焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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第二章 カレーパン大闘争

第三十五話 矢附、頑張ります

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「もうおしまい? そんなもんなの、高城さん?」

 床に倒れた和美へと、那間良がじりじりと歩み寄る。和美は微動だにしない。

「本気? それとも気絶中? つまんないな」

 口ではそう言いながらも、那間良は決して警戒を解かなかった。一歩一歩、慎重に距離を詰め、落ちていた箒をつま先で蹴り、和美の手の届かない場所へ飛ばす。

「いい相手に巡り会えたと思ったのに──やっぱり女子高生じゃ、まだ伸びしろ段階ね。ちょっと期待しすぎたか」

 ついに和美の目前にまで来たが、彼女は相変わらず反応しなかった。苛立ち混じりに舌打ちをして、那間良は和美の腹を踏みつける。

 苦悶の声と共に、和美の体が小さく跳ねた。呼吸が荒く、目を開けたとき、ようやく状況を理解した。

「おはよう、高城さん。そして──さようなら」

 那間良が足を振り上げる。狙いは顔面。和美は反射的に体を動かそうとしたが、痺れた体は重く、思うように動かない。

 踏まれる──そう悟った瞬間、カシャン、と音がして那間良の体が後ろへ跳ねた。

「う、うわぁぁぁぁ!」

 力のこもらない叫び声が響く。矢附だ。ぎこちない叫びと共に、買い物カゴを必死に那間良へ投げつける。

「ちょ、なに……ウザッ! あんた、先に殴られたいの!?」

 周囲の買い物カゴを手当たり次第に投げる矢附。最初は腕で防いでいた那間良も、そのうち手で払いのけ始めた。

「と、とりゃああああ!」

 返されてきたカゴを拾い、盾のように構えて走り出す矢附。バレーボール部所属とはいえ、動きはドタバタと不安定だ。目をつぶり、頭を下げての突進──弱々しいタックル。

 那間良はその動きを鼻で笑い、ストレートの一撃で迎え撃つ。

「ふぎゃっ!」

 矢附の体が跳ね飛ばされ、背後の化粧品売り場の棚に激突して倒れ込む。

「うざい、うざい、うざいっ! 弱いくせに邪魔するなっての!」

 那間良は転がるカゴを次々と蹴り飛ばし、矢附へと歩み寄る。

「し、仕返しをしようって、手を掴んだんです……」

「は?」

 背中の痛みを堪えながら、矢附は床に手をついて体を起こす。震えるその手は、恐怖を隠しきれていなかった。

「た、助けてくれるって手を、掴んだんです……」

「……あんた、何言ってんの?」

 那間良がいぶかしげに眉をひそめる。矢附は商品棚を支えにしてよろめきながら立ち上がった。

「う、嬉しくて……こ、怖くて……でも、忘れてて……掴んでくれたのに……掴んでくれてるのに、忘れてて──」

 那間良は首をかしげる。意味がわからない、そう顔に書いてあった。そして、興味を失ったように腰を捻り、一歩踏み込む。

「──悔しかった」

 その言葉と同時に、矢附が手を振り上げる。数本の口紅が、那間良の顔めがけて飛ぶ。

 咄嗟に反応し、身体を逸らす那間良。回避の軌道修正で筋がぶちっ、と音を立てたが、気にもしなかった。

 しかし──避けきれなかった。

 矢附のもう一方の手が追いかけてくる。握っていた香水のボトルから、那間良の顔へと噴射。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 悲鳴と共にのたうち回る那間良。片手で目を押さえ、もう片方の手を振り回す。矢附は慌てて身をかわす。

「うざい! うざい!! うざいぃぃぃ!!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 背後から響く和美の叫び。箒を構え、那間良の背中に突進。

 強烈な一撃に、那間良は化粧品売り場の棚へ突っ込んだ。棚はドガシャァと大きな音を立てて連鎖的に倒れていく。

 全身を襲う痛みに、那間良は半狂乱になりながら天井を見上げた。呼吸は荒く、視界は揺れ、意識は憤怒に支配される。

 殴る。殴る。殴る殴る殴る──!

 数秒か、それとももっとか。那間良はようやく体を起こした。怒りは収まらない。目の前の女──高城を殴る。それだけが今の彼女を突き動かす衝動だった。

「めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」

 和美が絶叫と共に箒を振り下ろす。一直線の一撃。

 ──パキッ。

 箒が折れる音と共に、那間良は声も出せず白目を剥いて、崩れ落ちた。
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