焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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第四章 くるみパン大人形

第七十五話 くるみパン大人形

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 パチパチパチパチ。
 マンションの廊下に響く拍手。

「ええやん、ええやん。涙ありの友情物語。……まぁ、ちょっと感情移入しにくいのが難点やけどね」

 拍手の主はそう言った後、目の前に立つ少年に、なぁ、と同意を求める。
 同意を求められた少年──笠沼正太は微動だにせず、ただ相手を見上げるだけだった。

「何の話、ですか? お姉さん、誰、ですか?」

 慣れない敬語を拙く付け足して問う正太。
 所用・・の帰り、家の前で待ち構えていた巫女装束の女性に面食らっていた。

「んー、悲しいなぁ。一度は名乗ったやないの。ん、あれ、名乗ったんやったっけ? あかん、忘れてもうた。まぁええか。そない長い付き合いになるわけやないし」

 巫女装束の女性──西生花菜は大袈裟に額へと手を当てるが、申し訳なさそうな素振りは一切見せなかった。

「それにしてもあれやで、こんな時間に動物虐待してたらあかんで。小学生は学校に行く時間やろ?」

「お姉さん……そんな姿して児童相談所の人?」

「ちゃうちゃう、そないなコスプレ職員やない。ああ、安心しぃ、別にお母さんに報告しに来たわけやない。ただな、そんなんしてたら“あの子”が悲しむ、って話しとるだけ」

 「あの子」と言われ、正太は眉をひそめた。
 見知らぬ誰かではない。花菜の言い方は、正太も知っている人物のことを指していた。

「せっかく蘇っても、やること一緒やったなんてな。あの子が望んだもんやないやろうし。まぁ唯一の救いは──それを知らずに、さよならバイバイできることやろね」

 誇張するように手をひらひらと振る花菜。
 だがその目の奥は冷たく、正太に向けられた感情は明らかな軽蔑だった。

「さよならバイバイ……?」

「妹達が白鬼を止めよったからな。偽りの再生は時間切れ、っちゅうことや。何のことかわからんやろけど──まぁ最期くらいは、見届けに来たで。あの子はややこしい状況なっとるから、来れへんやろしな」

 花菜の言葉の意味を理解できない正太は、もうこれ以上聞いていられないと花菜の横をすり抜けようとした──が。
 踏み込んだ足が半透明になっているのに気づき、思わず声を上げた。

「せや、正太君。くるみパン食べる?」

「な、な、何を言ってるんだよ! あ、足が……足が──」

「いやな、うちのおかんが今パン屋やっててなぁ。そこの新作くるみパン、絶品やねん。一個ぐらい思い出に……って思たんやけど、んー、今はそれどころやないか」

 花菜は腰の巾着袋からくるみパンを取り出すと、はむっと頬張った。
 足から腰、腰から胴へ──徐々に広がっていく正太の半透明化。

「消したもんの償いとして、殺されたもんの弔いとして、最期まで見といたるわ。……“安心して逝け”って言うのは、ちょっと違うかもしれんけどな」

 やがて首元まで半透明化が進むと、正太は先ほどまでの困惑をふっと消し去った。
 まるでスイッチを切られたオモチャのように、無表情のまま一点を見つめる。

「……ほな、さいなら」

 透明へと変わり、白く淡い光の粒子となって散る正太の姿を見届けながら、花菜は哀しみを帯びた声で呟いた。
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