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密会現場を抑えましたけど……イレてないでしょ?
しおりを挟む(会話が題名の通り下品です。すいません。by 作者)
夜会の時間がもうすぐだった。
ということは、もうすぐ密会の時間でもある。
彼女とラスクが人気のない王立図書館で会う手はずだとわかったからだ。
まだが、ここでミハエル直属の警護隊は徹底的なミスを犯す。
それを見て、また黒ずくめのエルが「あちゃー」と言っている。
エルはその前の木の枝に座っていた。
「一体、誰が大馬鹿なんだ……」
その密会に使われる図書館の前で、王子の直属の警備隊が張り込んでいるのだ。
「あんな人目があっては、やるもんもヤンないだろ。海賊じゃ~あるまいし…」
エルがぼやいた。
エルの黒ずくめの横にはマティアスがいた。
もちろん、その言葉に辟易しているが、彼もここで一番の問題が何であるかわかっているために、あえて突っ込まない。
もう一人の男、ギデオンは三人全員消えるのは良くないと、何かのときを考えて部屋に残った。
マティアスとエルは仲良く木の上に座っていた。
「エル、どうするよ。やっこさん達、これじゃ、逃げるぞ……」
「ああ、面倒だな。つけるしかないだろ……」
「おい、なんで林檎なんてかじってるんだよ」
「あ、マティアスも食べる?」
ポケットからもう一つの林檎を出した。
「あ、これ、さっきちょっと出かけた時、もらってきた。腹減ってさー」
そんなピタとしたフォームのどこにそんなものが隠せるのかと思って感心していると同時に、どこからとって来たのかとマティアスが思う。
出かけたって言うのは、どう考えたって、さっきの尾行だとわかったし、食堂に入ったのかと質問しようとしたら、何か下に動きがあって、二人ともそちらを見る。
木の上から見ていた二人だったが、ようやく現れたターゲットの登場に目を見張る。
やはり警護のものがいて驚いている様子だ。
二人が図書館の前で交差する。
どうやら警護の者たちも誰を見張れなどとは言われてないようだ。
二人を無視していた。ラスクは少しうつむき、警護のものに頭を下げる。
ただ、フードを被っているマリアには気がつかない。
だが、そのとき、薄暗い中でマリアの口が開いたのをエルは見逃さなかった。
「『……い、つ、も、の場所で……』」
彼女の口を読んだ。
うーーんっとエルが唸る。
読唇術まで出来るんだとマティアスが感心していると、
「じゃー、後でな……お前はあのトロそうな警護の近くにいろよ。現場を抑えたら、オレがこの笛吹くから……」
エルが言う。
ギデオンが万が一を考えてあの笛をエルに渡したのだ。
さきほどのように、行ったきりでは困るからだ。
「…おい、それで……」
どうするんだっとマティアスが言った時には、すでにエルは枯葉が落ちる中に消えてしまう。
「おいおい、嫌な予感しかしない……。でも、まあアイツなら大丈夫か……」
そう言いながら、マティアスはそのまま警護の者たちを見守り続けた。
エルはマリアを追った。
彼女の方が、軍事訓練を受けていないから、その挙動不審さがわかりやすいし尾行には慣れていないだろうと思った。
まあラスクも同じ軍人ながら、この令嬢レベルだとはわかっていたが、一応、フードの下からチラつく、どピンクのドレスの彼女は目立つのだ。
マリアが王宮内の奥のあまり人気がない部屋にさっと入り込んだ。
ああー、そうくるか。
でも、男が入ってくる様子がない。
違う出口があるのか?
この王宮には入ったばかりだから、中の構造がエルには良く分からない。
ある考えがひらめいた。
どう考えても、二手に別れた男女がここにいるに違いない。
だが、この地上五階に、あの腑抜けた男が外壁から這い上がるほどの根性も技量も無いように思えた。
続き部屋?
いや、隠れ通路があるのか?
ああ、面倒だけど仕方がない……。
エルはそう言いながら、そこを立ち去る。
*****
うーーん、何だかなーー。
エルは仕方がないといった感じで五階の窓が見える木の上に座っていた。
中から探ることも考えたが、出会って殺せる相手ではない。
通報するだけだ。
一応、笛で合図する。
やはりさきほどの入った五階ではなくて、マリアは四階にいた。
結構、男より女の方が用心深いな……と、どちらが腹黒かを確かめるようにエルがぼやいた。
ああ、なんか口論してるぞ。
早く、ラスク、塞げよ……。
マリアがごねているのがわかる。
お、よし、ラスク、そうだ。
キスして、うんうん、いいぞ。
あれ、ラスク、打たれているよ。
はーー。
木の下にマティアスが現れた。
木から降りて場所をマティアスに教える。
だが、マティアスがそのエルが降りて来た距離に呆然としている。
「お、お前って……」
何か言いたそうな彼を言葉で遮る。
おい、早く警護の連れてこいよ。
オレは先に現場に踏み込む!
現場でな!
エルが飛び去るように消えた。
****
今この状況をラスクもマリアもどう考えていいか分からなった。
お互いに口付けをしていた。
それが深いものになり、二人とも悶えていたときに、いきなりドアが開けられて、黒ずくめの男がこちらにナイフをかざしているのだ。
「動くな……」
マスク越しのものは言う。
篭った声の持ち主の目線は何か獰猛だった。
「ああ、悲鳴はいいぞ。でも、叫ぶのは、ちょっと待て……」
恐怖に陥っているのに、その盗賊のような怪しげな相貌の者が、こちらに近づく。
「おい、貴様、マリア様に近寄るな!」
エルがラスクをにらんだ。
それだけで、ラスクは何か怯えて抵抗が出来なくなる。
「ちょっと、ラスク!」
何か無駄に動いて命を取られるよりはとマリアがラスクを止める。
「おい、動くなと言ったろ? お前、これを持て……」
いきなりエルがポケットから林檎を出した。
一口かじって、ラスクの頭に林檎を置いた。
ただマリアもラスクも呆然としている。
「なんだ、っこれ!」
その林檎を落とそうとするラスクを言葉で制する。
「動くな!!」
その言葉にビクりとしたラスクが固まっている。
なぜなら、エルがまさに手元の短剣を投げようとしているからだ。
ラスクが、「まさか……」と言った瞬間、エルが手袋をした手でナイフを投げつけた。
ビュッと風切る音がラスクの頭上でした。
ナイフがりんごにぶっ刺さり、床にどさりと落ちた。
唖然と二人がしている。
落ちた林檎を真っ二つに割る。
「……あのさ、こう言う風になりたくなかったら、言うこと聞いてくれない?」
二人の背筋に寒いものが走った。
「あのさ、イレてないでしょ? 困るんだよねー」
黒づくめのエルがにっこりと微笑んでいたが、それは怯える二人には全く見えなかった。
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