NL短編集

槇瀬光琉

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君がいない。

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君がいない。


何も言わずに君がいなくなってしまった。


君はどうしていなくなったのか?


わからない・・・・


君は今何処にいるのか?



俺の名は相澤圭。システムエンジニアをしている。俺は恋人の眞澄良子と同棲をしていた。もちろん良子には内緒だが良子の誕生日にプロポーズするつもりだ。指輪も買ってある。後は来月の15日。良子の誕生日が来るのを待つだけだ。きっと驚くだろうな。付き合ってもう5年にもなるんだから結構待たせたよな。



「圭ちゃんねぇちょっといい???」
不意に俺を呼ぶ声がする。
「何だよ?何かあるのか?」
俺はキッチンにいる良子の方にいく。
「これ開けて。硬くて開かないの」
良子は差し出したのはオリーブオイルの瓶。
「ほら。これでいいか?」
俺は瓶の蓋を開け良子に返す。
「ありがとう。もう少しまっててね。そしたらできるから」
良子はそういって料理の続きをする。俺もまた元の場所へと戻る。仕事で使う資料とか見ている最中だったから・・・。


「圭ちゃんできたよ~」
キッチンで良子が俺を呼ぶ。俺は資料を片付けキッチンに向かう。鼻を擽るいい匂い。
「今日はイタリア料理にしてみたよ」
良子は自慢げに言う。
「また此間みたいに失敗したんじゃないのか?」
俺は冗談で言ってやる。
「うわぁ。ひどい圭ちゃん。食べてからいってよぉ」
良子はぷっと膨れいう。俺は椅子に腰掛け
「わかった。食べようぜ」
いう。
「うん。いただきます」
「いただきます」
俺は良子の作ってくれた料理を口に運ぶ。
「ん・・・。美味いじゃん」
俺は素直に言う。
「本当?やった」
良子は本当に嬉しそうに笑う。何年たっても変わらない笑顔。俺の好きな顔。
「腕上げたんじゃないのか?」
うん。本当に腕を上げたのかもな。
「そりゃぁ~圭ちゃんのお嫁さんになるために頑張ってますから」
良子はそういってガッツポーズをする。
「そっか。じゃぁ頑張れ!!」
俺はあえて受け流した。
「あれ?そこでプロポーズは?ないの?」
良子はそんなことを聞いてくる。俺は少し考えたふりをして
「ん~。ないな」
冗談で答える。
「ちっ残念。いいも~ん。まってるからぁ~」
良子はそういう。俺はそんな良子を見て笑う。本当はもう決めてるんだけどなぁ。でもまだ内緒。楽しみは先送り。


俺たちはくだらない会話をして食事を済ませた。


「あ・・・。圭ちゃん。お願いがあるの」
急に良子がそんなことを言う。
「何?何かあるのか?」
俺は聞き返す。良子は
「うん。ほら今度の日曜日さ友達の結婚式でしょ?服を選ぶの手伝って?」
そんなことをいう。そう言えばそんなことを言ってたっけ。
「いいけど。それぐらい自分で決めろよ」
俺はそういう。良子は
「だってぇ~決まらないんだもん」
そういって膨れる。相変わらず子供っぽい所は直らないよな。
「はいはい。どれを着てくか選んであるのか?」
俺は良子の部屋に向かいながら聞いてみる。良子は
「うん。3着まで絞り込んだんだけどそっからが決まらなくて・・・」
そういって部屋の扉を開け電気をつける。おいおい。どんだけ悩んでるんだよ。中に入ると結婚式に着てくであろう服が壁にかけてあった。この中から俺に選べと・・・。
「どれがいいかな?」
良子は真剣に聞いてくる。ここで適当に答えると後が困るんだよな。文句いうから。
「そうだなぁ・・・」
俺は服と良子を見比べながら考える。
「これがいいんじゃないか?」
俺が選んだのはピンクのワンピータイプ。良子がよく好んで着るやつだ。
「本当?これでいいかな?」
良子はそれを見ながら聞いてくる。
「あぁ。大丈夫だ」
俺はそう答える。
「判った。じゃぁこれにする」
良子も納得したのかほかの服をクローゼットの中にしまい始める。
「日曜日は本当に送らなくていいのか?」
俺はもう一度確認のために聞く。
「うん。美佐子が迎えに来てくれるって言うから大丈夫だよ」
良子はそう答え今選んだスーツに服をかける。
「そうか。久しぶりだからってはしゃぎ過ぎるなよ?」
俺はそういう。別に心配してるわけじゃないけど・・・。
「あれ?あれあれ?なに心配してるのかなぁ??」
良子が笑いながら俺を覗き込む。こんの
「心配なんかしてねぇよ。この・・・」
調子に乗りやがって。
「あははは・・・やだ・・・くすぐったいよ・・・・」
俺は良子をくすぐってやる。良子はバランスを崩し後ろに倒れこむ。俺はそれを支えようとしたが一歩遅く俺も一緒に倒れこむことになった。幸いベッドの上だったからよかったのだが・・・。
「圭ちゃんひど~い」
良子はそういいながらポカポカ叩いてくる。俺はそんな良子の手を掴むと
「・・・好きだ・・・」
そう呟きキスをする。ただ触れるだけのキス。こうして馬鹿なことをやっていて楽しいと思うのは良子が相手だからだ。
「圭ちゃんが好き」
良子はそういって俺に抱きついてくる。俺はそんな良子を抱きしめ
「俺もだよ」
答える。腕の中の存在がこんなにも愛おしい。しばらく俺は良子を抱きしめていたがピクリとも動かなくなった良子に疑問をもち良子の身体をベッドに下ろすと寝ていた。
「マジかよ。まぁ。いいか。最近忙しいって言ってたしな」
俺は良子をちゃんと寝かせると布団をかけ部屋明かりを消し部屋を出た。




