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紅い満月の囁き
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あいつに会うまで俺は月を見るのが嫌だった。
月には不思議な魔力が宿り、人々や魔物の力を強めると言われていた。
月の魔力に魅入られ滅んだ人々を何度も見てきた。
魔力、妖力…力の暴走。
己の扱える以上の力を手に入れ自滅する奴もいた。
そんなものを何度も見てきたから月を見るのは嫌だった。
月が嫌いなわけじゃない。
自分の中にある力が暴走するのが嫌だった。
ただそれだけだ。
そう思っていた。
あいつに会うまでは…
「ねぇ、ナギ兄ちゃん見てぇ~」
「キレイでしょー。お揃い」
遠くから走ってくる双子。
旅先で知り合った音楽団の幼い踊り子たちだ。
二人は嬉しそうに駆け寄ってくる。
首元、手首、足首にお揃いのキレイな羽飾り。昨日まではなかったもの。
「どうしたんだそれ」
二人に聞いてみれば
「昨日の客様からの贈り物なのぉ」
「踊りのお礼なのぉ」
よっぽど嬉しかったのだろう。ニコニコ笑いながら教えてくれる。
「そっか、よかったな」
俺が二人の頭を撫でた瞬間に左腕がザワついた。
いや、正確には左腕の中にいるものがザワついたのだ。
だが、それは一瞬だったため俺は気にせずにいた。
遠くで二人を呼ぶ声がする。
「お母さんが呼んでるからもう行きな」
二人に向かって言えば
「うん、またね」
「またね、お兄ちゃん」
二人は大きく手を振って母親の方へと走っていった。
二人を見送った後で左腕にある黒い刺青に触れれば呼んでもいないのに一匹の黒蝶が姿を現す。
黒蝶にしては珍しく淡い緑色の光を纏っていた。
それはまるで何かを忠告するかのように淡い光が点滅している。
本来、自分の中にいる黒蝶がこうして自ら外へ出てくるということは何かが起こるといことなんだろう。
嫌な予感はある。あの双子のつけていた羽飾り。微かに香った妖鳥の香り。臭気と共に纏わりつくように匂った。
「なにもなければいいけど…」
黒蝶はひらひらと淡い光を纏ったまま俺の周りを一回りした後で腕の中に消えた。眠ったように何の反応もしなくなった。
刻々と日は沈み華やかな曲と歌声が遠くから聞こえる。音楽団たちの演奏が始まったのだ。今日も人の入りはいいようだ。たくさんの歓声と拍手が離れた場所にいる俺の所まで聞こえる。
音楽団たちのテントからそれなりに距離を取って自分のテントを立てていた。がそんな場所にまで聞こえるのだからそれなりの大きさなんだろう。
俺は木に凭れて目を瞑り流れてくる曲を聞いていた。
「きゃぁぁぁぁあ!!」
「ぎゃぁあぁぁ!!」
軽快な演奏を遮る悲鳴が上がった。何事かとキャンプの方へ眼をやれば信じられない光景が広がっていた。
逃げ惑う人々と人ならざる者の影。歪な形をした影。その背後に浮かぶのはRed Moon。魔力を持つ紅い満月。
人々の悲鳴とバリボリと骨を砕く音。ジュリュリと血をすする音。グチャリグチャリと肉を食らう音。
「お…にぃ…ちゃ…ん」
「た…す…け…て…」
歪な影から聞こえるのは幼い双子の踊り子の声。あの子たちが着けていた羽飾りの生贄にされたのだ。満月の魔力を喰らい本来の力を取り戻すために羽飾りの中に残っていた妖力が二人を喰らい、人々を喰らった。
真っ赤な闇の中に広がっていく赤い赤い血の海。
「フハハハ…ワレハ…ヨミガエッタ…フハハハ」
歪な影が、月の魔力を喰らい、人々を喰らい、本来の姿を取り戻した妖鳥の姿をした魔物。
左腕がザワりとざわつく。
いや、ゾワゾワとしているのか?
心配するなと言わんとしてるのか?
