貴方の傍に…

槇瀬陽翔

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act24

朝起きてため息をつく。今日は俺の再テストの日。手の震えはまだ治まらない。日常生活には支障がないほどまでには治まったが、突然起こる発作はどうしようも出来ない。
部屋を見渡せば遙の姿はなく、枕元に手紙があった。

『生徒会の仕事がある。先に行く。朝飯が食えるなら食え。薬はちゃんと飲めよ』

相変わらずな文面。優しいのか優しくないのか。よくわからないが…俺はベッドから降りて遙の部屋を出る。
テーブルの上には俺のために作られた朝食と薬が置いてあった。はっきり言って食欲はない。ないが、薬を飲むためには少しでも胃に入れたほうがいいのだろう。そう思い俺は床に座り、遙が作ってくれた朝食を食べ始める。といってもお粥なんだけど…。今回の事件が起こってからまともに俺は物を食べてないからだ。食欲がないにもかかわらず、不思議なもので俺は用意されていたお粥を全部食べきった。
「なんでだろ?」
一人呟き遙が飲むだけの状態にしておいて置いてくれた薬を飲み、食器を持って立ち上がる。。そのままキッチンに行き食器を水につけ、俺は自分の部屋に戻った。

久しぶりに入る俺の部屋。クローゼットを開けて制服を取り出し着替える。学院に行くのなんて何日ぶりか? なんて思いつつ着替えを済ませ、カバンに教科書と筆箱を入れる。ノートは…数学と英語だけでいい。
残りは何とかなるだろう。全ての準備を済ませ俺は寮を後にした。


俺は俺のテストのためだけに用意された教室へと向かう。教室に人影がある。もうみんな来ているんだろう。俺は深呼吸をし、扉を開け
「おはようございます」
そう声を掛け中に入る。
「おはよう。早速はじめようか?」
生徒会顧問の真辺先生が言う。俺は机のそばに行き
「はい」
そう答え筆箱を出し少し考える。
「東條?」
動こうとしない俺に先生が呼びかける。俺はおもむろに遙の前に行き
「兄さん。これ持ってて」
カバンを差し出す。俺は俺の実力を出す。それならば教科書は要らない。
「いいのか?」
遙が聞いてくるから俺はうなずき席に着き
「先生。休憩無しでお願いします」
そういう。
「無理することないんだぞ?」
真辺先生はそう言ってくるが
「大丈夫です。テスト開始してください」
俺はきっぱりと言い切った。真辺先生も諦め俺の前にテストを置いて
「はじめ」
そう告げる。俺はシャープを握りしめ、ただ目の前に並ぶ問題に集中した。

でもそれは突然に訪れた。

ガシャン。

筆箱が床に落ちて悲鳴を上げる。俺の手からシャープが落ち手の震えが酷くなる。あぁ。やっぱりこんなときにでも発作が起きるんだ。なんて俺は他人事のように震える手を見ていた。
「先生。いいですか?」
遙がそう聞いている。
「あぁ」
真辺先生もなにか返事をしている。
「菫。口あけろ」
遙が俺の前にきて突然そんなことを言う。俺は訳がわからないまま口を開けると遙は口の中に白い錠剤を2粒入れ、
「飲め」
ストローの入ったペットボトルを俺の前に出し、言う。俺は訳がわからないままいうことを聞いた。きっと何か理由があるんだろうから…
「1、2分我慢しろ。そうすればその震えは治まる。但しあまり長くは持たない。発作のつど飲むしかない」
遙は俺が落とした筆箱を拾い机の上に置くとペットボトルを持って元の場所に戻っていった。
震えが止まる?疑問に思った言葉はすぐに掻き消された。遙の言うとおり震えはいつものように支障の無いものへと変わった。俺はシャープを握り締めると再び問題に取り掛かった。

テストの最中に3回ほど発作が起きたがそのつど遙が薬を飲ませてくれて何とか俺は無事にテストを受けることが出来た。

「よし。やめ。今日はもうこれで帰っていいぞ」
真辺先生が俺の答案用紙を取り、言う。遙が俺のカバンを机に置く。これで役目が終わったのか役員全員が出て行こうとしていた。俺はとっさに
「あ…あの…俺のためにありがとうございました」
そうお礼を告げていた。みんなは一瞬驚いた顔を見せたが
「これも仕事の一つだ。気にするな。行くぞ」
遙の一言でみんなが出て行く。真辺先生も出ていき、一人残された俺は片付けをし、溜息をつく。やれるだけのことはやった。どんな結果が出ようとも後悔はない。
「おし。帰ろう」
一人呟き、カバンを持って立ち上がった。そして俺は寮へと戻っていった。

俺のテストが終わって1週間後。廊下に全学年の結果が張り出された。遙はやっぱり頭がいいんだ。学年で1位だ。亮も5位に入っていた。俺はどうせ下の方だろうって思って順番に見ていったら自分でも驚く位置にいた。学年で20位?嘘だろ?俺が?

「基礎は完璧だって言っただろ?応用さえ身につければお前はもっと上に行くぞ」
耳元でこそっと言われた。驚いて振り返れば遙が立っていた。
「兄さん。やっぱり兄さんは凄いですね」
俺はそう呟いた。遙は俺の頭を撫でて
「お前も頑張ったじゃないか。初めてのテストだったのに」
なんて言ってくる。ありえねぇ。人前でこんなことするこいつが信じられねぇ。
「俺はまだまだです」
俺はそう答える。完璧な兄弟。そう見せかけなければ…。
「そうだ、これ。朝渡し忘れた、いつもの薬だ」
遙は俺の手の上に錠剤を乗せる。あ…そういえばそうだ…
「ありがとう。じゃぁ…俺もう行くね」
俺はそれを受け取りその場を離れた。俺には完璧な兄弟なんて演じ切る自信なんか無い。俺は赤の他人なんだから…


俺の手の震えは小さな障害となって残った。生活に支障は無いけれど手が震える。頭痛もある意味、障害なのかもしれない。時折、激しい頭痛が襲う。俺はこれらと一生付き合っていかなきゃいけないのかもしれない。今更傷が増えてもなんともないのだけど…俺の身体は傷だらけだから…

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