貴方の傍に…

槇瀬陽翔

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act16

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俺はカバン一つ持ち二度と戻らないと決めた場所に戻ってきていた。

店の前。暫くそこに立っていた。暖簾をくぐればもう俺はもう元には戻れない。でもあの場所にも戻れない。ならば行くしかない。俺は小さな溜め息と共に店の中へと一歩踏み入れた。
「菫やないか。戻ってきおったんやね。お前の部屋は今でもあいとるで。今晩からまた稼いでや」
俺を見た番頭兼このオーナーの冴島が言う。聞きたくなかった声。
「分かりました」
俺はそれだけ呟き自分の与えられていた場所へと向かう。

出て行ったまま。何もない部屋。あるのは服を入れる場所と布団と風呂とトイレのみ。

客が来るのは大半が夕方から…俺が戻ってきたって知ったらどれだけの客が来るんだろうか?
俺じゃなくてもいい奴はたくさんいるけど。

憂鬱なまま営業時間を迎える。専用の浴衣に着替え俺は部屋の隅に座る。これが俺の定位置。
「菫ちゃ~ん。戻ってきたんだって~」
そんな声と共に客が入ってくる。俺は小さくお辞儀をする。俺は元々必要なこと以外は話さないタイプだ。客のしたいようにさせておくだけ。
「ささ。こっちおいでよ」
客が俺を呼ぶ。俺はゆっくりと客の待つ場所へと向かう。

そして俺は金で客に買われるのだ。

1日で一体どれだけの客を捌いたんだろうか?もう覚えてないや。

感情も身体の感覚も麻痺してる。それだけ俺はこの道に嵌り過ぎている。店が終わるまで俺は色んな奴にいい様に扱われる。時には暴力だって振られる。そうしないと感じない客だっているからね。それすらもうどうでもいい。

俺が生きていける場所はもうここにしかないのだから…

朝、いつものようにミーティングが始まる。売上と売上金の配布だ。それは毎日行われる。
「菫。帰って早々ええ儲けやで」
冴島は俺に茶色い封筒を5つ渡す。一つ百万。それが5つ。全部で500万。3分の2は冴島が持ってく。ということはそれ以上稼いだことになる。今となってはどうでもいいことだけど…。
俺はそれを受け取りその場所を後にする。いつも俺はそこで退場。ミーティングなんて聞いていられない。聞かなくても分かってるから…。

部屋に戻り封筒をカバンの奥底にしまう。そして定位置となったあの部屋の隅で座り窓の外を眺める。
助けなど二度と来ないこの場所。俺はもう抜け出せない。

今日もまた客を買うのだ。多額の金で。客の思うように…啼きながら…

俺の身体は汚れすぎている。この場所にいる以上、その穢れは一生つきまとう。

イヤ、この場所を抜け出してもそれは俺の穢れとして一生残るのだ…消えることはない。

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