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鏡の中の歩美
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自分が何をしたか思い出して、顔が熱くなる。
あの時に、じっとみつめてくる漆黒の瞳に耐えきれず、ガバッと席から立ち上がってしまった。
しかも、自分の口から出た言葉は、
「ご、ごめんない! ちょっとお手洗い、お借りっ、し、します」
彼の手を振りほどき、ほとんど走りながら、お手洗いに隠れてしまった。
バタンっとバスルームのドアを閉めた音と共に、鳴り止まぬ心臓をおさえた。
目の前の洗面台にある鏡に自分の姿が写った。
また残酷にも目の前の鏡が自分の悲惨な状況を無情に告げてくる。
乱れた髪。
子供のように焦っている自分の顔。
そして、それが嘘のつけないように紅く染まっていた。
ああ、なんてザマなの!
歩美!!
絶対に甘ちゃんだわ!!
気合いを入れなさいよ!
鏡の自分に叱りつける。
でも、もう一人の自分が鏡の中で言葉少なめに訴えていた。
「好きなんだもん、しょうがないじゃん……」
自分も鏡の中の自分に同情して頷く。
自分の中の戦力パワーが一気に落ちた。
ガックリする自分がいる。
もう鎧も何もない。
ただの恋する普通の女の子だ。
唇を押さえる。
あの人との大原邸でのキスを思い出す。
まるで昨日のように感じる。
胸の鼓動が鳴り止まない。
いきなり歩美は洗面台に水を流し始めた。
水の勢いが音でも感じられるくらい激しいものだった。
それをいきなりバシャバシャと顔に掛けた。
冷たい水が頬の熱を奪う。
ああ戻って、元の私!
目に水が沁みた。
ああ、ここにあの馬鹿蓮司が居れば、色々日頃の行いを突っ込めて、よかったのにと思う。
このやり切れないストレスをどこに持っていけばいいか分からなかった。
でも、お手洗いを出た時、まだ真田はダイニングのテーブルで、何か新聞を読みながら、コーヒーを飲んでいた。
自分が出てきたのを見た真田さんは、心配そうに自分に声をかけてきた。
「大丈夫ですか? 歩美さん?」
完璧なるいつもの真田さんだった。
先ほどの甘くて死にそうな彼はいない。
もう、人の気も知らないで!っとちょっと頭にきた。
そう?
そうやってくるのね。
わかったわ。
あなたがそういうゲームがお好きなら、自分も一世一代やらせていただくわっと歩美は覚悟した。
そして、渾身の微笑を真田に送る。
「ごめんなさい、真田さん。お待たせしてしまって……。早く朝食終わらせないと飛行機に間に合わないですね……」
どうだというばかりに、余裕の笑みを送った。
大体の男なら、これでクラクラするはずだ。
その様子を真田はじっと見ていた。
そして、なぜかそこで仮面をかぶったような笑みが返ってくる。
「よかった。ちょっと心配してしまいました。でも、飛行機も全く余裕で時間がありますから……」
彼の笑顔に陰がかかるなんて、全く分からなかったし、この時は全く気がつかなかった。
ただ、眼鏡越しの彼の表情はよく分からなかったのだ。
でも、今の反応は全くの期待外れだった。
本当なら、顔が赤くなるくらいの真田が見たかった。
でも、彼には自分の渾身の微笑が効かない。
はあっと気の抜けたのように歩美がため息をつく。
仕方ないっといった感じで席についた。
残りの朝食を食べ始める。
「あなたって、本当に分からない人ね……」
「……それはお褒めと受け取っていいのでしょうか?」
「な、もう、褒めているんじゃないの! 嫌味を言っているの! いいわよ。散々、人を遊んでおいて……」
「……そんなつもりは、全くないですよ。歩美さん」
「もういい! 今日の予定、教えなさい! みっちり堪能してやるわ!」
「そうですね。私も楽しみです」
にこやか笑顔の真田を見据えた。
また鉄面のような微笑みだ。
歩美は今日の1日は、まるでデートのように楽しめるものかと思ったが、もしかしたら、そうではないかもしれないと、少し心に、ちくんと痛みを感じた。
そして、真田に見つめられながら、朝食を食べ終えた。
終始、もちろん、歩美はドキマギしていたが、彼や蓮司にに対するお小言は忘れないでいた。
そうしなければ、また自分が固まって崩壊しそうだったからだ。
あの時に、じっとみつめてくる漆黒の瞳に耐えきれず、ガバッと席から立ち上がってしまった。
しかも、自分の口から出た言葉は、
「ご、ごめんない! ちょっとお手洗い、お借りっ、し、します」
彼の手を振りほどき、ほとんど走りながら、お手洗いに隠れてしまった。
バタンっとバスルームのドアを閉めた音と共に、鳴り止まぬ心臓をおさえた。
目の前の洗面台にある鏡に自分の姿が写った。
また残酷にも目の前の鏡が自分の悲惨な状況を無情に告げてくる。
乱れた髪。
子供のように焦っている自分の顔。
そして、それが嘘のつけないように紅く染まっていた。
ああ、なんてザマなの!