いつになく腕の中で主張をする。
「オマエモ…クワレロ…」
いつの間に移動してきたのか目の前に魔物が来ていた。
ヤバッ!
と思った瞬間
ヒュン!
と頬を掠めるかどうかの距離で何かが飛んでいき
「ぎゃぁぁ」
魔物が悲鳴を上げる。
「ビビりなのか?それとも自殺願望があったのか?」
そんな言葉を投げかけられ振り返れば真後ろに男が立っていた。
弓使いのルキ
同じギルドに属しながらも何かに阻まれているかのように一度も会ったことがなかった男。
お互いそれなりに名前が売れているので一緒に組んでみるのも楽しいかもと思ってみたこともある。だが、どういうわけかこの男にだけはギルド内でも会うことができなかった。
外で偶然ってことも起こりうるはずなのに、それすら今まで一度もなかったのだ。
なのになぜこの男がこの場所にいるんだろうか?
「本当に自殺願望だったのか?」
キョトリとした顔で聞かれた。こっちの考えてることなどお構いなしか。
「いや、自殺願望でもビビりでもない。なんでお前がここにいる?」
このタイミングでここにいること事態が謎だ。
「俺はこいつに呼ばれてきた」
そう言ってルキが差し出したのは黒蝶。
「はっ?なんで?」
驚いて自分の左腕を触る。そこから流れてくるのは力。いつもと違う力の流れ。
「キサマラ!コロシテヤル!」
魔物が騒ぎ始める。
ルキの持っていた黒蝶が淡い光を発し始める。それと同時に腕の中が反応し始める。俺はルキの手から黒蝶を受け取り
「そういうことか…。なぁルキこいつをお前の弓で射貫いてくれ」
空に放つ。
「了解」
ルキは俺の言ったとおりに放った黒蝶を射貫く。
「ナニヲシテイル。チマヨッタカ」
魔物が攻撃を仕掛けようとしてくる。
「慌てんなよ」
ルキの一言で射貫いた黒蝶に青い稲妻が纏わりつく。ルキも俺の言った意味が分かったらしい。
「いでよ、黒翠蝶」
首につけてるクロスの飾りを持ち呼べば左腕の刺青の中から無数の黒い蝶が現れる。クロスの飾りはいつしか姿を変え、そこへ黒蝶が舞い降り姿を変える。そして現れたのは翡翠の刃と深紅の柄をした剣。
「目覚めよ、蒼痲弓」
ルキのその言葉に反応するようにルキの掌に蒼い稲妻が走るのと同時に現れたのは蒼い弓。
なぜ、このタイミングでルキがこの場所に現れたのかハッキリした。
お互いの中に眠る力の覚醒。黒翠蝶と蒼痲弓がお互いを呼び寄せ、紅い満月の魔力を借り本来の力を目覚めさせた。
「ナンダソノチカラハ」
魔物が叫ぶが
「悪いな。月の魔力を喰らうのはお前たち魔物だけじゃないんだ」
「そうだな。こっちにも必要とするヤツもいるんでな」
俺もルキも同じことを口にする。俺の剣もルキの弓も月の魔力を欲した。完全に目覚めるために…。
「コロシテヤル、クッテヤル」
魔物は叫びながら攻撃を仕掛けてくる。無数に飛んでくる鋭い刃をした羽。
「食われるのはごめんだな」
「俺を食っても美味くないぞ」
ルキが弓矢で羽を打ち、俺が剣で弾く。
「キカヌ」
再び投げつけられる無数の羽。
「めんどくさぁ。ルキ、黒蝶を打ち抜け」
俺は無数の羽を破壊するために刃になってる黒蝶を空へ放つ。
「はいよ。走れ蒼雷」
ルキは躊躇うことなく空に放った黒蝶すべてを打ち抜いた。
「チマヨッタカ。ヤイバヲナクシテドウ、タタカウツモリダ」
魔物があざ笑うかのようにいうが俺には目的があってルキに頼んだのだ。
