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IV
18 勧誘への一歩とフクロウの刻印
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二、三、四、と続けてブッレヤクサが投げた大斧が魔狼に飛んでいき、その体躯を真っ二つに切断していく。
胴体に一線、的確な斬撃。
襲い来る魔狼を大斧が退けたことを理解した街の住人たちは、口々にブッレヤクサへの感謝を述べながら建物へと走っていく。
大斧の投擲範囲から魔狼が姿を消したのを見るや、ブッレヤクサはノールに歩き近づいていった。
「よぉ、青い甲冑のあんちゃん。アンタ、なかなかやるようじゃねぇか」
魔狼を斬り倒していたところに突然声をかけられ、ノールは反射的に身構えた。
「ん、何だ、ギルドの人間か?」
ノールが振り向くと、声をかけてきた大男──ブッレヤクサは獣皮の鎧をまとい、その胸にはフクロウの印が刻まれていた。
ギルド──アルベッツステーレ製であるという証明。
支給されるのはアルベッツステーレと契約してる者のみであり、単に仕事を引き受けただけでは渡されることは無いとノールは受付嬢に説明を受けていた。
「あんちゃん、どこかのギルド所属ってわけじゃねぇんだろ? 旅人にしちゃあ随分な腕前だと聞いたぜ。それに、その甲冑と大剣も、なかなかの上物じゃねぇか」
ブッレヤクサの見立てでは、ノールの甲冑はそこらで簡単に手に入るようなものではなさそうだ。
青を基調とした素材の鎧なら、鍛冶屋で金を積んで青銅で作ってもらえるだろうが、加工と火の熱に鮮明な青にはなり得ない。
青銅製の鎧は重く、防御に重点を置いた前衛向きの装備だ。
魔狼を追いかける俊敏さを考えれば、適しているとは言えない。
青銅じゃねぇとすると何の金属だ?
ブッレヤクサはごんっと一発殴って強度を確かめたくなったが、ノールと揉め事を起こしに来たわけではなかったので我慢した。
ブッレヤクサの狙いは、ギルドへの勧誘だ。
王都に兵士が籠ってしまっている現状、街の治安のためには一人でも役に立つ傭兵が必要であった。
「褒められても何も出ないさ。流れの旅人だからな、金に余裕は無いんだ。腕前と言えば、そっちも随分なものじゃないか。ところで、最近は斧を投げるのが主流の戦い方なのか? 今日出会った大型のリザードマンも大斧を投げつけてきたんだが」
ノールに問われ、ブッレヤクサは、ハッ、と鋭く息を吐くように笑うと、大きな身体に見合った大きな手で二つに割れた顎を撫でた。
「そいつぁ、リザードマンが人間の戦い方を真似てやがるんだよ。だがな、俺様のはただ投げてるだけじゃねぇんだ。魔素を使って自分の手元に戻ってくるように操ってる」
ほら、と言ってブッレヤクサは大斧を手から離して地面に落とした。
ドスン、っと重たい音と砂埃を起こした大斧の柄の部分と、ブッレヤクサの手の平に紫色の糸みたいなものが繋がっていて、グンと手を僅かに持ち上げると地面に落ちた大斧が浮かび手の平に戻ってきた。
「なるほど、魔素にそんな使い方があるのか。考えたな、えっと──」
「ブッレヤクサだ。昔からアルベッツステーレで世話になってる傭兵だ。狼退治の協力、感謝するぜ」
ブッレヤクサは鎧の胸部に刻印されたフクロウを大きな拳で叩いた。
ギルド流の挨拶、なのかとノールは理解した。
「ノールだ。最近デトハーに来たとこだ。ギルドにはいくつか仕事を受けさせてもらったよ」
自己紹介に決まったポーズが無かったので、ノールは手持ち無沙汰になってしまい何となく地面に刺した大剣を軽く叩いてみせた。
「ちょっとぉ、アンタたち喋ってないで、避難誘導手伝いなさいよぉ!」
互いに名乗り合い、握手でも交わすかという雰囲気になったそのとき、ミュレットが抗議の声をかける。
近くの魔狼はいなくなったものの、動揺と混乱で彷徨う街の住人は多かった。
「おおっと、すまねぇなぁ嬢ちゃん」
「嬢ちゃんはやめて、私はミュレット。そこのノールと同じ流れの旅人ってとこ」
「ああ、自己紹介ありがとよ。すまねぇついでに、ミュレットちゃんよぉ、火の魔法使うのは控えてくれねぇか。門近くの空き家が燃え出してるらしくてな、燃え移っちまったら大変だ」
ブッレヤクサが少し気まずそうに眉をひそめ、南門の方に向けて指を差した。
好意で街の防衛を手伝ってくれている者に注意するというのは、気が引ける。
「嘘っ、火事まで起こってるの!?」
「魔狼の侵入だけでそんなことが起こるとは思えないな」
ブッレヤクサが指差した方向は、確かに夜の街明かりにしては明るく、宵闇に灰色の煙が立っているように見えた。
「他のギルド員が消火に当たってくれちゃいるが、この騒ぎ、それだけで終わる気がしねぇ」
状況からして、誰かが意図的に放火したと見て間違いないと、ブッレヤクサも火事の報告を受けた時点で察していた。
「大方、野盗だかが潜り込んでやがるなぁ。魔狼けしかけて、荒らした後に火事場泥棒でもする気かぁ?」
胴体に一線、的確な斬撃。
襲い来る魔狼を大斧が退けたことを理解した街の住人たちは、口々にブッレヤクサへの感謝を述べながら建物へと走っていく。
大斧の投擲範囲から魔狼が姿を消したのを見るや、ブッレヤクサはノールに歩き近づいていった。
「よぉ、青い甲冑のあんちゃん。アンタ、なかなかやるようじゃねぇか」
魔狼を斬り倒していたところに突然声をかけられ、ノールは反射的に身構えた。
「ん、何だ、ギルドの人間か?」
ノールが振り向くと、声をかけてきた大男──ブッレヤクサは獣皮の鎧をまとい、その胸にはフクロウの印が刻まれていた。
ギルド──アルベッツステーレ製であるという証明。
支給されるのはアルベッツステーレと契約してる者のみであり、単に仕事を引き受けただけでは渡されることは無いとノールは受付嬢に説明を受けていた。
「あんちゃん、どこかのギルド所属ってわけじゃねぇんだろ? 旅人にしちゃあ随分な腕前だと聞いたぜ。それに、その甲冑と大剣も、なかなかの上物じゃねぇか」
ブッレヤクサの見立てでは、ノールの甲冑はそこらで簡単に手に入るようなものではなさそうだ。
青を基調とした素材の鎧なら、鍛冶屋で金を積んで青銅で作ってもらえるだろうが、加工と火の熱に鮮明な青にはなり得ない。
青銅製の鎧は重く、防御に重点を置いた前衛向きの装備だ。
魔狼を追いかける俊敏さを考えれば、適しているとは言えない。
青銅じゃねぇとすると何の金属だ?
ブッレヤクサはごんっと一発殴って強度を確かめたくなったが、ノールと揉め事を起こしに来たわけではなかったので我慢した。
ブッレヤクサの狙いは、ギルドへの勧誘だ。
王都に兵士が籠ってしまっている現状、街の治安のためには一人でも役に立つ傭兵が必要であった。
「褒められても何も出ないさ。流れの旅人だからな、金に余裕は無いんだ。腕前と言えば、そっちも随分なものじゃないか。ところで、最近は斧を投げるのが主流の戦い方なのか? 今日出会った大型のリザードマンも大斧を投げつけてきたんだが」
ノールに問われ、ブッレヤクサは、ハッ、と鋭く息を吐くように笑うと、大きな身体に見合った大きな手で二つに割れた顎を撫でた。
「そいつぁ、リザードマンが人間の戦い方を真似てやがるんだよ。だがな、俺様のはただ投げてるだけじゃねぇんだ。魔素を使って自分の手元に戻ってくるように操ってる」
ほら、と言ってブッレヤクサは大斧を手から離して地面に落とした。
ドスン、っと重たい音と砂埃を起こした大斧の柄の部分と、ブッレヤクサの手の平に紫色の糸みたいなものが繋がっていて、グンと手を僅かに持ち上げると地面に落ちた大斧が浮かび手の平に戻ってきた。
「なるほど、魔素にそんな使い方があるのか。考えたな、えっと──」
「ブッレヤクサだ。昔からアルベッツステーレで世話になってる傭兵だ。狼退治の協力、感謝するぜ」
ブッレヤクサは鎧の胸部に刻印されたフクロウを大きな拳で叩いた。
ギルド流の挨拶、なのかとノールは理解した。
「ノールだ。最近デトハーに来たとこだ。ギルドにはいくつか仕事を受けさせてもらったよ」
自己紹介に決まったポーズが無かったので、ノールは手持ち無沙汰になってしまい何となく地面に刺した大剣を軽く叩いてみせた。
「ちょっとぉ、アンタたち喋ってないで、避難誘導手伝いなさいよぉ!」
互いに名乗り合い、握手でも交わすかという雰囲気になったそのとき、ミュレットが抗議の声をかける。
近くの魔狼はいなくなったものの、動揺と混乱で彷徨う街の住人は多かった。
「おおっと、すまねぇなぁ嬢ちゃん」
「嬢ちゃんはやめて、私はミュレット。そこのノールと同じ流れの旅人ってとこ」
「ああ、自己紹介ありがとよ。すまねぇついでに、ミュレットちゃんよぉ、火の魔法使うのは控えてくれねぇか。門近くの空き家が燃え出してるらしくてな、燃え移っちまったら大変だ」
ブッレヤクサが少し気まずそうに眉をひそめ、南門の方に向けて指を差した。
好意で街の防衛を手伝ってくれている者に注意するというのは、気が引ける。
「嘘っ、火事まで起こってるの!?」
「魔狼の侵入だけでそんなことが起こるとは思えないな」
ブッレヤクサが指差した方向は、確かに夜の街明かりにしては明るく、宵闇に灰色の煙が立っているように見えた。
「他のギルド員が消火に当たってくれちゃいるが、この騒ぎ、それだけで終わる気がしねぇ」
状況からして、誰かが意図的に放火したと見て間違いないと、ブッレヤクサも火事の報告を受けた時点で察していた。
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