貴方の傍に…

槇瀬陽翔

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「返して!その子を返して!」

父の足にしがみつき声を荒げ俺を取り返そうとしている母。

それが幼い俺が見た母の最期の姿だった。


俺はそのまま実父に見知らぬ場所へと連れて行かれた。
「どうだ?上玉だろ?」
見知らぬ男に俺を見せて実父が笑う。
「ホンマやな。えろうかわええ顔しとるし、こりゃ客受けがええで」
男のその言葉の意味は幼い俺にはわからない。
「好きに扱え。いっそのこと特別にすればいい。こいつなら巧くやれるだろう」
実父が俺を見ながら言う言葉はなにを意味しているのか分からない。特別とは何なのか?
「そりゃええ。せやったら、一回の料金はこれでどや?」
一回の料金?なんのことだうか?俺はこれからどうなっていくのか?
「そうだな、それでいい。こいつの料金はそれで決定だ」
実父は満足そうに笑う。
「それからこれがあんさんへ払う金額や。上玉やし、いつもより上乗せさせてもろたで」
男が紙を差し出している。実父はそれを受け取り目を細め
「いい商売してやがる。決まりだ。じゃぁ、こいつは好きにつかってくれ。また新しいのを連れてくる」
実父はもらった紙をポッケの中にしまい、俺を残したまま出ていった。そんな実父を俺が追いかけようとしたら
「あかんで、お前は今日からここで働くんやすみれ
腕を掴まれ言われた。そして、俺は訳が分からないまま店の奥へ連れて行かれ
「ここがお前の部屋や。この浴衣に着替えてお客の相手をしぃや」
説明もないまま部屋の中に俺を置いて男は出ていった。一人残された俺は意味も分からぬまま、一度だけ着たことのある浴衣へと着替えて部屋の隅に座った。


そして、知ることとなる。この店が何の店で俺が何のためにこの場所にいるのかということに…


「うっ、ぁ、やぁ、うぅ、ぁ、っ」
そう、俺は実父に高値で売られたのだ。そして、己の身体で男たちを喜ばす道具になったのだ。

特別。それはこの店にとって最高の商品。殺しさえしなければどんなに傷付けようが構わない存在。それが俺。

もう逃げ出せない。幼い心で俺はそう気が付いた。俺は一生この店の檻の中。

そう思っていた。そう思いながら15の夏まで店にいた。でも転機は起きた。

本当に偶然だった。ボロボロの状態で店の外に出た所をすごく紳士な人に助けられた。その人に事情を聞かれ、今までのことを話したら俺は店を抜け出すことができた。そしてその人は自分の子として家に招き入れてくれたのだ。

それから2年の間、俺はその人の家で今まで知ることのなかった知識を学んだ。学校での勉強も一般的な常識も何もかも、丁寧に教えてくれたのだ。


東條菫とうじょうすみれとして新しい人生を歩むことをさせてくれた義理の父、喜一きいちさんは凄く優しい方だった。

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