日曜日




「圭ちゃん。どこも変じゃない?」
準備を済ませた良子が聞いてくる。俺はそんな良子を見て
「お前が主役じゃないだろ?変じゃないよ。」
冗談を言いながら答える。
「ひど~い!!本当に変じゃない?」
良子はまだ気にしてるのか聞いてくる。
「大丈夫だって。どこも変じゃないって。美佐子が着てるんじゃないのか?」
約束の時間は当に来ている。良子は時計を見て
「やば!!!じゃぁ圭ちゃんいってきます」
慌てて出て行った。
「まったく。あいつは何時も慌しいな」
俺は苦笑を浮かべ自分の部屋に戻る。今日はすることがない。ならばやることは一つ。式場などの情報収集だ。いくつかパンフレットはもうもらってきている。後はそれを良子と見て決めるだけ。俺の意見は最後でいいんだ。結婚式は花嫁が主役なのだから・・・・。良子の好きなところで式を挙げさせてやりたい。
「しかし・・・。色んなのがあるよな。あいつどれがいいんだろう」
俺はパンフレットを見ながら呟く。教会がいいのだろうか?それとも式場でいいのだろうか?まずは其処から決めていかないといけないのかもしれない。あぁ。でも着物が着たいと言い出したらどうするべきなのか????本人がいなきゃ決められないことばかりだ。
住む場所はここでいいだろう。部屋だって余ってるし・・・。
「あいつ子供が好きだったよな」
確か前に保母さんになりたかったとか言ってたよな。今でもそれは変わらないみたいだけど・・・。まぁ子供のことはまだいいか。それより式のことだよな。
「どれでもいいんだけどな俺は・・・・」
俺はパラパラとパンフレットを捲りながら考える。が男の俺じゃぁどれがいいのかわからない。決めれない。
「本当。あいつがいないと決めれないよな・・・」
俺はパンフレットをいつもの場所にしまいベッドに倒れこむ。何時からだっけ良子がプロポーズのことを口に出すようになったのは?2年ぐらい前からだったような気がするな。確か友達が出産をしてからのはずだ。
「あれから2年か・・・。良子も25だもんな。結婚したいよな」
本当はもっと前にプロポーズするはずだったんだけどいろいろ重なってタイミング逃したんだよな。あと少しだけ待たせることになるけど我慢してくれるかな。
「あと少し。そしたらちゃんと伝えるから・・・」
だから待っててほしい。俺の我が儘だよな。
「でも・・・良子としか結婚したくないんだよな・・・」
これも俺の我が儘かもしれない。あいつ以外考えられないんだよ。あいつしか・・・・




結局、俺は一日を無駄な過ごし方をした。家の中でゴロゴロして過ごしていただけだった。
「そろそろ帰ってくるよな?」
時間的にそんな時間だ。今日はどんな話をするだろうか?前のときは凄かったからな。花嫁がきれいでとか食べ物が凄かったとか飾り付けがよかったとかかなり興奮してたからな。今夜はどんな話を聞かせてくれるのだろうか?




時計の針は23時を回っているのに良子は一向に帰ってこない。何故?何かあったのだろうか?もしかして友達の所に泊まってくるのか?それにしても連絡は入れるはずだ。
「何かあったのか???・・・もう少し待てみよう」
おし。そうしよう。きっと時間のこと忘れてるに違いない。あいつはよくやるからな。友達とはしゃぎすぎて時間を忘れるっていうのを・・・・。それで何度俺は待たされたことか・・・。
今日もそうに違いない。興奮しすぎて我を忘れてるに違いない。




そんな俺の気持ちとは裏腹に時間は無常にも過ぎていく。それでも良子は帰ってこない。
結局、俺は一睡もすることなく夜を過ごした。
「あいつ・・・・どうしたんだ???」
俺は探しに行きたかったが如何せん今日から仕事だ。そんな時間が無い。昼間に携帯に電話をしよう。そしたら帰ってきてるだろう。俺は仕事の準備を済ませると取り敢えず家を出た。