「血迷っちゃないさ。黒翠蝶には別名がある。それは黒死蝶。蒼痲弓の矢で射貫かれたこいつらは蒼い稲妻を纏って蘇る。そして…」
「咲き誇れ蒼雷」
ルキのその言葉で射貫かれた黒蝶がまるで花弁のように青い稲妻を纏い舞う。
「いけ黒蝶」
俺の言葉で魔物に向かって蝶が飛んでいく。
「ギャ、ギャァァ」
魔物の周りを青い稲妻とともに黒蝶が覆い悲鳴を上げる。
「ほんじゃ、止めと行きますか」
「さっさと終わろう」
ルキの言葉に返事をすれば黒蝶が舞い戻り翡翠の刃に戻る。
「クソ、コロシテヤル」
魔物が大きな爪を俺たちに向かって振り下ろしてくるが
「案外、遅い」
「一生寝てろよ」
二人してそれをよけ、俺は刃を振り下ろし、ルキは3本の弓矢を放った。
蒼い雷と翡翠の炎が入り混じったとき
「ギャァァァ!!!」
耳を塞ぎたくなるような断末魔と異臭を放ち魔物は死んだ。
シャラン、ラン
小さな鈴のついた飾りが二つ地面に落ちる。それは幼い双子の踊り子の二人が対で着けていたもの。
「かわいい子だったんだぜ」
落ちた飾りを拾い呟けば
「好みだったのか?」
そんな言葉が飛んできた。
「そうじゃないだろ。好みじゃないけど可愛かったって話だよ」
落ちた飾りを拾えば
「簡単なもんだけど、ないよりはましだろ?」
ルキが小さな簡単なものだけど二人のための墓を作ってくれる。俺はその墓に拾った飾りをかけた。
「さてと…戻れ黒蝶」
俺の言葉に反応するように刃になっていた黒蝶が羽ばたき左腕の中に戻っていく。そして最後の一匹が俺とルキの周りを飛びゆっくりと腕に止まる。
「道案ありがとな」
ルキがそんなことを言う。
「気付いてたのか?こいつだって…」
俺が驚いて聞けば
「ん?あぁ、だってこいつだけ紅い目をしてる。黒蝶の中でのリーダー的な存在なんだろ?」
ルキは小さく笑う。それは確かにルキの言うとおりだ。黒蝶のリーダーで名を翠という。俺の中で眠っていた力が目覚めた時、その力は無数の黒蝶となり翡翠の刃となった。その時に翠という名が流れてきたのだ。リーダーの名前が…。
「翠、ありがとう。ゆっくり休んでくれ」
きっと俺が気が付かないうちに俺の中から半身だけ抜け出しこの男をここまで導いてきたんだろう。翠は一度だけ淡い光を発し眠るために腕の中に戻った。
「眠れ、蒼痲弓」
ルキが呟けば弓は蒼い稲妻を発し小さな石へと変化する。
「で?これからどうするんだ?」
俺はこれからどうするつもりなのか聞いてみた。
「ん?こうして出会えたんだ。これから一緒に旅しようじゃないか」
考えるのは愚問だと言わんばかりにあっさりと言われた。
「それもそうだ。俺飯作れねぇけど平気か?」
俺はルキに断言する。飯は作れない。どう頑張っても作れなかった。だから保存食は結構持ち歩いてる。
「いいんじゃない。だって俺が作れるから」
ルキは笑った。
ふと、俺は空を見上げた。そこにはまだ輝く紅い満月。不思議とその月を見るのが嫌だとは思わなかった。
「ナ~ギ~。寝床探しに行くぞ。ここじゃさっきの魔物のせいで臭くて寝れない」
いつの間に歩き出してたのかルキが呼ぶ。
「ちょ…置いてくなよ」
俺は慌ててルキの傍に駆け寄った。
「これからよろしく相棒」
俺はルキの背を軽く叩く。
「こちらこそよろしく」
いきなりの俺の言葉に驚いた顔を見せたルキだったが同じように答えてくれる。俺たちは今夜の寝床を探しに歩き始めた。
月を見るのが嫌じゃなくなったのはきっと、この男が傍にいてくれたからだろう。
俺たちの冒険はいま始まったばかりだった。
