会長様はいちゃつきたい!

槇瀬陽翔

文字の大きさ
27 / 66

誤解なんだが?

しおりを挟む
「っ、ぁ、うそっ」
風紀委員室で作業をしていて不意に神谷がそんな声を上げたと思った瞬間にぶわっと部屋中に広がるフェロモンの香り。


「全員、動くな!」
俺は部屋の中にいる奴ら全員にその場から動くなと命令する。


いつも、計画的に休んでいる神谷に突如襲った予定外の発情。俺は神谷の傍に寄り
「大丈夫か?一旦、奥の部屋に行くぞ」
この場所ではなく、奥にある小部屋に移動しようと声をかければ小さく頷く。神谷を立たせて、奥の部屋へと運ぶ。

部屋の中には仮眠ができるようにと簡易的なベッドも置いてあるので、そこに神谷を座らせた。

「抑制薬は持ってるか?」
神谷に聞いてみる。神谷なら持ってるだろうと踏んでいたんだが…。
「今日…忘れて…」
自分の身体を抱きしめながら出てきた言葉に溜め息がでる。


運悪く、薬を忘れてきた日に突発的な発情が起きたという。


「永尾なら持ってるか?」
もしもの保険としてあいつが持ってるかもと思い聞いてみれば首を振る。タイミングが悪いとはこのことか。
「救護班に連絡して校医の所から持って来てもらうが大丈夫か?」
神谷が徹底して発情の時期を管理してるのは他人に見られるのがイヤだからだと俺は思っている。だから確認をしたのだ。

神谷はやっぱり返事に困っている。

「救護班にとって来てもらって、永尾に運ばせる。それで大丈夫か?」
なら、方法を変えよう。そう思い確認の為に聞けば首を振る。


そこで、あぁと気が付いた。発情に入ったとき神谷は一定期間、永尾を拒絶するんだったなと…。


「俺が傍にいるのも神谷には負担になるだろ?一度、俺は出るぞ?」
永尾を拒絶するぐらいだから俺も負担になるだろうと声をかければ
「っ、ふっ、ひっく、ふぇぇ」
神谷が突然、泣き始めた。


マジか!神谷のヤツ発情初期は泣き虫になるのか…。


俺はどうしたものかと考えながらも、煌太さんにメールをして抑制薬を持って来てもらうことにした。そのまま、聖と永尾にも同じ文面のメールを送る。


「ふえぇ、もぅ、やだぁ、もぉ」
神谷はそう言いながら癇癪し始める。


おいおいおい。


「ちょっと待て神谷。壁は殴るな!」
思いっきり壁を殴ろうとしてる神谷を掴めば
「やぁー!離してぇ―!」
なんて叫ぶもんだからたまったもんじゃない。しかも運悪く煌太さんが扉を開けたところだった。


「神尾くん、何やってるのかな?」
にっこりと笑う煌太さんの後ろにどす黒い何かが見えた。
「ふえぇ、いやだぁー、もぉ、やぁー」
神谷が泣きながらジタバタ暴れて、足を滑らせて倒れそうになって、それを受け止めようとしたら神谷の勢いに負けて一緒になって自分もこけた。

「いてて、おい、大丈夫か神谷?」
声をかけてから気が付いた。今の体勢は非常にヤバい。これじゃぁ、俺が神谷を押し倒したみたいじゃねぇか!
「…大我…どうし…て…」
「いっ、いっ、いっ、委員長―!な、何やって…」
しかもそれをバッチリ会長、副会長に見られた。最悪だ…。


「やぁ、もぉ、みんなやだぁー!」
「いて、いてて、ちょっ、神谷、落ち着けって」
イヤだと泣きながら殴る蹴るの暴行。何が起きてるのわからないみんなはポカーンと傍観。

「えっと…神谷くんは発情してるんだよね?」
やっと煌太さんが聞いてくる。
「いてっ、そうだよ。落ち着けって、こら、噛むな」
壁を殴ろうとしてる神谷を捕まえて抑えようとすれば、殴られるし、噛まれる。

