貴方の傍に…

槇瀬陽翔

文字の大きさ
27 / 32

act27

しおりを挟む
俺は退院すると喜一さんの家へと戻った。

あの場所と同じ空気を纏うこの家にいるのは正直に言えば辛いものがある。息苦しい。気持ちが悪い。
でも俺にそんなことをいう資格はない。ただで厄介になってる身なのだから…。

俺は自分のために与えられた部屋の中にあるソファに座りぼーっとしていた。
無意識のうちに足を触ってしまう。正確には足首に嵌まってるアクセサリーだけど…。
それに触れているとなんだか落ち着く気がするから。だからそれに触れてしまう。
誰に貰ったものかもわからないものなのに…。


宿題はこの家に戻ってからすぐに済ませた。誰にも迷惑がかからないように自分で出来ることをしようと思ったから…。だから先に全て済ませた。そしたら時間が余ってしまった。
何もすることがないのだ。

今までの俺はただ、己の身で男に買われ時間を過ごしてきたから今どきの若い子が何をしているのかなんてわからない。自分でも何がしたいのかさえわからない。ただただこの家から早く出て行きたい。それしか思いつかない。かと言って学院に行っても俺の居場所はないのだけど…。

ただ、毎日をぼーっと過ごしていた。本当に何もすることがない。というか、することが思いつかない。

この家に戻って何日経ったのかな?それすらも覚えてないや。

夜中にふと目が覚めて喉が渇いたから水を飲もうと思って、キッチンに向かうべく歩いていったら、リビングの方から話し声がした。内容的に俺の話だった。俺は階段に身を潜めて二人の会話を盗み聞きしていた。

「兄さん。そろそろ菫くんに本当のことを教えてあげてもいいんじゃないかな?」
喜一さんがそう言っている。本当のことってなんだろう?
「菫くんか。彼の母親に助けてくれと頼まれたことかい?」
俺の母親?
「それもだけど…本当は私の籍に入ってないって事も。東條家の人間ではないということを…」
籍に入ってない…あぁ…やっぱりそうなんだ…
「喜一。それは菫くんが卒業して自立するまで言うつもりはない。それが彼女との約束だろ?彼女の遺言を守らなくてどうするんだ。残酷かもしれない。でも今は一時の幸せを家族という幸せを感じさせてあげてもいいんじゃないかな?」
真澄さんがそういう。母は…他界してるんだ…やっぱり俺にはどこにも居場所なんてないんだ。俺はそれ以上、会話を聞いていることができずそっと自分の部屋に戻りベッドに潜り込んだ。

「やっぱりね…俺…俺のまま…」
そんな言葉しか出てこねぇよ。真澄さんと喜一さんは俺の母親に頼まれて仕方なく俺を預かってるだけなんだ。だよな…じゃなきゃ好き好んで売春夫をしていた奴なんか養子になんかもらわねぇよな…情けねぇ…俺はずっと騙されてたんだ…ここの人たちに…俺は拳を握り締めた。
「もういい…もういいよ…俺は騙されたふりを続けるよ…誰にも迷惑が行かないように…」
この胸の中に芽生えた恋心も遙がくれた優しさも全部…全部忘れるよ…
涙がこぼれ落ちた。もう泣くのはこれで最後。俺は東條菫を演じるよ。そうすればこの家にも迷惑いかないだろうから…。


次の日から俺は部屋から出ることを拒んだ。食事の時とお風呂に入るとき以外は…

それ以外はただひたすらに眠り続けた。自分の感情を仕舞い込む為に…。売春をやってるときと同じように俺はただの生きた人形。感情を表に出さないただの人形に戻るために眠り続けた。そうすることで俺は感情を自分の中に…自分の心の奥底に仕舞い込むことが出来るから…