Fin
月には不思議な魔力が宿り、人々や魔物の力を強めると言われていた。
月の魔力に魅入られ滅んだ人々を何度も見てきた。
魔力、妖力…力の暴走。
己の扱える以上の力を手に入れ自滅する奴もいた。
そんなものを何度も見てきたから月を見るのは嫌だった。
月が嫌いなわけじゃない。
自分の中にある力が暴走するのが嫌だった。
ただそれだけだ。
そう思っていた。
あいつに会うまでは…
「ねぇ、ナギ兄ちゃん見てぇ~」
「キレイでしょー。お揃い」
遠くから走ってくる双子。
旅先で知り合った音楽団の幼い踊り子たちだ。
二人は嬉しそうに駆け寄ってくる。
首元、手首、足首にお揃いのキレイな羽飾り。昨日まではなかったもの。
「どうしたんだそれ」
二人に聞いてみれば
「昨日の客様からの贈り物なのぉ」
「踊りのお礼なのぉ」
よっぽど嬉しかったのだろう。ニコニコ笑いながら教えてくれる。
「そっか、よかったな」
俺が二人の頭を撫でた瞬間に左腕がザワついた。
いや、正確には左腕の中にいるものがザワついたのだ。
だが、それは一瞬だったため俺は気にせずにいた。
遠くで二人を呼ぶ声がする。
「お母さんが呼んでるからもう行きな」
二人に向かって言えば
「うん、またね」
「またね、お兄ちゃん」
二人は大きく手を振って母親の方へと走っていった。
二人を見送った後で左腕にある黒い刺青に触れれば呼んでもいないのに一匹の黒蝶が姿を現す。
黒蝶にしては珍しく淡い緑色の光を纏っていた。
それはまるで何かを忠告するかのように淡い光が点滅している。
本来、自分の中にいる黒蝶がこうして自ら外へ出てくるということは何かが起こるといことなんだろう。
嫌な予感はある。あの双子のつけていた羽飾り。微かに香った妖鳥の香り。臭気と共に纏わりつくように匂った。
「なにもなければいいけど…」
黒蝶はひらひらと淡い光を纏ったまま俺の周りを一回りした後で腕の中に消えた。眠ったように何の反応もしなくなった。
刻々と日は沈み華やかな曲と歌声が遠くから聞こえる。音楽団たちの演奏が始まったのだ。今日も人の入りはいいようだ。たくさんの歓声と拍手が離れた場所にいる俺の所まで聞こえる。
音楽団たちのテントからそれなりに距離を取って自分のテントを立てていた。がそんな場所にまで聞こえるのだからそれなりの大きさなんだろう。
俺は木に凭れて目を瞑り流れてくる曲を聞いていた。
「きゃぁぁぁぁあ!!」
「ぎゃぁあぁぁ!!」
軽快な演奏を遮る悲鳴が上がった。何事かとキャンプの方へ眼をやれば信じられない光景が広がっていた。
逃げ惑う人々と人ならざる者の影。歪な形をした影。その背後に浮かぶのはRed Moon。魔力を持つ紅い満月。
人々の悲鳴とバリボリと骨を砕く音。ジュリュリと血をすする音。グチャリグチャリと肉を食らう音。
「お…にぃ…ちゃ…ん」
「た…す…け…て…」
歪な影から聞こえるのは幼い双子の踊り子の声。あの子たちが着けていた羽飾りの生贄にされたのだ。満月の魔力を喰らい本来の力を取り戻すために羽飾りの中に残っていた妖力が二人を喰らい、人々を喰らった。
真っ赤な闇の中に広がっていく赤い赤い血の海。
「フハハハ…ワレハ…ヨミガエッタ…フハハハ」
歪な影が、月の魔力を喰らい、人々を喰らい、本来の姿を取り戻した妖鳥の姿をした魔物。
左腕がザワりとざわつく。
いや、ゾワゾワとしているのか?
心配するなと言わんとしてるのか?
