、椅子から立ち上がって、スマホを握り締める萌花に迫ってきた。
「さあ、削除! 何はともあれ削除! 削除削除削除!」
「うう……」
なんという鬱陶しさ。迫力はないが、薄気味悪さがパンパない。その濁った瞳の、なんと禍々しく光っていることか。
「わ、わかりました、私――」
「おお、やっと削除する気に!」
「帰ります!」
と、萌花はスマホを握り締めると、一目散に悪魔のいるカウンセリングルームから逃げ出した……。
「認知の歪み? よくわかんないですけど、カウンセリングに通えってことですか?」
「もちろん、それも大事ですが、まずはスマホを捨てることからはじめましょう」
「ス、スマホを捨てる?」
萌花はぎょっとした。まずは、と、軽く言うくせに、めちゃくちゃハードなミッションだ。
「なんでいきなりそんなことしなくちゃいけないんですか!」
「あなたのような人にとっては、スマホのカメラを使うこと自体が危険だからです。そもそも、スマホのカメラは実は自撮りにかなり向いていないのですよ。普通に至近距離から自分の顔を撮影すると本来のサイズより鼻が大きく写ってしまいますからね。実際、欧米ではこれに悩まされている人も多いのです。こんな認知の歪みを誘発するようなデバイスは、極力使わないほうがいいに決まっているのです」
「そんなの知りません! だいたい、今時、スマホがなかったら、何もできないじゃないですか!」
「できますよ。電話は家のものがあるでしょう。お友達とは学校で交流すればいいでしょう。調べ物は家や図書館のパソコンを使えばいいでしょう。ほら、何も不自由しないじゃないですか」
「します! それだと、どこかお店に行ったときとか、SNSの更新ができないじゃないですか!」
「更新する必要なんてないでしょう。むしろ、今すぐSNSのアカウントをすべて削除したほうがいいです」
「アカを削除?」
またぎょっとした。この男、いきなり何を言うんだろう。
「何言ってるんですか! あなたもさっき、見たじゃないですか! 私のアカ、フォロワーがやっと千人突破したんですよ! みんな更新を楽しみにしてるんですよ! やめられるわけない――」
「いえ、スマホもSNSも、やめなければ何も解決しません」
ウロマはきっぱりと言い切った。
「先ほども説明したとおり、あなたの心の病気の原因は、スマホを使った自撮りの修正の繰り返しにあります。また、それをSNSにアップするのも大いに悪い影響があるでしょう。それらの、いわば宇宙人顔生産供給ルートを断ち切らない限り、あなたの苦しみは未来永劫なくなりません」
未来永劫って。もはや言葉遣いが霊感商法の業者みたいだ。
「さあ、最初の大きな一歩を踏み出しましょう。まずは、この場でSNSのアカウントを削除です。さあ!」
と、ウロマの掲げた手には、なんと、萌花のスマホが握られていた。いつのまにパクったのか。萌花は手を伸ばし、あわててそれを奪い返した。
「ア、アカの削除とか、別に今じゃなくてもできるでしょ!」
「できません。今やらなければ、あなたはこれからもSNSを続けるでしょう。そして、それでは、当然スマホ断ちもできません。今、この場で、すべての未練を断ち切る必要があるのですよ」
ウロマはまた強い口調で言うと、椅子から立ち上がって、スマホを握り締める萌花に迫ってきた。
「さあ、削除! 何はともあれ削除! 削除削除削除!」
「うう……」
なんという鬱陶しさ。迫力はないが、薄気味悪さがパンパない。その濁った瞳の、なんと禍々しく光っていることか。
「わ、わかりました、私――」
「おお、やっと削除する気に!」
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と、萌花はスマホを握り締めると、一目散に悪魔のいるカウンセリングルームから逃げ出した……。
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