36 / 146
第二章 カレーパン大闘争
第三十五話 矢附、頑張ります
しおりを挟む
「もうおしまい? そんなもんなの、高城さん?」
床に倒れた和美へと、那間良がじりじりと歩み寄る。和美は微動だにしない。
「本気? それとも気絶中? つまんないな」
口ではそう言いながらも、那間良は決して警戒を解かなかった。一歩一歩、慎重に距離を詰め、落ちていた箒をつま先で蹴り、和美の手の届かない場所へ飛ばす。
「いい相手に巡り会えたと思ったのに──やっぱり女子高生じゃ、まだ伸びしろ段階ね。ちょっと期待しすぎたか」
ついに和美の目前にまで来たが、彼女は相変わらず反応しなかった。苛立ち混じりに舌打ちをして、那間良は和美の腹を踏みつける。
苦悶の声と共に、和美の体が小さく跳ねた。呼吸が荒く、目を開けたとき、ようやく状況を理解した。
「おはよう、高城さん。そして──さようなら」
那間良が足を振り上げる。狙いは顔面。和美は反射的に体を動かそうとしたが、痺れた体は重く、思うように動かない。
踏まれる──そう悟った瞬間、カシャン、と音がして那間良の体が後ろへ跳ねた。
「う、うわぁぁぁぁ!」
力のこもらない叫び声が響く。矢附だ。ぎこちない叫びと共に、買い物カゴを必死に那間良へ投げつける。
「ちょ、なに……ウザッ! あんた、先に殴られたいの!?」
周囲の買い物カゴを手当たり次第に投げる矢附。最初は腕で防いでいた那間良も、そのうち手で払いのけ始めた。
「と、とりゃああああ!」
返されてきたカゴを拾い、盾のように構えて走り出す矢附。バレーボール部所属とはいえ、動きはドタバタと不安定だ。目をつぶり、頭を下げての突進──弱々しいタックル。
那間良はその動きを鼻で笑い、ストレートの一撃で迎え撃つ。
「ふぎゃっ!」
矢附の体が跳ね飛ばされ、背後の化粧品売り場の棚に激突して倒れ込む。
「うざい、うざい、うざいっ! 弱いくせに邪魔するなっての!」
那間良は転がるカゴを次々と蹴り飛ばし、矢附へと歩み寄る。
「し、仕返しをしようって、手を掴んだんです……」
「は?」
背中の痛みを堪えながら、矢附は床に手をついて体を起こす。震えるその手は、恐怖を隠しきれていなかった。
「た、助けてくれるって手を、掴んだんです……」
「……あんた、何言ってんの?」
那間良がいぶかしげに眉をひそめる。矢附は商品棚を支えにしてよろめきながら立ち上がった。
「う、嬉しくて……こ、怖くて……でも、忘れてて……掴んでくれたのに……掴んでくれてるのに、忘れてて──」
那間良は首をかしげる。意味がわからない、そう顔に書いてあった。そして、興味を失ったように腰を捻り、一歩踏み込む。
「──悔しかった」
その言葉と同時に、矢附が手を振り上げる。数本の口紅が、那間良の顔めがけて飛ぶ。
咄嗟に反応し、身体を逸らす那間良。回避の軌道修正で筋がぶちっ、と音を立てたが、気にもしなかった。
しかし──避けきれなかった。
矢附のもう一方の手が追いかけてくる。握っていた香水のボトルから、那間良の顔へと噴射。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴と共にのたうち回る那間良。片手で目を押さえ、もう片方の手を振り回す。矢附は慌てて身をかわす。
「うざい! うざい!! うざいぃぃぃ!!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
背後から響く和美の叫び。箒を構え、那間良の背中に突進。
強烈な一撃に、那間良は化粧品売り場の棚へ突っ込んだ。棚はドガシャァと大きな音を立てて連鎖的に倒れていく。
全身を襲う痛みに、那間良は半狂乱になりながら天井を見上げた。呼吸は荒く、視界は揺れ、意識は憤怒に支配される。
殴る。殴る。殴る殴る殴る──!