いつになく腕の中で主張をする。
「オマエモ…クワレロ…」
いつの間に移動してきたのか目の前に魔物が来ていた。
ヤバッ!
と思った瞬間
ヒュン!
と頬を掠めるかどうかの距離で何かが飛んでいき
「ぎゃぁぁ」
魔物が悲鳴を上げる。
「ビビりなのか?それとも自殺願望があったのか?」
そんな言葉を投げかけられ振り返れば真後ろに男が立っていた。
弓使いのルキ
同じギルドに属しながらも何かに阻まれているかのように一度も会ったことがなかった男。
お互いそれなりに名前が売れているので一緒に組んでみるのも楽しいかもと思ってみたこともある。だが、どういうわけかこの男にだけはギルド内でも会うことができなかった。
外で偶然ってことも起こりうるはずなのに、それすら今まで一度もなかったのだ。
なのになぜこの男がこの場所にいるんだろうか?
「本当に自殺願望だったのか?」
キョトリとした顔で聞かれた。こっちの考えてることなどお構いなしか。
「いや、自殺願望でもビビりでもない。なんでお前がここにいる?」
このタイミングでここにいること事態が謎だ。
「俺はこいつに呼ばれてきた」
そう言ってルキが差し出したのは黒蝶。
「はっ?なんで?」
驚いて自分の左腕を触る。そこから流れてくるのは力。いつもと違う力の流れ。
「キサマラ!コロシテヤル!」
魔物が騒ぎ始める。
ルキの持っていた黒蝶が淡い光を発し始める。それと同時に腕の中が反応し始める。俺はルキの手から黒蝶を受け取り
「そういうことか…。なぁルキこいつをお前の弓で射貫いてくれ」
空に放つ。
「了解」
ルキは俺の言ったとおりに放った黒蝶を射貫く。
「ナニヲシテイル。チマヨッタカ」
魔物が攻撃を仕掛けようとしてくる。
「慌てんなよ」
ルキの一言で射貫いた黒蝶に青い稲妻が纏わりつく。ルキも俺の言った意味が分かったらしい。
「いでよ、黒翠蝶」
首につけてるクロスの飾りを持ち呼べば左腕の刺青の中から無数の黒い蝶が現れる。クロスの飾りはいつしか姿を変え、そこへ黒蝶が舞い降り姿を変える。そして現れたのは翡翠の刃と深紅の柄をした剣。
「目覚めよ、蒼痲弓」
ルキのその言葉に反応するようにルキの掌に蒼い稲妻が走るのと同時に現れたのは蒼い弓。
なぜ、このタイミングでルキがこの場所に現れたのかハッキリした。
お互いの中に眠る力の覚醒。黒翠蝶と蒼痲弓がお互いを呼び寄せ、紅い満月の魔力を借り本来の力を目覚めさせた。
「ナンダソノチカラハ」
魔物が叫ぶが
「悪いな。月の魔力を喰らうのはお前たち魔物だけじゃないんだ」
「そうだな。こっちにも必要とするヤツもいるんでな」
俺もルキも同じことを口にする。俺の剣もルキの弓も月の魔力を欲した。完全に目覚めるために…。
「コロシテヤル、クッテヤル」
魔物は叫びながら攻撃を仕掛けてくる。無数に飛んでくる鋭い刃をした羽。
「食われるのはごめんだな」
「俺を食っても美味くないぞ」
ルキが弓矢で羽を打ち、俺が剣で弾く。
「キカヌ」
再び投げつけられる無数の羽。
「めんどくさぁ。ルキ、黒蝶を打ち抜け」
俺は無数の羽を破壊するために刃になってる黒蝶を空へ放つ。
「はいよ。走れ蒼雷」
ルキは躊躇うことなく空に放った黒蝶すべてを打ち抜いた。
「チマヨッタカ。ヤイバヲナクシテドウ、タタカウツモリダ」
魔物があざ笑うかのようにいうが俺には目的があってルキに頼んだのだ。
「血迷っちゃないさ。黒翠蝶には別名がある。それは黒死蝶。蒼痲弓の矢で射貫かれたこいつらは蒼い稲妻を纏って蘇る。そして…」
