私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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深夜のオフィス

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 同じメディファクト内のオフィス。深夜12時をまわったところだ。今日は夜間清掃が行われる日で、ガラーンをした部屋を先輩清掃おばちゃん達とチームで回るのだ。昼間の清掃が終了し一度家に帰り仮眠してまた戻ってきた。稼がなければなかなか一人ぐらしをやっていけない。
 手順通りの作業を行っていた。仕事の確認を行う。チームリーダーの清美さん推定60歳が、
 「あ、美代ちゃん、悪い、一階の守衛さんに言って、6階の***の会議室の鍵をもらってきてくれない? 忘れてた」
 「はい、わかりました。今取ってきます」
 そう言いながら、一階の守衛室に向かう。エレベーターで難なく、一階まで行き、守衛さんから鍵を預かる。それまではよかった。守衛さんはこれから見回りだっといいながら、一緒にエレベーターで上に上がろうとした。だが、急に自分がトイレに行きたくなってきた。清美さんは休憩時間とかにめちゃうるさい。これは、今行くしかにないと思った。
 守衛さんにはどうぞ先に行ってくださいと話し、一階の奥の女子トイレに駆け込んだ。深夜のため静かで怖い。

 すべてを流しすっきりと女子トイレから出てくると、なにか隣の会議室のようなころで、ばんっと音がした。
えええ、なに?泥棒!!とか思って身構えながら、守衛さん!!!とか思っていると、いきなり後ろから羽交い締めにされる!!

 口も大きな手でいきなり覆われ、会議室のドアを開け、そこに私に体を密着させながらドアの隙間窓から見えない位置に立ってそっとドアを閉めた。

 「静かに……するんだ……」

 低音の威圧感ある声が耳元でする。だが殺気はしないのでそのままにしておく。

 「おおーーーい。どこですか~~? れ・ん・じさまーーーー」

 甘い女性の声とパンプスの高い足音が、誰もいない深夜の廊下を響く。

 「もーーーう。わたし、待てない!! 蓮司様に早く、して欲しいのーー」

 酔っ払っているのか、この女。それともただバカなのか?

 そして、その女性の足音がエレベーターの方向へ向かい消えていく。

 口を奪っている手が震えている。

 笑っているの? この人?
 
 振り返って手の持ち主を見ると、なんと脂汗を出しながら震えていた。

 (大丈夫ですか?)と小さな声で話すと、その蓮司様と呼ばれた男は、そのまま地面に倒れこんだ。

!!!!!!!!

 この後、床に倒れこんでいる美形を見つめながらどう考えても、この男はこの会社の大株主大原蓮司本人しかないと思った。事故にあってからネットで調べたのだ。大原財閥総裁 大原蓮司会長を……。

 「ムヒョーーーなんだ! このスーパーイケメン!」と、びっくりした覚えがあるからだ。

 これはまずあの補佐の真田に連絡したほうがいいと思い、彼の番号が控えてある名刺を出してダイアルした。

 真田がワンコールでさっと電話に出た。さすがだ。状況を知らせたら、救急車は呼ばなくていいと言われた。いつもの発作らしいっと説明を受ける。だから、悪いが、今外に自家用車をつけるので、それまでこの会長様を守ってくれと頼まれる。

 いやー、いま就労中なんだけどなーと思うけど、この脂汗を垂らしている男を放っておけない。

 守衛さんに頼もうかと思ったが、あの先ほどの女がエレベーターで上に行ったようだが、また帰ってきたらこの男が食われてしまいそうだ。
 すると、すぐにテキストが入り、一階の裏口に車をつけたのでいま迎えに行きますっと説明がくる。そうすると、かすかにトントンという音がし、スチールドアの間の窓から覗くとそこには黒服姿の伊勢崎さんが立っていた。

 「ああ、お久しぶりです。こんな時にですが、まあお元気そうで何よりで」

 伊勢崎は深く美代に対して頭を下げた。

 ぐったりと倒れている蓮司を見て、伊勢崎は美代に対してかるく頷くと、まるで老齢と思っていたのがまるで嘘のように、男はいきなりぐいっと、この大男を背中にかかえた。

 びっくりしていると、
 「すみません、ドアが開けられないので車までおねがいします……」
と、怪力の伊勢崎さんに頼まれる。その後、車の後部座席にその男をしまいこむと、またわたしに深いお辞儀と礼を述べた。

 「美代様。ありがとうございました。またお会いしましょう」

 そう言って別れた。わたしは鍵を持ったまま、外まで出てきてしまったことに慌てた。 急いでインターホーンを鳴らして中に入れてもらうが、かんかんの掃除リーダーの清美ちゃんが仁王立ちで待っていた。
 「あんた! うちの社長のお気に入りだからって、さぼっているんだったら、そう報告するからね!!」
と怒られる。
 その夜は、さんざん清美さんに嫌味を言われながら、床のポリッシャーをかけてその夜は終了した。
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