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第一章 あんパン大奮闘
第十四話 青い鬼
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白い空間に侵入してくる小鬼が次々と溶けていった。光の球体は拡大するのを止めた。半径五メートル程の球体、いや半球体の様になっていた。
「これもまた結界みたいだね」
光の半球体は小鬼の侵入を許さない。
「簡易やけどな。ほら、ぼちぼち出てくるで」
そう言って西生奈菜が目線を送ったのは、白い空間から出てくる小鬼達ではなく矢附だった。
瀬名は変わらず怯え震えたままであったが、その横にいる矢附は頭を抱えしゃがみ込んでいた。
「矢附さん!?」
「あ、頭が、頭がい、痛い・・・・・・な、何これ、何なのこれ!?」
中から外へと突き抜けるような痛み。皮膚が破れそうな痛み。
「矢附!? 西生さん、どうなってるの!?」
「鬼のお出ましや」
矢附の足下が黒く染まった。水溜まり──いや、どろりとした“なにか”が、まるで意志を持つかのように広がっていく。ぴちゃっ……ぴちゃぴちゃぴちゃ……濡れてもいないはずの足音が、そこにない誰かの存在を告げていた。
「・・・・・・てや」
頭を抱えてしゃがみこんでいた矢附が一瞬跳ねるように頭を上げるとそのまま後ろに倒れた。ぽしゃんと黒い水溜まりが跳ねる。
「・・・・・・助けてや」
黒い水溜まりから腕が伸びる。青い肌の細い腕。骨に僅かに皮膚がついたような細さ。鋭利で長い爪をつけた指が乱雑に動く。
「誰か助けてや。誰かが助けてくれたならソイツのせいに出来るのに。私の痛みをソイツのせいに出来るのに」
黒い水溜まりが膨れ、泡のように波打ったかと思うと、粘つく水面から“何か”が這い出た。まず現れたのは、骨に皮が貼り付いたような腕。次に、藍色の髪がゆっくりと水から浮かび、最後に、笑う唇が闇を裂いた。
助けを懇願しているのに、口元は笑っていた。
「私をいじめたヤツのせい。助けてくれへんかったヤツのせい。見て見ぬふりをしたヤツのせい。……だから、私は悪くない。そうやないと、痛みが終わらへん」
額から角が二本、生えていた。黒く光っている。
「私は悪くないから。悪いのは私以外の誰か。だから──」
「させるか!!」
鬼の目が大きく開いた。二本の角の黒い光が鈍くなる。西生奈菜は揺り動かしていた左手を止めて、両手を鬼へと向けた。
「皆、死ねばいいのに!!」
鬼の二本の角から黒い光が電流のように上へと迸る。和美は茫然としながらその光を目で追いかけた。黒い光は西生奈菜が形成した光の半球体を伝い、落雷のように三人へと襲いかかる。
身動きが取れなかった。和美はただ光を目で追うことしかできなかった。何なのかもわからぬまま、それが自分に降り注ぐという現実に呑まれていた。
身動きが取れなかった。瀬名は鬼が現れた瞬間から身震いが激しくなり止まらず、鬼の発した言葉が耳から離れなかった。青いそれが発するその言葉は先程聞いた矢附の想いなのか? 自分勝手だと思ったその想いはより攻撃的で殺意を剥き出しにしていた。
瀬名は夢であってほしいと願った。理解も、判断も、全てが追いつかない。黒い光の存在すら、彼女の目には映っていなかった。
西生奈菜が鬼へと構えた両手から光が生まれた。白い光が手を覆う。黒い落雷が頭上へと迫っていた。大きく息を吸い込み、鋭く息を吐いた。
白い光が弾けた。光は粒子のように散り散りとなると、鬼の角めがけて飛んでいく。
鬼は舌打ちし、白い光を睨みつけると跳ねるように後退した。ぴちゃりと水が跳ね、そこには矢附が、ぐったりと黒い水に沈んでいた。
鬼が後ろへと退いたことで黒い光の軌道が変わり、黒い落雷は三人に当たることなく白い空間へと吸い込まれていった。
西生奈菜が姿勢を低くして駆け出した。左手は木の葉が落ちるような動きをしていて、右手はその木の葉を扇ぐように下から上へと動かした。
鬼の足下、黒い水溜まりから白い光が沸き立つ。
再び鬼が舌を打つ。忌々しそうに白い光を睨みつけ、力強く踏みつけた。ドンッと地面が揺れる。黒い水溜まりが波打って広がり、その流れに矢附が飲まれた。
「矢附さん!?」
和美の声に矢附は反応しない。意識を失っているのだろう。
鬼への距離を一気に詰めて、西生奈菜は右足を強く踏み込んで左手をねじ込むように突きだした。掌底打が鬼の腹部へ叩き込まれた。
鬼は僅かに呻き声を上げるが、すぐに右手で西生奈菜の首を掴んだ。固く冷たい感触が首を強く絞めていく。
西生奈菜は鬼の右手を両手で掴んだ。手から白い光が生まれる。じゅっと焼ける音と鬼の呻き声。鬼の右手の力が抜けて指が首から離れた。西生奈菜はそのまま鬼の右手を折りにいくが、強引に振りほどかれた。
よろける西生奈菜の腹部に鬼の右前蹴りが入り、西生奈菜は後ろに吹っ飛ばされた。人が後ろに吹っ飛ばされる様を和美は初めて見た。
