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最終章 焼きそばパン大戦争
第八十話 欠席してる理由
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「西生さんが学校に来てたら、聞きたいことっていっぱいあったんだけどね」
和美が物悲しげに資料へ目を落とすのを見て、笠原がぽつりとこぼした。
奈菜は白鬼の件が一応の決着を迎えて以来、学校を休んでいた。
長引く欠席に心配になった和美はメッセージアプリで連絡を入れたが、返ってきたのは「祓い師の仕事が理由だから詳しくは言えないけど、心配はいらない」という返事だけだった。
以前の自分ならさらに突っ込んで聞き出したかもしれない。けれど迷惑をかけたばかりで、軽々と踏み込むことはできなかった。
「奈菜のことは、西生さんなんだね」
「そうだよぉ。まだ“友達”って感じじゃないんだよね。なんていうか、専門職の人っていうか、一枚壁があるっていうか、距離を感じるんだよ」
「仕事人としての尊敬が先に立つってこと?」
「んー、そんな感じ」
答えながらも、笠原は少し言い足りないようで、天井を見上げて言葉を探す。
「助けてくれたって意味では、和美も西生さんも変わらないんだけどね」
「いや、変わらないどころか……奈菜がいなかったら助けられてすらいないんだけど」
青の時も赤の時も、和美がしたことは言葉をかけただけだ。
実際に鬼と戦って祓ったのは奈菜だ。
だから恩義を感じてもらうほどではない、と和美自身は思っていた。
「んー、だから大恩人ってことになって、遠慮しちゃってるのかも?」
「ハッキリしないねぇ」
ねぇ、と笠原がわざと声を重ねて笑う。
「でもさ、西生さんって仕事のことで休んでるんでしょ? それって冷静に考えるとヤバくない?」
「ヤバいってどういう意味? 学業が疎かになるってことなら……奈菜はその辺、上手くやってると思うけど?」
奈菜が特別優秀だと聞いたことはない。けれど逆に、極端に成績が悪いとも聞かない。
本人が口にしたこともなければ、《お手伝い》で教師陣と接した際にそんな話題が出たこともなかった。
他の生徒と比べて褒められることも、けなされることもない。つまり「普通」だった。
「いや違う違う。なんで和美ってそんな鈍い反応しちゃうの? だって西生さん、祓い師の仕事が理由で学校休んでるんだよ? 本来なら両立して、周りにバレないようにやってきたのに――それに専念しなきゃならないほどの事態になってるってことじゃん?」
「ああ、それは……」
和美は説明しかけて、ふと周囲の耳が気になり声を小さくした。
「何、急に?」
「いやだって、こんな話、周りに聞かれたらマズいでしょ」
「大丈夫だって。鎮魂祭の資料調べてるんだよ。多少の単語くらい、祭りの話だと思うって。だいたいみんな自分のことで夢中だし、誰も聞いてないって」
放課後の二年D組は、まるで学園祭の準備のように騒がしかった。
同じクラスの生徒はもちろん、他のクラスから応援に来ている生徒の姿もある。
誰がどこで何を話しているのか判別できないほど、声が飛び交っていた。
よくもまぁ、この状況で資料作りに集中できるものだと和美は思うが、話しながら整理しているのかもしれない、とも考える。
「わかった。じゃあ気を取り直して説明するけど――私は実質、白鬼の力を使わないように抑えてるだけなの。力そのものは消えてない。まだ持ってるってこと。それに、力が開眼する前から片鱗はあって、小鬼が見えたりしてたんだ」
本来なら鬼の結界内でもない限り、一般人には小鬼の姿は見えない。
それが見えていた時点で和美はイレギュラーで、鬼の力を使えばさらに広範囲に察知できた。
「それがさ、最近になって小鬼や鬼の反応が一切なくなったんだよね。能力が消えたんじゃなくて、誰かの想いに燻る気配すら無い」
和美は両手を大きく交差して「何も無し」を示した。
その拍子に簡易テーブルの上のA4用紙が、ふわりと浮いて落ちる。
「いや、だから安心にはならないでしょうよ」
「へ?」
「備えあれば憂いなしって言うけどさ。逆に“嵐の前の静けさ”なんじゃないの?」
「へ?」
再び気の抜けた返事。ふざけているわけではなく、本人も驚くほどの抜けっぷり。
何かの影響で記憶が抜け落ち、その穴を埋めるように無理やり作られた錯覚のような安心感。
