焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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第一章 あんパン大奮闘

第一話 売れ残りのあんパン

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「はい、あんパン二つで百六十円ね」

 購買部の販売員に渡された商品を手に取り、高城和美たかぎ かずみは交換に硬貨を手渡した。

「高城さん、今日は遅かったじゃないの?」

 昼休みももう半分を過ぎている。昼休み開始直後なら人混みで溢れる購買部も、この時間になると空いていた。慣れ親しんだ販売員のおばさんと話すにはいい時間帯とも言える。

 ただ、当然ながら商品は売り切れ寸前であった。あんパン二つというチョイスは売れ残りから泣く泣く選んだものだった。

「ちょっと先生のお手伝いしてて」

 四限目が終わり、購買部の混み具合を予想して気合いを入れ、席を立とうとしたところで教師に声をかけられた。クラスの何かしらの委員に属してるわけでもないのに、教師から手伝いを頼まれるのは和美にとって日常茶飯事だ。

 自分から率先して手伝いをしてることもあるので頼まれたことは嫌ではなかったが、焼きそばパンが食べられなかったことは少し残念だった。

「高城さん、あんパン二つなんかで足りるの? 七限目までもつの?」

「も、もちますよー。イヤだなー、こう見えて少食なんですよ、私」

 和美は中学まで剣道を習っていたが、高校では辞めた。そのせいか最近は体重を気にしている。それでも朝稽古は続けているため、周りからは細身に見えていた。

「貴女ぐらいの年齢の娘はね、しっかり食べた方が良いのよ。ダイエットとか言って食べずにいたら栄養足らなくなるわよ。まぁ、今残ってるのって菓子パンみたいのしかないからたらふく食べろってのも言いづらいとこなんだけど」

「あんパンばっかりは流石にキツいです……いや、ここのパンは美味しいから食べれるかも」

 あんパン以外の売れ残りはクリームパンくらいで、焼きそばパンなどの惣菜パンはすっかり売り切れていた。日替りサンドイッチは昼休み開始直後に来ても並び順が悪ければ売り切れてる人気商品だ。

「んー、じゃあ、放課後にお腹すいた時用にもう一個あんパンを──」

「毎度!」

 和美が言い切るより早く、販売員のおばさんは返事をし、すばやくあんパンを差し出してきた。その勢いに気圧されながら、和美は手を伸ばした。
 お互いの目を見つめ合う少し変な間が生まれる。

「はい、八十円」

「え? あ、ああ……」

 一瞬何の事かわからず和美は生返事をしたが、あんパンのお代だと理解して、上着にと羽織った指定ジャージの右ポケットから赤いがま口の小銭入れを取り出した。

「……売り残すのは申し訳ないからね」

 販売員のおばさんがそっとそう呟いたのを和美は聞き流すことにした。美味しいパンを三つ食べれるのだ。それでいいじゃないか。


 十六時四十分。ホームルーム終了を知らせるチャイムが鳴る。

 クラス委員長の号令がかかり挨拶が終わると教室が一気に騒がしくなった。騒がしくなる生徒たちに教師が何か言おうとしたが、諦めたように教室を出ていった。

 和美は席に座ったまま上半身を伸ばし大きく口を開け欠伸をしていた。

「眠そうだね、高城さん」

「秋原さんもね」

 和美の前の席に座る秋原晴夏あきばら はるかは、うつったように欠伸をしながら振り向いてきていた。和美と違い口元を手で覆い隠している。

「やっぱりご飯食べてからの古文は辛いよね。古文の犀川さいかわ先生の話し方、眠くなる」

「ほんと。犀川先生の話、面白いんだけど眠くなっちゃうんだよね」

 面白い、という部分に引っ掛かったのか秋原は眉をひそめた。犀川の話は古文から脱線した蘊蓄うんちくが多いので、興味が無いと間延びする話し方に合わさってお経に近い。

 和美はその話と話し方をまるで幼少時に寝る前に聴いていた童話のように思っていた。『昔はね』を口癖にしている犀川は、まさにそれだった。

「眠さに耐えてやりきった感が出てきたら、何だかお腹すいちゃった」

 和美はお腹を手で抑え、購買部のおばさんの商売魂に押し負けて買ったあんパンが入っている鞄に目をやった。帰り道で食べるか、家に帰ってから食べるか。

「今日は何かお手伝い頼まれてないの、高城さん?」

「え? んっと、今日は何も頼まれてなかったはず……」

「へー、珍しいね」

 秋原は帰り支度をしながら驚きの声をあげる。和美には大袈裟にも思えたが、そういうイメージを持たれてるのはよくあることなので訂正するのは諦めた。

「じゃあさ、高城さん。たまには一緒にかえ──」

「あ、高城さん? ちょっと頼みたいことあるんだけど良い?」

 教室の入口から担任の横宮よこみやの声がした。言いかけた言葉を飲み込んで秋原は和美に目配せをする。

 どうぞ、返事をしてあげて。

 和美は申し訳ないという謝罪をするように小さく頷いた。

「はい、横宮先生、どうしました?」

 和美の言い慣れた台詞を秋原以外のクラスメイト達は日常的だと気にも留めていなかった。
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