焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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最終章 焼きそばパン大戦争

第百十九話 図書館通いで強くなりました。

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 那間良の顔面を蹴り飛ばした笠原の腕を、駆け寄った和美が引っ張った。

「ちょ、何!?」

「何、じゃないの! すぐ起き上がってくるから気を抜かないで」

 言うや和美は笠原の身体を強引に引き寄せて、床に倒れる那間良や鉤から距離をとった。

 図書館二階、児童書スペースとも言える場所には既に児童の姿も保護者の姿も職員の姿も見えなかった。一階からは騒々しい声が聞こえるので、図書館から逃げ出したわけではないようだ。
 息を飲む間が生まれ、和美の忠告通り那間良の手が僅かに動き出した。

「あれで不審者は一発KOって動画じゃ言ってたのに!」

「動画!? 朋美、観ただけであんな動き出来たって事?」

「イメトレも何回もしたよ、もちろん」

 そういう話じゃない、と剣道を習ってきた和美は続けようと思ったが、もしや笠原朋美は才能の塊だったのでは、という考えが過ぎって言葉を止めた。
 疑問と期待を込めた瞳で見つめる和美に、笠原は何かを察し小さくピースサインを返した。

「才能溢れる助っ人の登場、って感じだけど残念ながらそれチートなのよ」

 顔面を赤く腫らした那間良がゆっくりと身体を起こしていく。起き上がる前にもう一撃加えに行こうものなら確実に反撃を与えてくるだろうと、和美は下手に動かずに待ち構えることにした。

「チート?」

 動画を観てのイメージトレーニングの成果をイカサマ呼ばわりされて、笠原は首を傾げる。ボクシングをするならシャドースパーリングぐらいするのだろうから、イメージトレーニングと大して変わらないじゃないか。

「ああ、本人もわかってないんだね。私には赤鬼が纏わりついてるから、わかるのかな? その子、朱雀の力がついてるんだよ、忌々しそうに赤鬼が唸ってる」

「朱雀の力?」

「へ?」

 和美が四神の試練を受けていることは事前に詳細を聞いてはいたものの、自分が直接関わることになるとは微塵も考えてなかった笠原はキョトンとした顔で那間良を見ていた。隣に立つ和美も改めて笠原のことを見るが、那間良が指摘する朱雀の力というものを笠原から感じることは出来なかった。

「ちょっと、何言ってんだこいつ、みたいな空気出されても困るんだけど。素人に投げられて言い訳でっち上げてるみたいじゃない、私」

 和美と笠原があまりにピンと来てないので、那間良は話が通じないことに困惑し始めた。投げ飛ばされた失態の上塗りみたいなことになるのは避けたい。そう思い那間良は近くで倒れる鉤の方へ数歩近づくと、身体を軽く小突く様に蹴った。

「起きろ、説明役」

「・・・・・・ぐっ、何だ、その扱いは」

 那間良に殴り飛ばされ笠原に投げられ、赤鬼の影響を受けていたものの完全に気を失っていた鉤は、蹴り起こされて自分の立場を理解しきれていなかった。見知らぬ女性に蹴り起こされるという最悪な状況の中、頭の中には現状を把握しろと朱雀と赤鬼から情報を流入される。
 気を失うほど打ちつけた頭に沢山の情報が浮かび上がり、鉤は吐き気を覚えたが身を捩りながらも何とか堪えた。

「・・・・・・説明だけだ」

「は?」

 なかなか起き上がらない鉤に苛立ち始めた那間良がもう一蹴り入れようするのを遮るように、鉤が振り絞るように声を出した。

「数秒でも気を失っていたのだろう、赤鬼の影響が薄まっている。君の協力はする気は無い。ただ、情けないことに君を止める為に身体を動かすこともままならない。だから、説明役だけ全うしよう」

 鉤は言葉を吐き息を吸い、少しずつ口が動くようになっていく。しかし身体は痛みに痺れているのか、起き上がる為の力を入れることは出来ずにいた。

「いいよ、最初から期待してないし。高城さんのことは私一人でぶん殴る気でここに来てるから、なんの問題もない」

「問題だらけなんですよ、それは」

 鉤に対してさっさと話せと促す那間良に、抗議を入れる和美。那間良は和美を一瞥すると、待て、と口を動かした。

「・・・・・・そこにいる笠原朋美さんも赤鬼の残滓に纏わりつかれていた。これは本人も覚えはあるだろ? 高城和美さんが白鬼の力を使った際に”なかったことにした”副産物だ」

 和美や奈菜にも影響を与えた笠原に纏わりつく赤鬼の残滓。和美の件が一段落着いたので、消えたものだと笠原は思っていたのだが。

「その残滓に纏わりつかれていた笠原さんはここ最近よくこの図書館に来館していたようだ」

「文化祭でやる展示品の資料作りに来てましたけど」

「そこでこの図書館を試練の地とする朱雀に目をつけられたわけだよ、新しい赤鬼候補、守護者の候補として」

 残滓に纏わりつかれ鬼になる。小早志真里亞が現在進行形でそうなっているのであれば、それは残滓が纏わりついてしまった者、全てにありえる可能性であると言える。

「え? はい? 私、鬼になるの!?」

 自分の事を指差して驚き戸惑いながら和美を見る笠原。

「はい、説明どうも。つまりチートってことなのよ、その子。それでもってどうやらこれは、次期赤鬼候補決定戦になっちゃってるらしくてね。次は油断せずに行くから、よろしく殴られてね」

 那間良は両手を重ね、指の間接をゴキゴキと鳴らす。

「朋美、よく聞いて。なんかややこしい事になってるけど、朋美まで鬼だとかそんな事にならなくていいんだからね。この場は私に任せて見ててくれたらいいから」

 那間良の相手は自分がすると、和美は一歩前に踏み込んで構えた。

「・・・・・・もう、和美こそよく聞いて。私は鬼になる気はもちろん無いし、何でもかんでも一人で背負おうとするのをうんうんと見てる気も無いの」

 和美の真似をするように一歩前へと踏み込んで、笠原も昔観たアクション映画の見よう見まねな構えを取った。

「何か協力できないかって図書館に来てみて、それで戦えるチート能力貰ったっていうならさ、私だって戦ってやるってのが友情パワーなわけ!」

 やぁー、と張り切る笠原の威勢に和美は戸惑いながらも心強いとも思ってしまった。二対一。卑怯だとは思えない強さを持った那間良と対峙して、和美は笠原へ助力する朱雀に願うのだった。どうか彼女を守ってくれ、と。
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