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最終章 焼きそばパン大戦争
第百二十五話 何か出来たんじゃないかって
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鉤の斬り落とされた右腕は、和美を展示台へと走らせる一手となった。止まらない大量の出血、苦痛に顔を歪める鉤。
その覚悟に和美は答えなければならないと思った。
指を数本切断された那間良の拳で、小早志真里亞の分体は図書館の本棚に叩きつけられ、倒れる小早志真里亞に大量の絵本が覆いかぶさった。
和美は手を伸ばし、展示台の上に置いてあるミニチュア錫杖を掴む。確かに朱雀の力の注入は完了していて、掴んだ瞬間に和美の脳裏に次の試練の場所が浮かび上がった。見知った光景に和美はそこが何処であるか、すぐにわかった。
乃木やすらぎ霊園。
離れていたことでその苦悩を分かち合えなかったと後悔する両親がすぐに逢える場所にと決めた、和美の姉が眠る場所。
それがご都合的な運命の場所ではないことを和美はすぐに理解した。西を司る白虎、その守護者として囚われるのは白鬼だということ。
「それ持ってここから逃げる気じゃないでしょうね、高城さん?」
脳裏に浮かぶ場所に思考を持っていかれていたところに声がかけられ、和美の顔の横に何か破片のようなものが通り過ぎた。受付カウンターの奥の壁にぶつかって、ガンっと音を立てる。
ミニチュア錫杖から視線を上げると、那間良が指を無くした手で砕けた床の破片を握っていた。和美の顔の横を通り過ぎていったのも、その床の破片なのだろう。
「邪魔が入ってばっかだけど、私はね、高城さん。あんたを殴りに来たのよ、それが全て。指が無くなろうと、いやむしろ、指無くなっちゃったからさ、今この瞬間ヤれることヤっとかないとまた心残りになっちゃう。だから──」
逃がしはしない、そう続ける前に那間良は手に掴んでいた床の破片を和美に投げつけた。今度はしっかりと顔面に当たる軌道で投げる。その回避に和美が動く間に、三歩踏み込んで殴る。右手の人差し指と薬指が小早志真里亞に斬られてしまって、もう本意気で拳を握り込めないが、赤鬼の力をふんだんに込めて殴れればいい。
そう算段して踏み込もうとした那間良の右足に、巻き付く光の紐。砕けた床を這うように伸びた白い光。
「行かせるわけがないだろ?」
床についた左手の平に鉤は祓い師の力を込めていた。分家の中でも戦闘面に関して不得手であった鉤は、しかしながら捕縛に関しては僅かながら自信を持っていた。
「・・・・・・鉤さん!」
切断された右腕のあとから血を大量に流し続ける鈎に、和美はかける言葉がわからずにいた。いいからさっさと行けと、鉤は和美に視線の動きで答える。視線の先、図書館の外へと走れと。
和美は頷き、だが鉤の思惑通りの動きを見せなかった。一階へと降りる階段へは直進せず、未だ床に伏したままの笠原の方へと足を向ける。
「──ですよね、高城先輩。先輩が、この場にお友達を置いていくなんてことしませんよね」
耳元で囁かれたような感覚に和美は背筋が寒くなって顔を向けるが、声の主は側にはおらず、和美が向かおうとしている場所、伏した笠原の横に立っていた。吹っ飛ばされ絵本の下敷きになっているはずの、小早志真里亞。
「やめて、朋美は関係な──」
和美は必死に手を伸ばした。和美は必死に足を踏み込んだ。向かう先、視線の先には、六本の腕を振り上げて、伏した笠原に六つのナイフを突き立てようとする小早志真里亞。
「──関係無い、って寂しいこと言わないでよ、和美」
伏していた笠原が横に立つ小早志真里亞の足を掴み、強引に引っ張った。朱雀の力が、小早志真里亞の踏ん張りを許さない。は?、と声を出して小早志真里亞は無様に後ろに倒れた。
「私はもうとっくに、もう随分と、首を突っ込んじゃっててさ」
児童書の本棚にぶつけられた衝撃は、笠原の全身に痛みとしてまだ残っていた。朱雀というチート能力を得ているのなら痛みなんて緩和してくれてもいいのにと、床に伏しながら笠原は思っていたが痛覚が無いと言う那間良の血だらけの姿に考えを改めた。痛みは自分が人間である証拠なのかもしれない。
全身の痛みに耐えながら、笠原は勢いつけて起き上がる。横で倒れる小早志真里亞がすぐ次の手を繰り出してくるかもしれないと思うと、ボヤボヤうつ伏せてられない。
「それに、あの日、小早志さんのこと、どうにか出来なかったのかって、ちょっと思うところもあるんだよね」
あの日、学校で奈菜と矢附を追いかけず、和美の家に向かうことなく、屋上で齋藤のそばにいた小早志真里亞に何か言葉をかけられていたなら、和美のように《お手伝い》出来ていたなら、小早志真里亞はこんなバケモノにならなかったのかもしれない。
「だから、関係無いことなんて無いの」
自分は人様に何かをしてあげられる様な立派な人間では無いとは笠原は思うものの、だがしかしを考えてしまう。
「ちょっと喋ったことあるぐらいのアナタに私は思うところなんてありませんけどね、笠原先輩?」
転けるように倒された小早志真里亞はそう言って、六つの手で床を叩き跳ねるように起き上がった。
その覚悟に和美は答えなければならないと思った。
指を数本切断された那間良の拳で、小早志真里亞の分体は図書館の本棚に叩きつけられ、倒れる小早志真里亞に大量の絵本が覆いかぶさった。
和美は手を伸ばし、展示台の上に置いてあるミニチュア錫杖を掴む。確かに朱雀の力の注入は完了していて、掴んだ瞬間に和美の脳裏に次の試練の場所が浮かび上がった。見知った光景に和美はそこが何処であるか、すぐにわかった。
乃木やすらぎ霊園。
離れていたことでその苦悩を分かち合えなかったと後悔する両親がすぐに逢える場所にと決めた、和美の姉が眠る場所。
それがご都合的な運命の場所ではないことを和美はすぐに理解した。西を司る白虎、その守護者として囚われるのは白鬼だということ。
「それ持ってここから逃げる気じゃないでしょうね、高城さん?」
脳裏に浮かぶ場所に思考を持っていかれていたところに声がかけられ、和美の顔の横に何か破片のようなものが通り過ぎた。受付カウンターの奥の壁にぶつかって、ガンっと音を立てる。
ミニチュア錫杖から視線を上げると、那間良が指を無くした手で砕けた床の破片を握っていた。和美の顔の横を通り過ぎていったのも、その床の破片なのだろう。
「邪魔が入ってばっかだけど、私はね、高城さん。あんたを殴りに来たのよ、それが全て。指が無くなろうと、いやむしろ、指無くなっちゃったからさ、今この瞬間ヤれることヤっとかないとまた心残りになっちゃう。だから──」
逃がしはしない、そう続ける前に那間良は手に掴んでいた床の破片を和美に投げつけた。今度はしっかりと顔面に当たる軌道で投げる。その回避に和美が動く間に、三歩踏み込んで殴る。右手の人差し指と薬指が小早志真里亞に斬られてしまって、もう本意気で拳を握り込めないが、赤鬼の力をふんだんに込めて殴れればいい。
そう算段して踏み込もうとした那間良の右足に、巻き付く光の紐。砕けた床を這うように伸びた白い光。
「行かせるわけがないだろ?」
床についた左手の平に鉤は祓い師の力を込めていた。分家の中でも戦闘面に関して不得手であった鉤は、しかしながら捕縛に関しては僅かながら自信を持っていた。
「・・・・・・鉤さん!」
切断された右腕のあとから血を大量に流し続ける鈎に、和美はかける言葉がわからずにいた。いいからさっさと行けと、鉤は和美に視線の動きで答える。視線の先、図書館の外へと走れと。
和美は頷き、だが鉤の思惑通りの動きを見せなかった。一階へと降りる階段へは直進せず、未だ床に伏したままの笠原の方へと足を向ける。
「──ですよね、高城先輩。先輩が、この場にお友達を置いていくなんてことしませんよね」
耳元で囁かれたような感覚に和美は背筋が寒くなって顔を向けるが、声の主は側にはおらず、和美が向かおうとしている場所、伏した笠原の横に立っていた。吹っ飛ばされ絵本の下敷きになっているはずの、小早志真里亞。
「やめて、朋美は関係な──」
和美は必死に手を伸ばした。和美は必死に足を踏み込んだ。向かう先、視線の先には、六本の腕を振り上げて、伏した笠原に六つのナイフを突き立てようとする小早志真里亞。
「──関係無い、って寂しいこと言わないでよ、和美」
伏していた笠原が横に立つ小早志真里亞の足を掴み、強引に引っ張った。朱雀の力が、小早志真里亞の踏ん張りを許さない。は?、と声を出して小早志真里亞は無様に後ろに倒れた。
「私はもうとっくに、もう随分と、首を突っ込んじゃっててさ」
児童書の本棚にぶつけられた衝撃は、笠原の全身に痛みとしてまだ残っていた。朱雀というチート能力を得ているのなら痛みなんて緩和してくれてもいいのにと、床に伏しながら笠原は思っていたが痛覚が無いと言う那間良の血だらけの姿に考えを改めた。痛みは自分が人間である証拠なのかもしれない。
全身の痛みに耐えながら、笠原は勢いつけて起き上がる。横で倒れる小早志真里亞がすぐ次の手を繰り出してくるかもしれないと思うと、ボヤボヤうつ伏せてられない。
「それに、あの日、小早志さんのこと、どうにか出来なかったのかって、ちょっと思うところもあるんだよね」
あの日、学校で奈菜と矢附を追いかけず、和美の家に向かうことなく、屋上で齋藤のそばにいた小早志真里亞に何か言葉をかけられていたなら、和美のように《お手伝い》出来ていたなら、小早志真里亞はこんなバケモノにならなかったのかもしれない。
「だから、関係無いことなんて無いの」
自分は人様に何かをしてあげられる様な立派な人間では無いとは笠原は思うものの、だがしかしを考えてしまう。
「ちょっと喋ったことあるぐらいのアナタに私は思うところなんてありませんけどね、笠原先輩?」
転けるように倒された小早志真里亞はそう言って、六つの手で床を叩き跳ねるように起き上がった。
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