追撃に出ようとする鬼に西生奈菜は仰向けに倒れながらも左手をかざす。左手をぐっと握ると、先程掌底打を当てた鬼の腹部に僅かについた白い光が弾けた。爆竹のようなパチパチとした音をたてた小さな爆発は威力はなかったものの、西生奈菜が体勢を整えるまでには鬼の動きを止めた。
「これもまた結界みたいだね」
光の半球体は小鬼の侵入を許さない。
「簡易やけどな。ほら、ぼちぼち出てくるで」
そう言って西生奈菜が目線を送ったのは、白い空間から出てくる小鬼達ではなく矢附だった。
瀬名は変わらず怯え震えたままであったが、その横にいる矢附は頭を抱えしゃがみ込んでいた。
「矢附さん!?」
「あ、頭が、頭がい、痛い・・・・・・な、何これ、何なのこれ!?」
中から外へと突き抜けるような痛み。皮膚が破れそうな痛み。
「矢附!? 西生さん、どうなってるの!?」
「鬼のお出ましや」
矢附の足下が黒く染まった。水溜まり──いや、どろりとした“なにか”が、まるで意志を持つかのように広がっていく。ぴちゃっ……ぴちゃぴちゃぴちゃ……濡れてもいないはずの足音が、そこにない誰かの存在を告げていた。
「・・・・・・てや」
頭を抱えてしゃがみこんでいた矢附が一瞬跳ねるように頭を上げるとそのまま後ろに倒れた。ぽしゃんと黒い水溜まりが跳ねる。
「・・・・・・助けてや」
黒い水溜まりから腕が伸びる。青い肌の細い腕。骨に僅かに皮膚がついたような細さ。鋭利で長い爪をつけた指が乱雑に動く。
「誰か助けてや。誰かが助けてくれたならソイツのせいに出来るのに。私の痛みをソイツのせいに出来るのに」
黒い水溜まりが膨れ、泡のように波打ったかと思うと、粘つく水面から“何か”が這い出た。まず現れたのは、骨に皮が貼り付いたような腕。次に、藍色の髪がゆっくりと水から浮かび、最後に、笑う唇が闇を裂いた。
助けを懇願しているのに、口元は笑っていた。
「私をいじめたヤツのせい。助けてくれへんかったヤツのせい。見て見ぬふりをしたヤツのせい。……だから、私は悪くない。そうやないと、痛みが終わらへん」
額から角が二本、生えていた。黒く光っている。
「私は悪くないから。悪いのは私以外の誰か。だから──」
「させるか!!」
鬼の目が大きく開いた。二本の角の黒い光が鈍くなる。西生奈菜は揺り動かしていた左手を止めて、両手を鬼へと向けた。
「皆、死ねばいいのに!!」
鬼の二本の角から黒い光が電流のように上へと迸る。和美は茫然としながらその光を目で追いかけた。黒い光は西生奈菜が形成した光の半球体を伝い、落雷のように三人へと襲いかかる。
身動きが取れなかった。和美はただ光を目で追うことしかできなかった。何なのかもわからぬまま、それが自分に降り注ぐという現実に呑まれていた。
身動きが取れなかった。瀬名は鬼が現れた瞬間から身震いが激しくなり止まらず、鬼の発した言葉が耳から離れなかった。青いそれが発するその言葉は先程聞いた矢附の想いなのか? 自分勝手だと思ったその想いはより攻撃的で殺意を剥き出しにしていた。
瀬名は夢であってほしいと願った。理解も、判断も、全てが追いつかない。黒い光の存在すら、彼女の目には映っていなかった。
西生奈菜が鬼へと構えた両手から光が生まれた。白い光が手を覆う。黒い落雷が頭上へと迫っていた。大きく息を吸い込み、鋭く息を吐いた。
白い光が弾けた。光は粒子のように散り散りとなると、鬼の角めがけて飛んでいく。
鬼は舌打ちし、白い光を睨みつけると跳ねるように後退した。ぴちゃりと水が跳ね、そこには矢附が、ぐったりと黒い水に沈んでいた。
鬼が後ろへと退いたことで黒い光の軌道が変わり、黒い落雷は三人に当たることなく白い空間へと吸い込まれていった。
西生奈菜が姿勢を低くして駆け出した。左手は木の葉が落ちるような動きをしていて、右手はその木の葉を扇ぐように下から上へと動かした。
鬼の足下、黒い水溜まりから白い光が沸き立つ。
再び鬼が舌を打つ。忌々しそうに白い光を睨みつけ、力強く踏みつけた。ドンッと地面が揺れる。黒い水溜まりが波打って広がり、その流れに矢附が飲まれた。
「矢附さん!?」
和美の声に矢附は反応しない。意識を失っているのだろう。
鬼への距離を一気に詰めて、西生奈菜は右足を強く踏み込んで左手をねじ込むように突きだした。掌底打が鬼の腹部へ叩き込まれた。
鬼は僅かに呻き声を上げるが、すぐに右手で西生奈菜の首を掴んだ。固く冷たい感触が首を強く絞めていく。
西生奈菜は鬼の右手を両手で掴んだ。手から白い光が生まれる。じゅっと焼ける音と鬼の呻き声。鬼の右手の力が抜けて指が首から離れた。西生奈菜はそのまま鬼の右手を折りにいくが、強引に振りほどかれた。
よろける西生奈菜の腹部に鬼の右前蹴りが入り、西生奈菜は後ろに吹っ飛ばされた。人が後ろに吹っ飛ばされる様を和美は初めて見た。
追撃に出ようとする鬼に西生奈菜は仰向けに倒れながらも左手をかざす。左手をぐっと握ると、先程掌底打を当てた鬼の腹部に僅かについた白い光が弾けた。爆竹のようなパチパチとした音をたてた小さな爆発は威力はなかったものの、西生奈菜が体勢を整えるまでには鬼の動きを止めた。
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