死痕

安眠にどね

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「で、でも、今はなんともないじゃないですか。ほ、ほら、普通、人が死んだらあっけに取られてなにもできなくなるっていうか……。十五年前もそうだったんじゃないんですか?」

 暗くなった空気を明るくさせようと、依鶴が「ね、ね?」と声を張る。
 でも、笑顔はひきつっているし、無理をしているのが丸わかりな声だ。その態度は、沈み切った雰囲気の中で、妙にから回っていた。
 希望がまったくないわけじゃない。

 それは分かっているけれど、先の分からない恐怖と、人が死んだ現実感のなさ、次は自分かもしれないという疑いが、依鶴のその励ましに乗る気にさせなかった。
 依鶴が悪いのではない。
 こんな状況が悪いのだ。

「アンタの言う通り、今死んでないってことは、もしかしたら死ぬ決定的な行動が被ると死ぬのかもね」

 摩耶さんが、依鶴の言葉に、静かに同意した。
 おじさんと坪野氏の共通点。デスゲームを馬鹿らしい、と、けなして、不参加の意思を示したこと。そのどちらかが、死ぬトリガーとなってしまったのだろう。犯人が殺し合いをさせたかったのなら後者だろうか。

「――でもさ。普通さ、殺しあえ合えって言われて、殺し合いする? おっさんも十五年前の被害者も、馬鹿らしいって取り合わなかったじゃん。で、その人が目の前で死んだからって、さすがにすぐよし殺そう、ってならないっしょ」

 しかし、摩耶さんの言葉はとげとげしいものとなる。依鶴も、同じようなことを思ったのか、ひきつった笑顔をこわばらせ、ついには笑うのをやめて目線を落とした。

「つまり、あっけに取られた後は、協力して脱出を計画するわけじゃん。――でも、もしかしたら、それもできないかもしれないわけよ」

 脱出を目指して探索している途中で、十五年前と同じ行動を取ってしまったら。
 死ぬトリガーとなる行動を取ったら、十五年前に死んだ被害者と同じように死んでしまう。

 状況だけ見れば、それはかなり考えられるルールではあるけれど、結局は仮説だ。誰からか、そういうものだと明言去れたルールではない。確かめようにも、死んでしまうのであれば、名乗り出る人間なんていないだろう。わたしだって嫌だ。

「じゃ、じゃあ、事件終了後まで、身動き取らないでいる、とか……」

 依鶴の提案を「無理です」と一刀両断したのは晴海くんだった。

「十五年前は事件でしたので、ちゃんとした……って言ったらおかしいですけど、食料はあったそうです。事件があったのは十日間。水も食料もなしに、それだけ生きられるとは思いませんけど」

 百歩譲って、食料がないのは、なんとかなるかもしれないが、水がないのはかなりの痛手だ。人間は水がないとすぐに死ぬと、どこかのネット記事で読んだことがある。
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