昼休み俺は良子の携帯に電話をしてみた。


『電源が入ってないが電波の届かないところにあります』


そんなメッセージが流れる。何故?何度掛けなおしてもそんなメッセージが淡々と繰り返されていた。
「お前は何処にいるんだ?」
俺は携帯のディスプレイを眺め呟く。呟きは空しく消えていく。この後家の電話にも電話を掛けてみたが留守電になるだけだった。


夜、家に帰ってもやはり良子はいなかった。
「本当にお前はどこにいるんだよ・・・・」
問うてみても返事は返ってこない。唯静寂が俺を包むだけだった。




1日


『電源が入ってないが電波の届かないところにあります』


2日


『電源が入ってないが電波の届かないところにあります』


3日


『電源が入ってないが電波の届かないところにあります』


4日


『電源が入ってないが電波の届かないところにあります』


5日


『電源が入ってないが電波の届かないところにあります』




流石に俺も焦り始める。なんで連絡がこないのか・・・。なんで帰ってこないのか・・・。
事故にあったのかとか事件に巻き込まれたとか・・・


手当たりしたい良子の友達に連絡をしてみた。でも返ってきた返事はみんな同じ。








『良子???着てないよ。式の後普通に別れたもん』








じゃぁどうして帰ってこない??


俺なんかしたのだろうか?


そりゃぁまだ結婚もしてないしプロポーズだって言ってない。


だけど結婚するなら良子だって決めてたのに・・・・
なのにあいつが帰ってこない。
もうすぐ良子の誕生日なのに・・・・。


驚かすつもりで買った結婚指輪が無駄になるのかな?




結局、良子の居所が掴めないまま2週間という日付だけが無駄のように過ぎていった。




3週間目の最初の月曜日の夜


「た・・・ただいま・・・」


遠慮がちに良子が帰ってきた。


!!!!!!!!!!!!


「今までどこに行ってたんだよ。何の連絡も寄越さないで!!!」
俺はつい怒鳴ってしまった。あぁ。こんなことが言いたかったわけじゃないのに・・・・。
「ごめんなさい。ちょっと・・・覚悟を決めたくて実家に帰ってたの」
実家?あぁ。俺はなんてバカなんだ。良子の実家のことをすっかり忘れていた。灯台下暗しとはまさにこのことか・・・・。
「覚悟って?」
俺は良子の手から荷物を取り聞いてみる。何をするために覚悟がいるのだろうか・・・・。
「あのね・・・・実は・・・私・・・・赤ちゃんが・・・出来ちゃったの・・・」
良子は躊躇いがちにいいカバンの中から母子手帳を取り出す。これをもらってきたって事は・・・・確実に良子のお腹の中に俺の子がいるということで・・・・今確実に成長をしているということだ。
「産みたいのか?」
俺はずるい男だ。良子を試してる。
「うん。でも・・・圭ちゃんには迷惑かけないから・・・・一人で産んで育てるから・・・」
良子の眼差しと意思は強いものだった。俺が別れを言い出しても一人で産む気なんだな。俺は溜め息をつくと手に持っていた荷物を置き自分の部屋に行く。そして良子の誕生日に渡して驚かそうと思っていた結婚指輪を握り締める。
「今・・・ちゃんと言わなきゃ俺は男じゃない!!!」
俺自身も覚悟を決めるとリビングに戻ってくる。
「圭ちゃん?」
良子は不思議そうに聞いてくる。俺は箱の包みを空け中の指輪を取り出し良子の左手を握り締めそっと薬指にはめていく。
「圭ちゃん?・・・これ???・・・」
良子は驚き俺に聞く。俺は良子の手を握り締め
「立場が逆になったけど俺と結婚してください」
今まで言えなかった言葉を口にする。その途端、良子の瞳から涙が溢れて零れ落ちる。
「随分待たしたけど結婚するのは・・・生涯を共にするのは良子とって決めてたから・・・」
俺は良子の涙を拭いながら伝える。
「本・・・当・・・に?・・・私で・・・いいの???・・・・」
良子は泣きながら聞いてくる。俺はそんな良子を抱きしめ
「良子がいい。俺の嫁さんになってください」
もう一度伝える。
「・・・は・・・はい・・・・はい圭ちゃん・・・」
良子は俺の服を掴み答える。俺は腕に力を込め良子の頭を撫でながら
「幸せにするから・・・。良子もお腹の子も・・・。一緒に幸せになろう」
伝える。手放したくは無い。この大切な存在を・・・。
「は・・・はい・・・お願いします・・・」
良子は何度も頷いた。
「名前。考えなきゃな。俺たちの大事な子のさ」
俺は良子を抱きしめたまま呟く。良子は小さく頷いた。




それから半年後。俺たちは良子が憧れていた教会で式を挙げた。





君が突然いなくなった・・・・・




そうしたら・・・・・




君は大きなプレゼントを抱えて戻ってきた・・・・




二人の愛の結晶。




大切な宝物・・・・




Fin
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