私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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長い狂おしい夜

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 マスターベットルームは綺麗に整えられていた。でも、まだ、就寝と思っていなかった吉澤がまだベットカバーをつけたままの状態にしてあり、まだ夜用にセットする前だった。本当なら、デザートなどがサーブされた時点で素早く夜用に整えるはずだったのだ。予定が大幅に変わったことで、吉澤の出る出番は、今はなくなった。

 蓮司が連れて来たこのマスターベットルームは、船内では一番豪華な部屋であるが、どこかちょっと温かみがある内装だった。マホガニーのサイドボードに、壁には風景画が飾られていた。やはり船の中の一室とは思えないような作りで、でも、窓から覗く円形状の窓からは、街の夜景がかすかに水上から並んで見えるところが、ここが海の上の船であると思い出させる。

 そして、もちろん、船であるから揺れている。
 抱きかかえながら部屋に入ってきた蓮司が美代に言う。

 「俺の首を持て」

 美代が蓮司の首を両手で捕まえた。
 その瞬間、蓮司はグワッと片手でベットの一番上にかかっていたベットカバーを取り除く。
 そして、この世で一番大切な物を置くように美代をそっと置いた。
 蓮司が切ない顔つきで美代を覗き込んだ。

 「美代……愛してる」
 「……はい」

 震えた声で美代が答えた。

 「逃げられないぞ……」
 「……うん」

 ベットに掛かる体重が増えて、軋んだ音がした。
 蓮司の前髪のセットが乱れ、その美しい鼻梁にかかっていた。
 沈黙の中に、何かはち切れんばかりの二人の感情がぶつかる。
 蓮司の体重が美代の顔を挟んでいる両腕に重くのしかかった。

「トゥィ ウ メニャー アドナー Ты у меня одна.」
「え、なんですか? またロシア語ですか? もしかして……悪口とか?」

 ふっと苦笑する蓮司がいる。

 「もう黙れ、美代……」
 
 美代の顔が蓮司の頭の影のなかにすっぽり覆いかかっていた。



***



 最初は優しいキスだった。

 初めてのキスではないのに、なぜか特別で、唇と唇がゆっくりとその感触を確かめるように、重なり合い、それがまた離れると、お互い無言のまま見つめ合う。それから、またさきほどの甲板でやられたようなキスに変わる。顔や首もとにキスの嵐だ。

 「美代、大好き」
 「美代、愛してる」
 「美代、ああ、信じられない」

 しかも、今回はされるたびに蓮司の甘い吐息付きとあって、美代はただただ、それを受け入れて、その容姿端麗な目の前の大人の男の言うがままになっていた。

 それでも、ただ受け入れているはずの美代にとってはかなり息苦しく、その蓮司の言葉とその唇に、心も体も全て根底から掬われ、奪われるようだった。だが、それが序の口であったのは、美代は後ですぐ知ることとなる。
 先ほどから、絶え間ない彼の吐息と唇が美代を狂おしいほどの感情の高まりへと導く。
 そのうちに蓮司のキスも荒れ苦しい、息もできないようなものに変わっていた。

 深いキスを初めて受けた美代は、息をとっさに吐き、叫んだ。

 「ああ、む、無理!かも!!!うっ」

 思わず蓮司を押して、自分の唇を両手で隠した。それを見た蓮司は驚いた顔をしたが、なぜか優しい笑顔に変わる。

 「大丈夫。美代、俺に任せろ………」

 今度は、先ほどの人の良いお兄さんの笑みは一瞬で消え去り、ニヤリと今世紀最大の詐欺師のような含み笑いをしながら、その唇を隠している手をゆっくりと手に取っていく。

 また、やられる!!っとビクっとした美代だったが、次の蓮司の行動にもっとやられた。蓮司が今度はもっと色気のある瞳で、彼女の手を持ちながら、美代の手にその柔らかい唇を落としていく。美代のその指を一本ずつ、さぞ美味しいもののように唇を押し付ける。

ーーええええ!なんで、手にキスがなんでこんなにやばいの?? なんなの? 蓮司会長!! エロ大魔王! 流石です。降参です。大人すぎ、私には手に負えない!! やっぱり、間違った!?どうなの!私!!

