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第二章 カレーパン大闘争
第三十八話 赤い鬼
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奈菜は走りながら、立ちはだかる小鬼たちに光を纏った手を当てては、次々と消し飛ばしていった。単純な動きしかしない小鬼を狙うのは容易かったが、数が増えてきた。鬼の気配が一気に濃くなり、小鬼が次々と湧き始める。
鬼主がいる場所──東出入り口。そちらに何かがいるのは明らかだった。
先ほどまで暴れ回っていた従業員や客たちは、小鬼にまとわりつかれて苦悶していた。次々と喰われ始めている。鬼の影響が強まり、小鬼が活性化したのだろう。
だが、喰おう喰おうと騒ぎ立てる小鬼たちも、実際に人間を喰うには条件がある。彼らは自立した存在ではなく、鬼の影響を強く受けた人間か、あるいは鬼の姿が形を取るほどの支配力がなければ喰えない。
「鬼、出てきとんな」
東出入り口を抜けた奈菜の目の前に、赤い鬼が立っていた。片手で矢附を持ち上げ、その足元には一人の男が倒れている。
赤い鬼は背が高く、屈強な体つきの男性型。額には二本の角が生えている。
「し、してん、ちょう……」
矢附の言葉で、倒れている男が支店長だと知れる。
奈菜は手を掲げ、光を纏わせた。瞬間、赤い鬼の腕で光が破裂した。
だが赤い鬼は微動だにせず、ゆっくりと顔を奈菜へ向ける。
「よう、巫女か。いらっしゃい、喰われに来たんか?」
「離せや、その娘」
「あ? 知り合いかいな? ほら、やるわ」
赤い鬼は矢附を投げた。野球の投手のように腕を大きく振りかぶり、勢いのまま奈菜に向かって放る。
「なっ!?」
奈菜は矢附を受け止めようと身構えるが、勢いが凄まじく、そのまま衝撃に押されて倒れ込んだ。
重なる矢附を押し退けて奈菜は起き上がる。胸を強く打ち、呼吸がうまくできない。ゲホゲホと咳き込み、顔を上げた瞬間──
赤い鬼の足が、目の前にあった。
咄嗟に首をひねり、顔面を外す。直後、鬼の前蹴りが奈菜の横を掠めて空を裂いた。風圧が頬を切る。
奈菜は下からその足を掌底で打った。軽く浮いたが、効いた様子はない。
足を引く鬼の甲が奈菜の頭を引っ掛け、自分のほうへ引き寄せた。前に倒れ込んだ奈菜に、肘が振り下ろされる。
重く、鈍い音。奈菜はうつ伏せに倒れ、そのまま身体ごと蹴り飛ばされた。土埃を巻き上げ、奈菜の身体が地面を滑っていく。
「あれ、えーっと、なんやったっけ。青いのの名前。あー、ど忘れしたわ。……いや、聞いとらんのか。そやな、すぐ消えてもうたしな」
鬼は頭を掻きながら上を仰いだ。支店長だった男の口調や仕草が混ざっている。
「あの青いののことは知っとんのやで、巫女さん。オマエが消し飛ばしたやつや。そういうのはオレたち鬼、現れる前から共有しとんのや」
鬼の記憶、小鬼の記憶、鬼主の記憶──混ざり合い、渦巻く。自分が何なのかもわからず、赤い鬼は苛立ち、頭を掻きむしる。
「一度うまくいったから、今度もいけると思ったか? 油断やな、巫女さん! いや、オマエら一族が、この長い長い関係性に馴れてもうたんやろ。オレたちを、軽ぅう見だした!!」
鬼が歩み寄る。一歩ごとに大地が鳴る。どすん、どすんと、その足音が鼓膜を打つ。奈菜は身体を捻って仰向けになったが、頭頂部に残る鈍痛が意識を曇らせる。
「オレを、このオレを、見くびるんじゃねえ! どいつもこいつも、バカにしやがって……! オレは、この店の、いやこの城の、支店長様やぞ!!」
赤い鬼が奈菜の胸ぐらを掴んで持ち上げた。ボロボロの巫女装束が引き裂かれる音が響く。
奈菜はもがくが、力が入らない。鬼は大きく息を吸い込み、口を開く。
その口は──人の形を捨てていく。
顎が裂け、骨が軋み、皮膚が引きちぎれる音がする。顔の中心が崩れ、ただ“喰うための器官”だけが広がっていく。ぬちゃり、ぬちゃりと肉が伸び、数秒後には奈菜を丸飲みできるほどに開いた。
「……アホか。これでも喰らえ」
奈菜の手が、鬼の口内に向けられる。次の瞬間──閃光。
口腔内で光が炸裂した。だが、鬼は鼻で笑ったように微動だにせず、奈菜を掴んだ腕を引き寄せ続ける。
奈菜は両手にさらに光を宿す。光が激しく耀き、口内で連続して爆ぜる。パッ、パッと閃光が閃き、その衝撃が鬼の頭を揺らした。
最初は微かな震え。だが、連続する振動が次第に鬼の均衡を崩す。上下左右、頭が揺れ、口の開閉もままならなくなる。
鬼の身体にまで震えが及び、奈菜を掴む力が緩む。
その瞬間を逃さず、奈菜は鬼の手首を両手で掴み、足を跳ね上げてその腕に絡めた。顎に踵を押し当て、そのまま自らの体ごと巻き付く。