「咲き誇れ蒼雷」
ルキのその言葉で射貫かれた黒蝶がまるで花弁のように青い稲妻を纏い舞う。
「いけ黒蝶」
俺の言葉で魔物に向かって蝶が飛んでいく。
「ギャ、ギャァァ」
魔物の周りを青い稲妻とともに黒蝶が覆い悲鳴を上げる。
「ほんじゃ、止めと行きますか」
「さっさと終わろう」
ルキの言葉に返事をすれば黒蝶が舞い戻り翡翠の刃に戻る。
「クソ、コロシテヤル」
魔物が大きな爪を俺たちに向かって振り下ろしてくるが
「案外、遅い」
「一生寝てろよ」
二人してそれをよけ、俺は刃を振り下ろし、ルキは3本の弓矢を放った。
蒼い雷と翡翠の炎が入り混じったとき
「ギャァァァ!!!」
耳を塞ぎたくなるような断末魔と異臭を放ち魔物は死んだ。
シャラン、ラン
小さな鈴のついた飾りが二つ地面に落ちる。それは幼い双子の踊り子の二人が対で着けていたもの。
「かわいい子だったんだぜ」
落ちた飾りを拾い呟けば
「好みだったのか?」
そんな言葉が飛んできた。
「そうじゃないだろ。好みじゃないけど可愛かったって話だよ」
落ちた飾りを拾えば
「簡単なもんだけど、ないよりはましだろ?」
ルキが小さな簡単なものだけど二人のための墓を作ってくれる。俺はその墓に拾った飾りをかけた。
「さてと…戻れ黒蝶」
俺の言葉に反応するように刃になっていた黒蝶が羽ばたき左腕の中に戻っていく。そして最後の一匹が俺とルキの周りを飛びゆっくりと腕に止まる。
「道案ありがとな」
ルキがそんなことを言う。
「気付いてたのか?こいつだって…」
俺が驚いて聞けば
「ん?あぁ、だってこいつだけ紅い目をしてる。黒蝶の中でのリーダー的な存在なんだろ?」
ルキは小さく笑う。それは確かにルキの言うとおりだ。黒蝶のリーダーで名を翠という。俺の中で眠っていた力が目覚めた時、その力は無数の黒蝶となり翡翠の刃となった。その時に翠という名が流れてきたのだ。リーダーの名前が…。
「翠、ありがとう。ゆっくり休んでくれ」
きっと俺が気が付かないうちに俺の中から半身だけ抜け出しこの男をここまで導いてきたんだろう。翠は一度だけ淡い光を発し眠るために腕の中に戻った。
「眠れ、蒼痲弓」
ルキが呟けば弓は蒼い稲妻を発し小さな石へと変化する。
「で?これからどうするんだ?」
俺はこれからどうするつもりなのか聞いてみた。
「ん?こうして出会えたんだ。これから一緒に旅しようじゃないか」
考えるのは愚問だと言わんばかりにあっさりと言われた。
「それもそうだ。俺飯作れねぇけど平気か?」
俺はルキに断言する。飯は作れない。どう頑張っても作れなかった。だから保存食は結構持ち歩いてる。
「いいんじゃない。だって俺が作れるから」
ルキは笑った。
ふと、俺は空を見上げた。そこにはまだ輝く紅い満月。不思議とその月を見るのが嫌だとは思わなかった。
「ナ~ギ~。寝床探しに行くぞ。ここじゃさっきの魔物のせいで臭くて寝れない」
いつの間に歩き出してたのかルキが呼ぶ。
「ちょ…置いてくなよ」
俺は慌ててルキの傍に駆け寄った。
「これからよろしく相棒」
俺はルキの背を軽く叩く。
「こちらこそよろしく」
いきなりの俺の言葉に驚いた顔を見せたルキだったが同じように答えてくれる。俺たちは今夜の寝床を探しに歩き始めた。
月を見るのが嫌じゃなくなったのはきっと、この男が傍にいてくれたからだろう。
俺たちの冒険はいま始まったばかりだった。
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