数秒か、それとももっとか。那間良はようやく体を起こした。怒りは収まらない。目の前の女──高城を殴る。それだけが今の彼女を突き動かす衝動だった。
「めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」
和美が絶叫と共に箒を振り下ろす。一直線の一撃。
──パキッ。
箒が折れる音と共に、那間良は声も出せず白目を剥いて、崩れ落ちた。
床に倒れた和美へと、那間良がじりじりと歩み寄る。和美は微動だにしない。
「本気? それとも気絶中? つまんないな」
口ではそう言いながらも、那間良は決して警戒を解かなかった。一歩一歩、慎重に距離を詰め、落ちていた箒をつま先で蹴り、和美の手の届かない場所へ飛ばす。
「いい相手に巡り会えたと思ったのに──やっぱり女子高生じゃ、まだ伸びしろ段階ね。ちょっと期待しすぎたか」
ついに和美の目前にまで来たが、彼女は相変わらず反応しなかった。苛立ち混じりに舌打ちをして、那間良は和美の腹を踏みつける。
苦悶の声と共に、和美の体が小さく跳ねた。呼吸が荒く、目を開けたとき、ようやく状況を理解した。
「おはよう、高城さん。そして──さようなら」
那間良が足を振り上げる。狙いは顔面。和美は反射的に体を動かそうとしたが、痺れた体は重く、思うように動かない。
踏まれる──そう悟った瞬間、カシャン、と音がして那間良の体が後ろへ跳ねた。
「う、うわぁぁぁぁ!」
力のこもらない叫び声が響く。矢附だ。ぎこちない叫びと共に、買い物カゴを必死に那間良へ投げつける。
「ちょ、なに……ウザッ! あんた、先に殴られたいの!?」
周囲の買い物カゴを手当たり次第に投げる矢附。最初は腕で防いでいた那間良も、そのうち手で払いのけ始めた。
「と、とりゃああああ!」
返されてきたカゴを拾い、盾のように構えて走り出す矢附。バレーボール部所属とはいえ、動きはドタバタと不安定だ。目をつぶり、頭を下げての突進──弱々しいタックル。
那間良はその動きを鼻で笑い、ストレートの一撃で迎え撃つ。
「ふぎゃっ!」
矢附の体が跳ね飛ばされ、背後の化粧品売り場の棚に激突して倒れ込む。
「うざい、うざい、うざいっ! 弱いくせに邪魔するなっての!」
那間良は転がるカゴを次々と蹴り飛ばし、矢附へと歩み寄る。
「し、仕返しをしようって、手を掴んだんです……」
「は?」
背中の痛みを堪えながら、矢附は床に手をついて体を起こす。震えるその手は、恐怖を隠しきれていなかった。
「た、助けてくれるって手を、掴んだんです……」
「……あんた、何言ってんの?」
那間良がいぶかしげに眉をひそめる。矢附は商品棚を支えにしてよろめきながら立ち上がった。
「う、嬉しくて……こ、怖くて……でも、忘れてて……掴んでくれたのに……掴んでくれてるのに、忘れてて──」
那間良は首をかしげる。意味がわからない、そう顔に書いてあった。そして、興味を失ったように腰を捻り、一歩踏み込む。
「──悔しかった」
その言葉と同時に、矢附が手を振り上げる。数本の口紅が、那間良の顔めがけて飛ぶ。
咄嗟に反応し、身体を逸らす那間良。回避の軌道修正で筋がぶちっ、と音を立てたが、気にもしなかった。
しかし──避けきれなかった。
矢附のもう一方の手が追いかけてくる。握っていた香水のボトルから、那間良の顔へと噴射。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴と共にのたうち回る那間良。片手で目を押さえ、もう片方の手を振り回す。矢附は慌てて身をかわす。
「うざい! うざい!! うざいぃぃぃ!!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
背後から響く和美の叫び。箒を構え、那間良の背中に突進。
強烈な一撃に、那間良は化粧品売り場の棚へ突っ込んだ。棚はドガシャァと大きな音を立てて連鎖的に倒れていく。
全身を襲う痛みに、那間良は半狂乱になりながら天井を見上げた。呼吸は荒く、視界は揺れ、意識は憤怒に支配される。
殴る。殴る。殴る殴る殴る──!
数秒か、それとももっとか。那間良はようやく体を起こした。怒りは収まらない。目の前の女──高城を殴る。それだけが今の彼女を突き動かす衝動だった。
「めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」
和美が絶叫と共に箒を振り下ろす。一直線の一撃。
──パキッ。
箒が折れる音と共に、那間良は声も出せず白目を剥いて、崩れ落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
10年ぶりに現れた正ヒロインが強すぎて、10年来のダメ系幼馴染型ヒロインが敗北しそうな件について。
神崎あら
青春
10年ぶりに再会した彼女はまさに正ヒロインと呼ぶにふさわしい容姿、性格、人望を手にしていた。
それに対して10年間一緒にいた幼馴染は、堕落し酒に溺れ、泰平の世話なしには生きられないペットのような生き物になっている。
そんな対照的な2人のヒロインが戦う(一方的にダメ幼馴染が社会的にボコられる)物語が今始まる!!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる