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最終章 焼きそばパン大戦争
第百二十三話 鬼の力を得たモノたち
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「さて・・・・・・」
坂進高校で複数現れた緑の光が形作ったイメージ体でもなければ、希望総合病院で対峙した浮遊するそれでもない。南図書館二階、その場に突然現れた小早志真里亞の分体は元の人間体に姿が近づいていた。
それでも、複数の分体が重なっているのか腕が背中から左右に二本ずつ生えていて、その身体を形取る線は緑色の光にぶれている。
そこにあって、そこに無いような、空間のぶれ。
「見てぇ、先輩。先輩が蒼龍の試練をやってくれたおかげで、私も正太くんが使っていたナイフのこと、知ったんですよ。ふふふ、どうせならと思って、ほら、再現しちゃった!」
悪戯っぽい笑みを浮かべる小早志真里亞。その六本の腕の先、手の平に六本のナイフが現れる。
「あの子、使ってたの、一本だけだったけど?」
吹っ飛ばされて本棚に打ちつけられた背中の痛みを堪えながら、和美は小早志真里亞の注意が自分に向くようにと言葉を返す。
「そこはほら、より正太くんの興味を理解する為の増量、ということで」
「どういう理屈よ、それ」
和美は小早志真里亞の動きに注意しながら、笠原と那間良の飛ばされた位置を確認していた。
和美は幸いにもミニチュア錫杖が置いてある展示台の近くに飛ばされた。もし、小早志真里亞が和美が受けている花菜からのお使いを邪魔する為に錫杖を破壊しようと動いたとしても、それを阻止する為に反応出来る距離だ。
笠原は和美とは遠い位置、受付カウンターの横へと飛ばされていた。まだ起き上がれておらず、うつ伏せに倒れたままであった。すぐにでも駆けつけてやりたいと和美は思うものの、その間には小早志真里亞が立っている。
那間良は──。
「邪魔してんじゃないわよ、緑色のっっっっ!!」
和美が那間良の姿を探していると、その怒りの赤は不敵に笑う緑色に飛びかかっていた。
「赤鬼の方も怒ってましたけど、その影響ですかぁ? なまものさん、でしたっけ?」
とぼけた表情を浮かべ小早志真里亞は、那間良に向かってナイフを突き出す。六本の腕が剣山のように那間良に向かう。
身体を反らし腕を大きく振りかぶる、那間良のジャンピングブロウ。突き出された六本のナイフに真っ向から突っ込んでいく。
「は?」
誰の声が漏れたのか。
突き出されたナイフに突っ込んでいく那間良。その結果は当然の如く身体中にナイフが突き刺される凄惨な絵面だ。肩や腹部に深く突き刺さるナイフ、那間良の服を直ぐ様赤黒く染め上げていく。
そしてその絵面がもたらしたのは、小早志真里亞の顔面を叩く赤を纏う拳だった。
「こちとら痛覚が麻痺しだしたバケモノなのよ、緑のバケモノさんっ!」
肉を切らせて骨を断つ。そんな無茶苦茶な方法で殴りつけた那間良。その拳の威力は、ただ唖然として見ていた和美にはよくわかっていた。まともに殴られたなら身体の踏ん張りなど効かず否応無しにぶっ飛ばされてしまう、そんな暴力。
しかし小早志真里亞はその場を微動だにせずに立っていた。人体ではあらぬ角度で首を回し、衝撃を、暴力を、逸らした。
「す、すっかり大変なことになっちゃったんだね、小早志さん」
遅れて気を取り戻した笠原は、自身の身体の痛みと視界に映る状況に困惑していた。小早志真里亞とはあの日、屋上で見たのが最後だった。
あの日、奈菜と矢附に提案した思いつき。何とか説得できなかったのかと、今朝学校で小早志真里亞の声を聞いた時から抱いていた後悔。
人間としての姿とかけ離れた存在になった小早志真里亞を見て、笠原の後悔はより強くなっていく。
「そんなもんですか? なまものさんの怒りって、その程度なんですか?」
首の皮が本来有り得えないほど引っ張られ捻れていく小早志真里亞は、さらにその首を傾げて微笑む。
「那間良、だっての──」
威力は発揮しきれなかったが当たったのは確かだ。那間良は二撃目を繰り出そうと、血で染まりゆく身体をものともせず振りかぶる。
「──残念っ!」
那間良の言葉を遮るように小早志真里亞はそう言葉を発すると、那間良に突き刺さっていた六本のナイフを捻り横に薙ぎ払った。
痛覚が無くなろうと、怒りの赤に全身を纏おうと、那間良の──人間の、赤い血が激しく飛び散っていく。
腹を抉り、肩の肉を削ぎ落とし、手の指を数本切り落とした。
痛覚は無い。しかし、それは痛みを感じないというだけに過ぎず、鬼とまで成していない那間良の身体は鋭い斬撃に堪えることは出来ずにいた。
「はい、どーん!」
小早志真里亞の六本の腕が拳を握り、ふらつく那間良の身体に向かって伸びる。那間良のパンチの真似事。
「・・・・・・馬鹿にすんのも大概にしなよ」
ふらつく身体を前後左右へと振り、那間良は六つのパンチを避けていく。踏み込みが甘い。ムカつくぐらい、踏み込みが甘い。
そんなもんじゃ力なんて入らねぇよ!
那間良の頭に響く、ジムのトレーナーの怒声。
そんなもんじゃ力なんて入らねぇよ、ほら手本見せてやる。
そう言われ殴られた瞬間を思い出し、那間良は前へと身体を倒した。
私は、殴りたいの。
殴られた分だけ殴りたいし、馬鹿にされた分だけ殴りたい。
力強い踏み込みは慣れたものだ、血が吹き飛ぼうが簡単に出来る。
拳を突き上げるのも慣れたものだ、視界が朦朧としようとも簡単に出来る。
那間良の突き上げたアッパーが、小早志真里亞の顎を捉える。
衝撃は顎を貫き、小早志真里亞の身体を大きく仰け反らせた。
坂進高校で複数現れた緑の光が形作ったイメージ体でもなければ、希望総合病院で対峙した浮遊するそれでもない。南図書館二階、その場に突然現れた小早志真里亞の分体は元の人間体に姿が近づいていた。
それでも、複数の分体が重なっているのか腕が背中から左右に二本ずつ生えていて、その身体を形取る線は緑色の光にぶれている。
そこにあって、そこに無いような、空間のぶれ。
「見てぇ、先輩。先輩が蒼龍の試練をやってくれたおかげで、私も正太くんが使っていたナイフのこと、知ったんですよ。ふふふ、どうせならと思って、ほら、再現しちゃった!」
悪戯っぽい笑みを浮かべる小早志真里亞。その六本の腕の先、手の平に六本のナイフが現れる。
「あの子、使ってたの、一本だけだったけど?」
吹っ飛ばされて本棚に打ちつけられた背中の痛みを堪えながら、和美は小早志真里亞の注意が自分に向くようにと言葉を返す。
「そこはほら、より正太くんの興味を理解する為の増量、ということで」
「どういう理屈よ、それ」
和美は小早志真里亞の動きに注意しながら、笠原と那間良の飛ばされた位置を確認していた。
和美は幸いにもミニチュア錫杖が置いてある展示台の近くに飛ばされた。もし、小早志真里亞が和美が受けている花菜からのお使いを邪魔する為に錫杖を破壊しようと動いたとしても、それを阻止する為に反応出来る距離だ。
笠原は和美とは遠い位置、受付カウンターの横へと飛ばされていた。まだ起き上がれておらず、うつ伏せに倒れたままであった。すぐにでも駆けつけてやりたいと和美は思うものの、その間には小早志真里亞が立っている。
那間良は──。
「邪魔してんじゃないわよ、緑色のっっっっ!!」
和美が那間良の姿を探していると、その怒りの赤は不敵に笑う緑色に飛びかかっていた。
「赤鬼の方も怒ってましたけど、その影響ですかぁ? なまものさん、でしたっけ?」
とぼけた表情を浮かべ小早志真里亞は、那間良に向かってナイフを突き出す。六本の腕が剣山のように那間良に向かう。
身体を反らし腕を大きく振りかぶる、那間良のジャンピングブロウ。突き出された六本のナイフに真っ向から突っ込んでいく。
「は?」
誰の声が漏れたのか。
突き出されたナイフに突っ込んでいく那間良。その結果は当然の如く身体中にナイフが突き刺される凄惨な絵面だ。肩や腹部に深く突き刺さるナイフ、那間良の服を直ぐ様赤黒く染め上げていく。
そしてその絵面がもたらしたのは、小早志真里亞の顔面を叩く赤を纏う拳だった。
「こちとら痛覚が麻痺しだしたバケモノなのよ、緑のバケモノさんっ!」
肉を切らせて骨を断つ。そんな無茶苦茶な方法で殴りつけた那間良。その拳の威力は、ただ唖然として見ていた和美にはよくわかっていた。まともに殴られたなら身体の踏ん張りなど効かず否応無しにぶっ飛ばされてしまう、そんな暴力。
しかし小早志真里亞はその場を微動だにせずに立っていた。人体ではあらぬ角度で首を回し、衝撃を、暴力を、逸らした。
「す、すっかり大変なことになっちゃったんだね、小早志さん」
遅れて気を取り戻した笠原は、自身の身体の痛みと視界に映る状況に困惑していた。小早志真里亞とはあの日、屋上で見たのが最後だった。
あの日、奈菜と矢附に提案した思いつき。何とか説得できなかったのかと、今朝学校で小早志真里亞の声を聞いた時から抱いていた後悔。
人間としての姿とかけ離れた存在になった小早志真里亞を見て、笠原の後悔はより強くなっていく。
「そんなもんですか? なまものさんの怒りって、その程度なんですか?」
首の皮が本来有り得えないほど引っ張られ捻れていく小早志真里亞は、さらにその首を傾げて微笑む。
「那間良、だっての──」
威力は発揮しきれなかったが当たったのは確かだ。那間良は二撃目を繰り出そうと、血で染まりゆく身体をものともせず振りかぶる。
「──残念っ!」
那間良の言葉を遮るように小早志真里亞はそう言葉を発すると、那間良に突き刺さっていた六本のナイフを捻り横に薙ぎ払った。
痛覚が無くなろうと、怒りの赤に全身を纏おうと、那間良の──人間の、赤い血が激しく飛び散っていく。
腹を抉り、肩の肉を削ぎ落とし、手の指を数本切り落とした。
痛覚は無い。しかし、それは痛みを感じないというだけに過ぎず、鬼とまで成していない那間良の身体は鋭い斬撃に堪えることは出来ずにいた。
「はい、どーん!」
小早志真里亞の六本の腕が拳を握り、ふらつく那間良の身体に向かって伸びる。那間良のパンチの真似事。
「・・・・・・馬鹿にすんのも大概にしなよ」
ふらつく身体を前後左右へと振り、那間良は六つのパンチを避けていく。踏み込みが甘い。ムカつくぐらい、踏み込みが甘い。
そんなもんじゃ力なんて入らねぇよ!
那間良の頭に響く、ジムのトレーナーの怒声。
そんなもんじゃ力なんて入らねぇよ、ほら手本見せてやる。
そう言われ殴られた瞬間を思い出し、那間良は前へと身体を倒した。
私は、殴りたいの。
殴られた分だけ殴りたいし、馬鹿にされた分だけ殴りたい。
力強い踏み込みは慣れたものだ、血が吹き飛ぼうが簡単に出来る。
拳を突き上げるのも慣れたものだ、視界が朦朧としようとも簡単に出来る。
那間良の突き上げたアッパーが、小早志真里亞の顎を捉える。
衝撃は顎を貫き、小早志真里亞の身体を大きく仰け反らせた。
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