身を捻り、崩れかけた鬼の重心を利用して地面に引き倒す。流れるような飛び付き──腕ひしぎ十字固め。
技の形は不格好だが、奈菜の動きは鋭い。
「折れるか、これで……!」
力を込め、奈菜は鬼の腕を極めにかかる。ボギッ、と嫌な音が響いた。
鬼主がいる場所──東出入り口。そちらに何かがいるのは明らかだった。
先ほどまで暴れ回っていた従業員や客たちは、小鬼にまとわりつかれて苦悶していた。次々と喰われ始めている。鬼の影響が強まり、小鬼が活性化したのだろう。
だが、喰おう喰おうと騒ぎ立てる小鬼たちも、実際に人間を喰うには条件がある。彼らは自立した存在ではなく、鬼の影響を強く受けた人間か、あるいは鬼の姿が形を取るほどの支配力がなければ喰えない。
「鬼、出てきとんな」
東出入り口を抜けた奈菜の目の前に、赤い鬼が立っていた。片手で矢附を持ち上げ、その足元には一人の男が倒れている。
赤い鬼は背が高く、屈強な体つきの男性型。額には二本の角が生えている。
「し、してん、ちょう……」
矢附の言葉で、倒れている男が支店長だと知れる。
奈菜は手を掲げ、光を纏わせた。瞬間、赤い鬼の腕で光が破裂した。
だが赤い鬼は微動だにせず、ゆっくりと顔を奈菜へ向ける。
「よう、巫女か。いらっしゃい、喰われに来たんか?」
「離せや、その娘」
「あ? 知り合いかいな? ほら、やるわ」
赤い鬼は矢附を投げた。野球の投手のように腕を大きく振りかぶり、勢いのまま奈菜に向かって放る。
「なっ!?」
奈菜は矢附を受け止めようと身構えるが、勢いが凄まじく、そのまま衝撃に押されて倒れ込んだ。
重なる矢附を押し退けて奈菜は起き上がる。胸を強く打ち、呼吸がうまくできない。ゲホゲホと咳き込み、顔を上げた瞬間──
赤い鬼の足が、目の前にあった。
咄嗟に首をひねり、顔面を外す。直後、鬼の前蹴りが奈菜の横を掠めて空を裂いた。風圧が頬を切る。
奈菜は下からその足を掌底で打った。軽く浮いたが、効いた様子はない。
足を引く鬼の甲が奈菜の頭を引っ掛け、自分のほうへ引き寄せた。前に倒れ込んだ奈菜に、肘が振り下ろされる。
重く、鈍い音。奈菜はうつ伏せに倒れ、そのまま身体ごと蹴り飛ばされた。土埃を巻き上げ、奈菜の身体が地面を滑っていく。
「あれ、えーっと、なんやったっけ。青いのの名前。あー、ど忘れしたわ。……いや、聞いとらんのか。そやな、すぐ消えてもうたしな」
鬼は頭を掻きながら上を仰いだ。支店長だった男の口調や仕草が混ざっている。
「あの青いののことは知っとんのやで、巫女さん。オマエが消し飛ばしたやつや。そういうのはオレたち鬼、現れる前から共有しとんのや」
鬼の記憶、小鬼の記憶、鬼主の記憶──混ざり合い、渦巻く。自分が何なのかもわからず、赤い鬼は苛立ち、頭を掻きむしる。
「一度うまくいったから、今度もいけると思ったか? 油断やな、巫女さん! いや、オマエら一族が、この長い長い関係性に馴れてもうたんやろ。オレたちを、軽ぅう見だした!!」
鬼が歩み寄る。一歩ごとに大地が鳴る。どすん、どすんと、その足音が鼓膜を打つ。奈菜は身体を捻って仰向けになったが、頭頂部に残る鈍痛が意識を曇らせる。
「オレを、このオレを、見くびるんじゃねえ! どいつもこいつも、バカにしやがって……! オレは、この店の、いやこの城の、支店長様やぞ!!」
赤い鬼が奈菜の胸ぐらを掴んで持ち上げた。ボロボロの巫女装束が引き裂かれる音が響く。
奈菜はもがくが、力が入らない。鬼は大きく息を吸い込み、口を開く。
その口は──人の形を捨てていく。
顎が裂け、骨が軋み、皮膚が引きちぎれる音がする。顔の中心が崩れ、ただ“喰うための器官”だけが広がっていく。ぬちゃり、ぬちゃりと肉が伸び、数秒後には奈菜を丸飲みできるほどに開いた。
「……アホか。これでも喰らえ」
奈菜の手が、鬼の口内に向けられる。次の瞬間──閃光。
口腔内で光が炸裂した。だが、鬼は鼻で笑ったように微動だにせず、奈菜を掴んだ腕を引き寄せ続ける。
奈菜は両手にさらに光を宿す。光が激しく耀き、口内で連続して爆ぜる。パッ、パッと閃光が閃き、その衝撃が鬼の頭を揺らした。
最初は微かな震え。だが、連続する振動が次第に鬼の均衡を崩す。上下左右、頭が揺れ、口の開閉もままならなくなる。
鬼の身体にまで震えが及び、奈菜を掴む力が緩む。
その瞬間を逃さず、奈菜は鬼の手首を両手で掴み、足を跳ね上げてその腕に絡めた。顎に踵を押し当て、そのまま自らの体ごと巻き付く。
身を捻り、崩れかけた鬼の重心を利用して地面に引き倒す。流れるような飛び付き──腕ひしぎ十字固め。
技の形は不格好だが、奈菜の動きは鋭い。
「折れるか、これで……!」
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