「取り敢えず、これを飲ませよう。はい、永尾くん、口移し。神尾くんが捕まえてるうちにどうぞ」
ポカーンとしてる永尾に煌太さんが薬の瓶を渡す。
「えっ?あっ、はい」
永尾もいきなりで意味が分からないまま薬の瓶をもらい、神谷に口移しで飲ませた。




「…ご迷惑…おかけしました…」
薬が効いて、少しだけ落ち着いた神谷が顔を赤くしながら謝る。失態と言えば失態だからな。
「えっと、一応確認だけさせてくれるかな?神谷くんは神尾くんに襲われるわけじゃなかったのね?」
煌太さんの教員としての質問。

「…はい…えっと、実は僕…発情の初期は泣き虫になって…癇癪起こして物を殴るんです…人がいれば人も殴るんで…だからいつも健汰を拒否ってるんですけど…今回もその…泣き出して…壁を殴ろうとして委員長に止められまして…」
神谷は本当に言い辛そうに話し出す。
「ガーン。それが理由だったなんて…そんな、僕を殴ってくれればいいのにぃ…」
永尾が変態になってるな。

「じゃぁ、本当に神尾くんにはなにもされてないんだね?」
最終確認じゃないけどもう一度、煌太さんが聞いてる。
「はい、どちらかといえば…僕の方が委員長に酷いことをしました…殴ったし、噛んだし…」
神谷がだんだんと小さくなっていく。

「まぁ、それはいいんだが。俺は誤解さえといてくれればな」
俺が神谷を襲っていたという誤解をな。
「…はい…本当に…すみません…それは誤解です。…僕が委員長に暴力をふるってました…」
なんとも情けない顔で神谷が謝る。

「ほら、永尾くん、いつまでそこで遊んでるの。神谷くんを連れて帰りさない」
煌太さんは永尾のケツを蹴って連れて帰れと告げる。
「はっ!そうだった。発情中の可愛い神谷くんをこんなむさっ苦しい野郎どもに拝ませておけない!帰るよ神谷くん」
永尾はいきなりスイッチが入って神谷を連れて帰っていった。


「あーっと…ごめんね大ちゃん。僕も誤解しちゃったよ。化け物の大ちゃんがコロッとなびくとは思わなかったけど…疑っちゃった…」
2人が帰ってから煌太さんが謝ってくる。
「ほんと誤解ですよ。俺はこいつのフェロモンにしか反応しないんで…。誰彼かまわず襲うようなゲスなやつでもないですし…」
溜め息交じりに答えれば
「そうだよねぇ。ゆいちゃんの発情にも反応しない化け物だもんねぇ」
煌太さんは小さく笑う。聖に関してはまだショックを受けてるなこれは…。

「ゆいちゃんはさ、正直だよね」
そんなことを言いながら煌太さんが聖の頭を撫でる。
「っ」
それを引き金にしてポロリと涙が零れ落ちた。

「ちゃんと慰めるんだよぉ~」
泣き出した聖を押し付けて煌太さんはさっさと出ていった。


まったく…信用されてないな俺は…


「心配させて悪かった。あれは事故だし、神谷には手を出してないから安心しろ」
聖を自分の腕の中に抱きしめて謝れば小さく頷く。
「帰ったら、俺の部屋にこい。納得するまで話そう。甘えていいから」
頭を撫でながら部屋に来るように告げれば
「…約束…だからな…」
鼻声で言われた。
「あぁ、約束する」
俺は聖が納得するまで同じ言葉を言った。



後日、神谷と永尾にはお礼と謝罪を受けた。神谷にとっては予定外なことでテンパってたらしい。永尾はいつにもまして濃厚な日を味わえて嬉しかったらしい。のろけか?このやろ。


俺は聖が納得するまで話し合って甘えさせてやった。


ほんと、誤解はしないでくれ。


俺はお前以外に興味ないって言ってるだろうが唯斗。



Fin



*煌太の名前が滉也になっていたのを今更ながらに気が付いたので、修正しました。すみません。
2025.02.02.槇瀬
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

処理中です...