 その行為に悶絶しながら、美代は思う。任せろっと言われて、任したものの、さっきからこの任せっきりで、この美代は自分の身体も脳ミソもコンニャク状態なのだ。今度は蓮司が慌てふためいて顔を赤面させている美代を面白がるように、ふっと唇を離したかと思うと、美代の指を口に含んだ。その慣れない生々しい感触が美代を飛び起こさせた。

 「れ、蓮司! コンニャク!です」

 あまりに驚いた美代が叫んだ。
 意味がわからないことを叫んだ美代には、蓮司は冷静だった。

 「ふ、まだ喋る余裕があるんだな」

 すぐさま、また押し倒されて、蓮司がまた迫ってくる。

 「な、なに!?」

 そんな美代のわずかな抵抗は、次第に口から甘い吐息に変わっていた。

「はぁ、あ、だ、め、ああ、、、」

 悶える美代に、蓮司が答えるようなにキスを繰りかえす。もう蓮司を止めるものは何もなかった。

 「……無理だ。ああ、止められない」

 激しく美代の唇を奪い、相手を話させないほど美代を追い詰める。

 もう世界は二人だけ。船室のドアは固く施錠してあり、窓の外は海なのだ。外に波の音が微かに聞こえた。
 口先に美代の柔らかな肌や口を感じながら、蓮司は己の欲望をこれでも抑えながら、発散させていた。
 蓮司は自分を褒めたかった。こんなに感情の昂りを感じているのに、初めての美代を驚かしたくなかった。

 丁寧に、優しく、ゆっくりと……。

 そういうつもりだ。

 だが、自分の眼下で唇が腫れたように赤くなり、頬も首筋も上気して赤く染まっている美代の白い肌をみると、自分の欲情がどこまで抑えられるか正直、自信がなくなってしまう。正直、ここで、この今、美代を全て奪いたくなる。

 一つ一つのキスがまるで、自分の欲望の刻印のごとく、赤いマークを残していく。

 足りない。

 絶対的に、何かが、足りない。
 蓮司はふっと美代がさっき言った言葉を思い出す。

 『わかった。蓮司。今日は無礼講、最後まで楽しむよ。私』


ーーふっ、美代らしい開き直りだ。最後までなんて、

ーーえ?

ーーちょっと待て。

ーーなんて美代は言ったんだ?

ーーなんだって?!最後までって、どういうつもりだ? 体の関係の最後を言っているのか?

ーー美代、どういうつもりの最後、なんだ?

ーー今日の終わり?


 何か氷水を浴びたような気持ちになった蓮司は、その甘いキスを止める。

 「ダメだ。このままだと……悪いが美代、シャワーを浴びてくれ」

 目がトロンとした美代がボーーっと蓮司を見て、我に帰った。

 「あ、うん、そうだね。汗かいているから……」

 いそいそとベットを降りようとする美代をもう一度、後ろから抱きしめる。

 「美代。最後じゃない……始まりなんだ……」
 「え? シャワーが最後じゃないって意味がわからないよ、蓮司」
 「いい。シャワーでも、お風呂でもゆっくりしろ。おれは隣のゲストルームにシャワーを借りてくる」
 「わかった。じゃー、後でね」

 美代がバスルームに消える。
 自分は隣のゲストルームのバスルームのシャワーを浴びた。熱いお湯が自分の想いを抑えてくれるかと思い、ノブを全開にしてその水圧を体に感じた。その体に滴る水滴が、まるで自分の想いと迷いが入り混じり、体に纏いつくようだった。

 どういうことなんだろうか?  

 俺は美代のあの柔らかい感触に更け入っているばかり、何か大切なことを見落としているのではないだろうか?



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