月光に煌めく金のたてがみ-10年目の再会と約束-

槇瀬陽翔

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月光に煌めく金のたてがみ-10年目の再会と約束-

act 4

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金糸の王は次の日になっても帰る様子はなく、ずっとミズキの側にいた。金糸の王が帰らないので銀糸の狼も同じように帰らない。
ミズキは迷惑じゃないので気にはしていなかったが、二人が来て三日目の夕刻に意外な訪問者が訪れた。


中庭で夕涼みを楽しんでいた三人に
「やっと見つけた。ここにいたのか二人共」
そう声を掛けられて、驚いて顔を上げ相手を見てミズキは言葉に困る。金糸の王は
「グルル」
と小さく唸り、銀糸の狼はミズキの後ろに隠れてしまった。
「驚かせてしまってすまない。第一王子、ミズキ殿。そこの二人が帰ってこないからずっと探していたんだよ。それにこの場所は君の父上、トモキ国王から聞いていたのでもしかしてと思って来てみたんだよ」
この場所に来た理由を話す隣国の国王。
「この子たちは国王の大切な子たちだったのですか?」
ミズキは申し訳なさげな顔で聞く。
「あぁ、違うよ。この子たちは第一王子であるタマキのペットだよ。帰ってこないからタマキも探してたんだよ。(って本人は今ここにいるんだが…)この子たちは勝手にここへ?」
国王は少し呆れた顔をしながら教えてくれる。
「えっ?あっ、はい。三日前の昼半ばぐらいに二人でここに来ました」
国王の問いにミズキが答える。

『ふむ、やっぱり本能的にこの場所に来たか。しかも三日前と言えばこの国に来てすぐじゃないか。あの時はかなりイラついてたからなあの子は…』
ミズキの答えに国王は一人考え込む。帰ってこない理由があの時の苛立ちだったならば無理もないと納得してしまう。

「ミズキ殿、君に少しお願いがあるんだがいいだろうか?」
国王が少し考えながら聞いてくる。
「はい?俺にできることでしたらいいですよ?」
ミズキが不思議に思いながら答えると
「我々がこの国に滞在する間だけこの二人がこの場所へ来るのを許してくれるかい?この子たちはね、タマキ王子のペットなんだけどとても気難しくてね。王子以外のものが触れようとすると…」
国王が金糸の王へ手を差し出すと
「グルル」
低い唸り声をあげて牙をむく。
「ほらね?こうやって鋭い牙をむく。王子以外懐くことがなかったこの子たちだが君の傍はすごく居心地がいいみたいだ。この子たちがこんなに穏やかにしてるのは初めて見たよ」
国王の言葉に
「そうなんですか?ここにいるときはいつもこんな感じなんですけど…不思議ですね」
本当に不思議そうにミズキが言う。
「この子たちは勝手に来て勝手に帰っていくから、この場所で自由にさせてやってほしい。あっ、でもおチビちゃんは今日は俺と帰るんだよ。君に用があって探してたんだからね」
国王がミズキの後ろに隠れている銀糸の狼を抱くと
「グゥゥ」
と唸りイヤイヤと駄々をこねる。その様子を見ていたミズキは小さく笑い
「銀糸の王子、今日は大人しくお帰りください。明日また金糸の王とここへ来ればいい。いいよな金糸の王よ」
銀糸の狼を撫でながら金糸の王に聞けば
「グルゥ」
まるで返事のように鳴く。
「ほら、金糸の王がまた連れてきてくれるから、今日は国王と帰るんだよ。後から金糸の王も帰るからね。またおいで」
ミズキの言葉に
「くうっ」
と鳴き大人しくなる。
「国王さま、この子たちの名はなんと呼べば?」
ミズキはふと名前のことを思いだし聞けば
「君の好きなように呼べばいい。王子が呼べはこの子たちはちゃんと帰ってくるからね」
国王はミズキの好きなように呼べばいいと言ってくれた。ミズキは少し考え
「お前はキレイな銀糸で月の光のようだからルナにしよう。金糸の王は太陽の光のようだからサンだ。安直すぎるかもしれないけどな」
銀糸の狼の頭を撫でながら言えば銀糸の狼は嬉しそうにミズキの手を舐める。
「さて、この子を連れて帰るとしよう。王妃が心配してるのでね。お前も一度は戻ってくるんだぞ」
国王は金糸の王にも声をかけて戻っていった。ミズキは金糸の王に向き合い
「お前は…タマキのところの子だったのか…あいつに大切にされてるんだ」
そう言いながらたてがみを撫で抱きしめた。


淡い期待をしてしまう。もしかしたら一人でいる自分のためによこしているのではないかと…


「よし、今度からは王をサンと呼ぶからな。国王も言ってた通り一度は帰った方がいい。また明日くればいいんだし。だから…サン、今日はもう帰るんだ。ルナもお前を待ってるから…」
金糸の王から離れ頭を撫でる。金糸の王は仕方がないなと言わんばかりにゆっくりと立ち上がる。

「…サン…また…またな…」
ミズキのその言葉に
「グルル」
返事をするように鳴き彼はすっかりと暗くなってしまった庭の中へと消えていった。
「また…な…」
ミズキは一人呟き部屋の中へと戻った。



次の日からまた来るよになったが、違っているのは必ず帰るようになったことぐらいだった。


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