「おい。寝てんのか?」
突然、声をかけられた。俺はそっと目を開け、
「なんですか?何かありましたか?」
声の主に聞く。声の主は遙だ。
「なんで部屋から出てこねぇんだお前?てかなんでまた敬語なんだよ?」
遙の眉間に皺が寄る。俺は身体を起こし
「すみません。時々こうなるんです。心で思ってることと話す事が違ってしまうことが…部屋から出ないのは意味はないです。ただ…身体を休めたくて横になってるだけですから…」
遙の方を一切見ないで告げる。遙に顎を掴まれ遙の方に向かされる。
「何を考えてる?何があった?」
遙は俺の目をじっと見て聞いてくる。俺は小さく横に首を振り
「何も。兄さんが心配するようなことは何もないです。本当に身体を休めていただけですから…」
答える。視線は合わせずに…。
「てめぇ俺の目をちゃんと見ろ」
遙が言う。俺は言われたとおりに視線を合わせる。遙の眉間にますます皺が寄っていく。
「離してください。本当に何でもないですから」
俺はそう呟く。人形は人形のまま。心を封じた俺はただの生きた人形。何を言われようが何も感じない。
「ちょっと来い」
遙は俺の腕をつかむと強引に部屋から俺を連れ出し、1階に向かっていく。そのままリビングに行き、
「おい。クソ親父に真澄。こいつに何を話しやがった?」
そう怒鳴る。
「何のことだい?別に何も話してないよ?」
真澄さんが不思議そうな顔をして言う。
「菫くんには別に何も話してないけどそれがどうかしたのかい?」
喜一さんも不思議そうに聞く。
「じゃぁ。こいつがいねぇところでお前ら何の話をした。今のこいつはただの人形だぞ。自分の感情なんて持ってねぇ。こいつがショックを受けるようなことをてめぇら話してたんじゃねぇのか?」
遙がそう怒鳴る。その言葉に真澄さんと喜一さんが顔を見合わせる。
「兄さん。何を言ってるんですか?俺は別にいつもと同じです」
俺は遙の手をほどこうと遙の腕に触れる。
「ふざけんな!それのどこが普通だ!てめぇ俺が気付かねぇと思ったか?今のお前は完全に心を閉ざしてんだろうが!ただ生きてるだけの人形のような目しやがって」
遙が俺の顔を見て言う。俺は小さく笑い
「兄さんの勘違いです。腕…痛いので離してください」
そう告げる。なんで俺の変化に気付くんだろうな。俺のこと嫌いだっていった奴がさ。一番俺のこと気付いてんじゃん。遙はぎゅっと俺の腕を握り締めると、
「ふざけんな」
唸るように呟き俺を連れてリビングを出て行く。そしてそのまま自分の部屋へと俺を連れてくる。そのまま乱暴に俺をソファに投げつけた。こんなことされても痛いとも思わないし怖いとも思わない。
ただ、なんで遙がこんなことするのかだけは俺には理解出来なかった…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会長様は別れたい

槇瀬陽翔
BL
大我と恋人同士になり、発情の暴走も何とか収まった唯斗。ある日、唯斗の元に子供の頃にお世話になっていた養護施設から電話がかかってきて…。まるでそれが火種になったかのように起こる出来事。いつも以上に落ち込む唯斗。そんな唯斗に手を差し伸べたのは恋人である大我だった。 会長様シリーズの第3部です。時系列的には第1部と第2部の間の話になります。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

この腐った学園で生き抜くためのたった一つの方法。

田原摩耶
BL
学園の美形たちのスキャンダルを利用して小遣い稼ぎしていた新聞部員が生徒会長に目を付けられてめちゃくちゃにされる話。 品もモラルもはないです。なんでも許せる方向け。

発情薬

寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。  製薬会社で開発された、通称『発情薬』。  業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。  社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

幼馴染みのセクハラに耐えかねています。

世咲
BL
性格クズな学園の王子様×美形のちょろヤンキー。 (絶対に抱きたい生徒会長VS絶対に抱かれたくないヤンキーの幼馴染みBL) 「二人って同じ名字なんだ」「結婚してるからな!」「違うな???」

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

処理中です...