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清泪─せいな

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2 二年C組と観光バス

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「おーし、二年C組全員揃ってるな」

 朝イチからよくあんな大きな声が出るなと感心しつつ、武志は観光バスの前に立つ担任教師を見ていた。
 野佐来やさら幸一こういち、数学教師。
 中肉中背。
 よれよれのスーツに軽く整えた髪。
 頼りなさそうな見た目だが、実際野佐来は体育会系で授業中も無闇に声が大きい。
 それに対して、生徒たちは気の抜けた、はーい、で応える。
 無反応で流すと野佐来からの注意が長くなるということを春から学んできた。
 野佐来は、よしっ、と手を叩くと最前列に並ぶ生徒からバスに乗り込むよう促す。
 事前に決められた座席順に縦に並んだ列は次々とバスに乗り込んでいく。
 武志と瑠璃はバスの座席が前方だったため、列の最後尾で乗車を待っていた。

 武志と瑠璃は二年C組で、勇斗は二年D組だ。
 武志が二年D組の列を見ると勇斗の姿はもう無かった、もうバスに乗ったのだろう。

「ここからバスで三時間かぁ」

「瑠璃、酔い止め飲んできた? 私、忘れちゃって・・・・・・」

 瑠璃の隣で苦笑いを浮かべていたのは、これから隣の席に座る予定の青西|《あおにし》晴夏はるか
 青西は印象的な垂れ眉を更に垂らしたような困り顔をしていた。

「もう晴夏ったら。そんなことだと思ってちゃんと余分に酔い止め持ってきたよ、ハイ」

 瑠璃はそう言って鞄の中から酔い止め薬を取り出すと晴夏に渡した。
 ありがとう、と晴夏はそれを受け取り自分の鞄から水の入ったペットボトルを取り出して飲んだ。

「ていうか、昨日LINEしたよね? 酔い止め忘れないようにって」

「そうそう、それで用意しとこうって部屋の机の上に置いてたんだけど、朝すっかり忘れちゃって」

 たはは、と額を押さえて晴夏は顔を上げる。
 ポニーテールが垂れる。
 最近ハマってる深夜ドラマの脇役のクセらしい。
 瑠璃はそのドラマを観たことが無かったので何だかオジサンみたいな動きだなと思っていた。

「本庄、お前はバス酔いどうなの?」

 武志が瑠璃たちのやり取りを見てると、横から司馬しば正弥まさやが声をかけてきた。
 校則ギリギリの明るい茶髪をかきあげて頭の天辺で押さえるいつものクセをしている。
 肌管理は若い時からやらなきゃな、とよく言ってるからかあらわになった額は、キレイと女子に評判だ。
 武志の隣座席に座ることになっている。

「ん、俺? 俺は大丈夫だよ、今まで酔ったこと無いし」

「へぇー、マジで? 良いなぁ、オレは何回か酔ったことあってさぁ、三時間も乗るってなるとちょっと不安なんだよなー。しかも途中から山道っしょ、ガタガタ揺れんじゃないかなー」

 司馬はスマートフォンを片手に持っていて、そこには地図アプリが映し出されていた。
 事前に経路調べてるのかよ、と武志は感心した。

「これから修学旅行だってのに、バス酔いについてばかり話してんじゃないよ。ほら、前、進めるぞ」

 武志と司馬の背中をクラス委員長の瀬戸宮せとみやまるが押す。
 小柄な彼は、背の順で並ぶならいつも先頭だがクラス委員長ということもあって教師の横、バスの最前列に行くために列の後部に並んでいた。
 名前と同じ丸眼鏡をかけているが、その奥の目つきは厳しい。
 視力は悪くないが、きつく見える目元の印象を和らげるため、ほぼ伊達眼鏡としてかけているらしい。

「いや、でも円さぁ、修学旅行で今時山の上の観光地はねぇべ。どっか遊園地とか遊べるとこセットじゃない? 一日目は学習で二日目は行楽、的な?」

 司馬が表示してた地図アプリを指で操作して拡大してみせる。
 旅館の周囲に書かれていたのは、山だの滝だの、自然ばかりだった。
 慰安旅行かよ、と予定表を渡された際に武志も思ったものだ。

「何年か前に先輩方がハシャギ過ぎちまったらしいぜ。そういうアミューズメントなところでさ、出禁一歩手前ぐらいのことやらかしちゃって学校もPTAもご立腹だったって」

 委員長特権かそれとも先輩付き合いか、武志が聞いたこともない話を瀬戸宮は口にする。

「遊ぶ場所ないからって滝とか飛び込むなよ、委員長の俺が野佐来先生ヤサセンに報告しなきゃならないんだからな」

「飛び込まねぇよ、本庄じゃないんだから」

「俺はそんな野性児じゃねぇよ!」

「え、お前、修行とか言って飛び込んでそうじゃん?」

 武志たちのやり取りを聞いていた瑠璃は、列の前でクスクスと笑っていた。
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