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歩美、七瀬、蓮司の炎を見た

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 これらの出来事は、全てはあのニュースが報道される前に起こった。

 同じ場所に歩美と七瀬も呼んだ。
 すでにその時には白石はいなかった。
 そして学校の後、急な呼び出しでやって来ていた。理由はまだ聞かされていなかった。
 ただ、歩美は、白石のことではないかと直感していた。前に電話で話したとき、蓮司が頼んで来たのだ。
 「歩美さん、美代に近づいてくる奴らに気をつけてくれ。こちらでも対処しているが、知り合いが来る可能性もある。特に、白石という男だ。頼む……これは美代の身の危険の問題なんだ」
 だから、あの軽薄そうな弁護士が出て来た時は警戒した。電話の直後だったし。
 いま、いつになくシリアスな蓮司に二人は緊張する。しかも、通された部屋は、名ばかりの会議室で、尋問部屋のような簡素かつ、密閉空間だった。
 蓮司は詳しいことはあまり話さず、完結に説明した。
 美代の父親の会社の倒産と詐欺。詐欺集団が国際的犯罪に絡んでおり、もうすぐ決着がつきそうだが、身の安全も含めてなにも知らない美代をサポートしてほしいと頼む。また、白石が説明した実用新案権も実は暗礁に乗り上げていること。ただし、それがどのような目的のものか、明確なことは伏せた。美代の父親の名誉のためだ。
 唖然とした二人は、話の規模に驚きを隠せない。
 「じゃー、あの白石さんが言う、貴方が美代を騙しているって言うのはどう説明するんですか?」
 七瀬が口を尖らせて話した。彼なりの攻撃だ。美代の為に質問する。
 「ああ、さっきの特許の話しか。まあはっきり言って、俺の会社には全く必要がないものだ。俺は全く興味がないし、さっきも言ったが、美代が好きにすればいい。紙切れなんだから」
 「それを貴方は我々に信用しろと言うんですね?」
 「……七瀬と言ったな。お前は思ったより骨があるやつだな。美代のためにそこまで食い下がる。悪くないな。まあムカつくが、悪くない。白石よりよっぽどマシだな」
 「……」
 「答えはそうだ。信用しろとしか言えん。なぜなら、これ以上お前達も詳しい話は知らない方がいい。その方が身のためなんだ。俺は美代の為なら、荊の道を歩ける。もともとそんな道ばかりだったからな、それが好きな女のために出来るんだ。なんて幸せなことだ……」
 恍惚とした表情の蓮司を見て、歩美も七瀬もこの男の狂気を垣間見たような気がした。こんなことに幸せを見つけるなんて、まあこの様子から蓮司が嘘を言っているようには全く見えなかった。
 「でも、それって事実を美代に伝えないですか?」
 「七瀬、おまえも美代が好きだな。だったら、考えてみろ。好きな女が一人で天涯孤独と勘違いして生きているんだ。あいつはあいつなりの地獄を見たんだ。まだ、孤立無援と思っている奴にまた地獄を見ろと言えるか? せめて一緒に、それを見てくれる、見守ってくれる周りがいることを俺は証明したい」
 「蓮司さん……」
 七瀬が思わず声が出る。そこまで考慮している蓮司に驚いた。自分は、ただ美代に想いを伝えるだけで、精一杯なのに。
 七瀬を見つめる蓮司の視線が優しくて、さらにその男気に惚れてしまいそうだった。そんなことは御構い無しに蓮司は続ける。
 「確かにお前は、俺にとってけしからんライバルだが、美代の友達でもある。正直、まだあいつにはこの事実を受け止めるほどの心の余裕が残されているとは思えない。それを俺は待つ。一生かかるかもしれんし、俺にもよくわからない。でも、もしかしたら、先に警察から情報が流れるかもしれない。その時はお前達も支えてほしい。俺からの頼みだ」
 「でも、そいつらは罰せられないのかよ! 警察とか、なんとかならないのかよ」
 男言葉で歩美くらいついてきた。
 その時、二人は蓮司という男がどうやってあの大原財閥という巨大な魔物でも住んでいるような大組織の長であり続けているのかを思い出した。
 蓮司の姿の後ろにインフェルノ、業火が見えたような錯覚を覚える。
 「……関わった奴らはほとんどが裁きを受けているかこれから必ず受ける。もし、この今ある全ての資料で、行政の裁きを得ないとしても、美代の家族にそこまでして、この俺が、許すと思っているのか?」
 腹の奥底から出た声が、なぜか地獄の悪魔のような怒号に聞こえる。

 二人が恐ろしさのあまり身震いをした。

***

 約3時間前。

 実はあの尋問の時、蓮司は白石の父、白石製作所の社長、白石正夫を呼んでいたのだ。裏で全ての話を正夫は聞いていた。
 「と、父さん!」
 いきなり現れた実の父に驚きを隠せない海斗だ。
 正夫は、あの美代が清掃していたところの社長さんだった。美代達のような勤勉に働く人達を『日本経済の縁の下の力持ち』と言った人だった。
 「海斗。お前は、負けだよ。お金に釣られすぎた。美代さんが知らないまま、そんな騙したような金で貰って生きたとして、果たして幸せだろうか?」
 「でも、それしか道が……、あいつらを告訴しても、どの道こちらの資金が切れてしまうぐらい、あっちは最強軍団を用意してたんだ。俺でさえもビビるような奴らだよ」
 「……でも、それが最善な道なのか? 告訴出来なくても、プライドでその金を受け取らないってことも出来ただろう。しかも本当にそんな奴らは信用できるのだろうか? 金の為にだけに動く奴らだぞ」
 父親の言葉を黙って聞いている。
 「まあ、蓮司会長がその色々尽力をしたようだね。あまり詳しく聞かない方がお互いの身の為だ。親としては、お前を五体満足で返して貰えれば、万々歳だ。男として身を引け。それが美代さんにとってもお前との思い出が綺麗でいれるぞ」
 その思い出という言葉を考えた海斗が口を開いた。
 「わかったよ。親父。ここは身を引く。実の父親にここまで言われては、どうしようもないな。かっこ悪い。美代を本当に……よろしくお願いします」
 「当たり前だ。俺の前から永遠に消えてくれ。お前など、この白石社長の息子でなかったら、もっと酷い目にさせようと思ったぞ。父親に感謝しろ」
 「……そうですね。この資料を見ると、どんだけ貴方が恐ろしい人かわかります。一介の弁護士なんて、赤子を捻るように潰せるでしょうね」
 なぜか白石はニコリと笑顔になる。
 「だったら、永遠に消えてくれ。美代の前から……」
 「え、それは無理ですよ。だって、絶対に会長さんは、俺の計画を言わないでしょう? 美代を傷つけますもんね」
 図星な事を言われて、蓮司が殺気立つ。
 「お前! やっぱり、生かしておくべきではないな」
 「はーーーー! 悔しい! あの可愛い美代をこの野獣に取られるなんて! 俺なんだからな! 最初に見つけたのは!」
 「白石社長、悪い。もう一回こいつ殴っていいか? 殺さないから、頼む!」
 なぜか白石社長は眉間にシワを寄せて溜息をついた。
 殺し合いは始まらないが、この二人が永遠に仲が悪いことが決定した。
 「うわ~~、お願いします。やめてください! あ、だったら、一人目のお子さんが生まれた時ぐらいまで身を潜めます。だって、まあその頃には美代ちゃん、会長のことも飽きてるかもしれないからねーー!」
 「お、お前、殴らせろ!」
 「さようなら!! 親父、早く出よう!」
 「蓮司会長、申しわけない!!  失礼する」
 こんな調子で素早く白石親子は帰っていった。でも、最後に言葉を白石は付け加えてた。
 「でも、蓮司さん。本当に有難いございます。美代の仇をとってくれて。正直、僕には到底出来ないことだった。美代をよろしくお願いします。あ、でも、浮気されないように! 知っていると思いますが、美代って結構モテるから!」
 「し、白石! 死ねーー!」

 怒号が部屋に響いた。
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