2 / 6
青年団
しおりを挟む「いいの、わたしだって手伝いたいの。それより、取材どうだったの? TVとか来るの?」
「残念ながらTVカメラとかは来ないよ。タウン誌の取材だそうだ」
椅子から立ち上がりそうな勢いの翼を尾児は手を振って否定し制止した。
そっか残念、と翼は項垂れた。
周りの女性達も尾児の言葉を聞いて長机に視線を戻し、作業を再開した。
「タウン誌って、『いい街、いい暮らし』に載るってこと?」
「違うよ。M市からの取材じゃなくて、今日来たのはI市のタウン誌の人だ」
尾児の言葉に作業をしていた女性達がざわついた。
「I市のタウン誌がなんでまたM市のこんな町に?」
奥に座る老婆が尾児に聞く。
町内会長の佐脇の妻だ。
「ああ、私もまったく同じ質問を彼にしましたよ。県内各市の伝統ある祭を取材するのが雑誌の企画らしいですよ」
尾児は少し笑って答えを返した。
佐脇夫人は、そう、とだけ呟いて頷いた。
「別の市のタウン誌に載るなんて、じゃあちょっとだけ有名になるね、うちの祭」
「そうだね」
楽しそうに言う翼に尾児も微笑み返した。
女性達の仕事が順調に進んでいるのを確認すると、尾児は青年団の方に顔を出してくると会議室を出ていった。
女性達は黙々と作業を続け、翼だけが見送りの言葉をかけた。
尾児が出ていったドアが閉まり、暫くは皆黙々と作業に集中していたものの、五分ほど経つと少しずつ会話が増えていった。
話題は先ほどの取材の話、そして祭の話。
翼の右隣りに座る母親もそのまた右隣りに座る隣の家の奥様と話している。
翼は同年代がいないので話をする相手を見つけれず、一人黙々と作業を続けていた。
翼が手に取っているのは祭の時に自身が着ることになる巫女装束だ。
長年使われている様で、所々が縫われて修復されている。
翼もまた、針に糸を通し修復作業に取りかかっている。
小学校時代に家庭科で高成績だったのが今でも自慢だ。
ただ翼にはなぜこの巫女装束がここまでボロボロなのかわからなかった。
教えられた巫女の役割は織輝神社で神輿が来るのを待っているだけであったからだ。
「翼」
不意に母親に名前を呼ばれ翼は驚いた。
針が指に刺さりそうになる。
「何?」
「あの人にはなるべく関わらないで」
母親は小声で、険しい顔で言う。
まるで説教されている様だ。
「あの人って、誰のこと?」
翼の問いに母親は答えない。
その代わりにじっと翼の目を見つめていた。
今まで見たことの無い母親の目に翼は恐怖を覚えた。
その目は酷く冷たく感じた。
真夏の昼過ぎとなると太陽光が視界を遮るほど照りつける。
噴き出す汗を拭いながら長束が尾児に教えられた倉庫に着くと活気のいい声が聞こえていた。
「エイサッホイサッエイサッホイサッ!」
倉庫内を覗くと青年団の若い男性達が神輿を担ぐ練習に励んでいた。
「エイサッホイサッエイサッホイサッ!……よぉしっ、ここら辺で休憩入れようか」
神輿に乗る金色に染めた短髪の青年――春日井頼斗がそう言うと他の青年達は歓喜の声を返した。
神輿から降りてくる頼斗に長束は近寄って声をかけた。
「タウン誌の取材?」
長束は挨拶と共に頼斗に名刺を渡した。
尾児との会話を繰り返す様に長束は頼斗に取材の説明をした。
頼斗は体格のいい強面で、尾児に少し似ていた。
汗だくになった無地の白Tシャツは肩まで捲り上げられていて、褐色に焼けた腕は豪腕と呼べるような逞しさである。
金髪のこともあり一見近寄り難い容姿であるものの、話してみると人懐っこい話し方をする青年であった。
長束の大人の作った人懐っこさではなく、青年の天然的なものだろう。
「祭はっすね、この神輿をオレら青年団が担いでって織輝神社まで行くのがメインっすね。あ、オレは神輿に乗って声掛けてるだけなんすけどね」
「そんな筋肉してるのに乗る役なんだね」
そうなんすよ、と頼斗が笑うので長束も笑い返す。
「昨年まで先頭で担いでたんすけど、今年は青年団の団長になっちまったんで乗ることになっちゃって」
「なっちまった、って嫌なのかい青年団の団長?」
「嫌ってわけじゃないんすけど、団長って人望とか責任感とかで選ばれるんじゃなくて青年団の最年長ってだけで選ばれるんすよ。んで、選ばれたらその年で青年団も卒業なんすよね」
頼斗は十八歳で今年高校を卒業する。
この町の青年団には二十五歳までと決まりがあって、昨年二十三歳の団長から頼斗は団長を受け継いだ。
「なるほど、寂しいのか」
「そうっすね。青年団なんっつても小学生のガキの頃から参加してましたから」
恥ずかしげもなく素直に答える頼斗に長束は好感を持った。
年齢で選ばれると言っていたが、やはり人望で選ばれたんではないかと思った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる