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清泪─せいな

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IV

36 キリのなさと消耗戦

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 斧が風を裂き、影のごとく闇夜を駆ける襲撃者の横腹を斬り裂いた。
 だが手応えは浅く、すぐに別の影が身を滑らせて間合いに踏み込んでくる。

 ブッレヤクサは舌打ちを一つ。
 腕を引くと、斧は手首に巻きつけた魔素の紐によって回収され、弧を描いて手元へ戻った。
 敵の動きは素早く、的確だった。
 人間の剣士と遜色のない反射だ。だが――。

(反応が良すぎる……それが仇だな)

 筋肉に力を込め、呼吸のリズムを図る。
 手練れほど、予備動作や殺気に過敏だ。
 その“反応の良さ”を利用し、誘い、斬る。
 第一撃を避けた敵が次の軌道に飛び込むよう計算された斧の第二撃、第三撃。
 その全てが、逃れようのない間合いに置かれていた。

 ひとつ、またひとつと襲撃者の影が斬り伏せられ、光に染まった石畳に魔素の残骸として溶けてゆく。

(魔狼と比べりゃ、こいつらは……ただ速いだけだ。野生の勘もねぇ)

 傍らでは、ノールがまるで大木を薙ぎ払うような勢いで襲撃者を斬っていた。
 大剣は身の丈ほどもあるが、彼の手にかかるとまるで竹の枝のように軽やかに振るわれる。

(避けるでも、殺気を読むでもねぇ……あのニイチャン、ただ“当ててる”だけかよ)

 見惚れるよりも先に呆れる。
 だがブッレヤクサの口元には、戦場ならではの微かな笑みが浮かんでいた。

(あれで傭兵じゃねぇってんなら、スカウトし直してぇくらいだな……)

 だが、数を減らしてもなお襲撃者の影は湧いて出てきた。
 夜の闇から、また闇へ。
 次から次へと終わりがない。

「キリがねぇっ、とは言ったが……」

 ブッレヤクサは後方を見やる。
 そこではミュレットが、杖の先に火球を練り、爆ぜるように放っていた。
 制御の難しそうな魔素の輝き。
 その不安定さが、彼女の未熟さと限界を物語っていた。

(消耗戦だ。こっちが先に燃え尽きる……)

 ノールは全力で斬り進み、ミュレットも渾身の魔法を撃ち込んでいる。
 それゆえに、彼女の限界も見えていた。

(若ぇ奴らががむしゃらなら、頭使うのはオッサンの役目か……)

 皮肉を浮かべつつ、ブッレヤクサは考える。
 魔狼に比べて、この襲撃者たちの追加が早すぎる。
 この襲撃者たちが魔素の人形だとすれば、作り手の近くで生まれている可能性が高い。
 ならば、この場に出現し続ける理由も一つだ。

「ニイチャン! こいつらを呼び出してる奴、近くにいるかもしれねぇ!」

 その言葉を聞いた途端、ノールは剣を振る勢いそのままに声を上げた。

「わかった、突っ込む!」

「──は?」

 突撃、という選択肢を出す前に聞き返す暇もなく、ノールの青い甲冑が闇に向かって躍り出る。
 狭まる路地、焼け崩れかけた民家、燃え上がる家々。
 その中心――街の心臓部ともいえる大通りが、夜の帳を押しのけるように炎で照らされていた。

 ノールは一人、そこへ駆ける。
 影が迫るたびに剣が閃き、襲撃者が両断されてゆく。
 その勢いは止まらず、誰の叫びも聞こえぬほど真っ直ぐだった。

 そして――たどり着く。

 そこには、これまでの襲撃者たちと寸分違わぬ姿の男が一人、焼け跡の中心に立っていた。

 だが、その雰囲気はあまりに異質だった。

「魔獣使いを《真似》てみたが、やっぱり《浅い》か」

 おどけた口調でそう呟いた男は、肩をすくめながらゆっくりとフードを外す。

 赤々と燃える家屋を背に、男の赤髪が炎の光と溶け合い、揺れた。
 その髪は濃く深い朱を帯び、まるで血を垂らしたように重たく、目元に影を落としている。

 その顔は、笑っていた。

 口角が、ゆっくりと不気味に、ひたひたと持ち上がる。

「さて、ここからは──少しだけ《本気》を出すとするか」
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