歩美!!
絶対に甘ちゃんだわ!!
気合いを入れなさいよ!
鏡の自分に叱りつける。
でも、もう一人の自分が鏡の中で言葉少なめに訴えていた。
「好きなんだもん、しょうがないじゃん……」
自分も鏡の中の自分に同情して頷く。
自分の中の戦力パワーが一気に落ちた。
ガックリする自分がいる。
もう鎧も何もない。
ただの恋する普通の女の子だ。
唇を押さえる。
あの人との大原邸でのキスを思い出す。
まるで昨日のように感じる。
胸の鼓動が鳴り止まない。
いきなり歩美は洗面台に水を流し始めた。
水の勢いが音でも感じられるくらい激しいものだった。
それをいきなりバシャバシャと顔に掛けた。
冷たい水が頬の熱を奪う。
ああ戻って、元の私!
目に水が沁みた。
ああ、ここにあの馬鹿蓮司が居れば、色々日頃の行いを突っ込めて、よかったのにと思う。
このやり切れないストレスをどこに持っていけばいいか分からなかった。
でも、お手洗いを出た時、まだ真田はダイニングのテーブルで、何か新聞を読みながら、コーヒーを飲んでいた。
自分が出てきたのを見た真田さんは、心配そうに自分に声をかけてきた。
「大丈夫ですか? 歩美さん?」
完璧なるいつもの真田さんだった。
先ほどの甘くて死にそうな彼はいない。
もう、人の気も知らないで!っとちょっと頭にきた。
そう?
そうやってくるのね。
わかったわ。
あなたがそういうゲームがお好きなら、自分も一世一代やらせていただくわっと歩美は覚悟した。
そして、渾身の微笑を真田に送る。
「ごめんなさい、真田さん。お待たせしてしまって……。早く朝食終わらせないと飛行機に間に合わないですね……」
どうだというばかりに、余裕の笑みを送った。
大体の男なら、これでクラクラするはずだ。
その様子を真田はじっと見ていた。
そして、なぜかそこで仮面をかぶったような笑みが返ってくる。
「よかった。ちょっと心配してしまいました。でも、飛行機も全く余裕で時間がありますから……」
彼の笑顔に陰がかかるなんて、全く分からなかったし、この時は全く気がつかなかった。
ただ、眼鏡越しの彼の表情はよく分からなかったのだ。
でも、今の反応は全くの期待外れだった。
本当なら、顔が赤くなるくらいの真田が見たかった。
でも、彼には自分の渾身の微笑が効かない。
はあっと気の抜けたのように歩美がため息をつく。
仕方ないっといった感じで席についた。
残りの朝食を食べ始める。
「あなたって、本当に分からない人ね……」
「……それはお褒めと受け取っていいのでしょうか?」
「な、もう、褒めているんじゃないの! 嫌味を言っているの! いいわよ。散々、人を遊んでおいて……」
「……そんなつもりは、全くないですよ。歩美さん」
「もういい! 今日の予定、教えなさい! みっちり堪能してやるわ!」
「そうですね。私も楽しみです」
にこやか笑顔の真田を見据えた。
また鉄面のような微笑みだ。
歩美は今日の1日は、まるでデートのように楽しめるものかと思ったが、もしかしたら、そうではないかもしれないと、少し心に、ちくんと痛みを感じた。
そして、真田に見つめられながら、朝食を食べ終えた。
終始、もちろん、歩美はドキマギしていたが、彼や蓮司にに対するお小言は忘れないでいた。
そうしなければ、また自分が固まって崩壊しそうだったからだ。
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