それを和美は確かに自覚した。
けれど――何が抜け落ちたのかだけは、どうしても思い出せなかった。
和美が物悲しげに資料へ目を落とすのを見て、笠原がぽつりとこぼした。
奈菜は白鬼の件が一応の決着を迎えて以来、学校を休んでいた。
長引く欠席に心配になった和美はメッセージアプリで連絡を入れたが、返ってきたのは「祓い師の仕事が理由だから詳しくは言えないけど、心配はいらない」という返事だけだった。
以前の自分ならさらに突っ込んで聞き出したかもしれない。けれど迷惑をかけたばかりで、軽々と踏み込むことはできなかった。
「奈菜のことは、西生さんなんだね」
「そうだよぉ。まだ“友達”って感じじゃないんだよね。なんていうか、専門職の人っていうか、一枚壁があるっていうか、距離を感じるんだよ」
「仕事人としての尊敬が先に立つってこと?」
「んー、そんな感じ」
答えながらも、笠原は少し言い足りないようで、天井を見上げて言葉を探す。
「助けてくれたって意味では、和美も西生さんも変わらないんだけどね」
「いや、変わらないどころか……奈菜がいなかったら助けられてすらいないんだけど」
青の時も赤の時も、和美がしたことは言葉をかけただけだ。
実際に鬼と戦って祓ったのは奈菜だ。
だから恩義を感じてもらうほどではない、と和美自身は思っていた。
「んー、だから大恩人ってことになって、遠慮しちゃってるのかも?」
「ハッキリしないねぇ」
ねぇ、と笠原がわざと声を重ねて笑う。
「でもさ、西生さんって仕事のことで休んでるんでしょ? それって冷静に考えるとヤバくない?」
「ヤバいってどういう意味? 学業が疎かになるってことなら……奈菜はその辺、上手くやってると思うけど?」
奈菜が特別優秀だと聞いたことはない。けれど逆に、極端に成績が悪いとも聞かない。
本人が口にしたこともなければ、《お手伝い》で教師陣と接した際にそんな話題が出たこともなかった。
他の生徒と比べて褒められることも、けなされることもない。つまり「普通」だった。
「いや違う違う。なんで和美ってそんな鈍い反応しちゃうの? だって西生さん、祓い師の仕事が理由で学校休んでるんだよ? 本来なら両立して、周りにバレないようにやってきたのに――それに専念しなきゃならないほどの事態になってるってことじゃん?」
「ああ、それは……」
和美は説明しかけて、ふと周囲の耳が気になり声を小さくした。
「何、急に?」
「いやだって、こんな話、周りに聞かれたらマズいでしょ」
「大丈夫だって。鎮魂祭の資料調べてるんだよ。多少の単語くらい、祭りの話だと思うって。だいたいみんな自分のことで夢中だし、誰も聞いてないって」
放課後の二年D組は、まるで学園祭の準備のように騒がしかった。
同じクラスの生徒はもちろん、他のクラスから応援に来ている生徒の姿もある。
誰がどこで何を話しているのか判別できないほど、声が飛び交っていた。
よくもまぁ、この状況で資料作りに集中できるものだと和美は思うが、話しながら整理しているのかもしれない、とも考える。
「わかった。じゃあ気を取り直して説明するけど――私は実質、白鬼の力を使わないように抑えてるだけなの。力そのものは消えてない。まだ持ってるってこと。それに、力が開眼する前から片鱗はあって、小鬼が見えたりしてたんだ」
本来なら鬼の結界内でもない限り、一般人には小鬼の姿は見えない。
それが見えていた時点で和美はイレギュラーで、鬼の力を使えばさらに広範囲に察知できた。
「それがさ、最近になって小鬼や鬼の反応が一切なくなったんだよね。能力が消えたんじゃなくて、誰かの想いに燻る気配すら無い」
和美は両手を大きく交差して「何も無し」を示した。
その拍子に簡易テーブルの上のA4用紙が、ふわりと浮いて落ちる。
「いや、だから安心にはならないでしょうよ」
「へ?」
「備えあれば憂いなしって言うけどさ。逆に“嵐の前の静けさ”なんじゃないの?」
「へ?」
再び気の抜けた返事。ふざけているわけではなく、本人も驚くほどの抜けっぷり。
何かの影響で記憶が抜け落ち、その穴を埋めるように無理やり作られた錯覚のような安心感。
それを和美は確かに自覚した。
けれど――何が抜け落ちたのかだけは、どうしても思い出せなかった。
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