最強料理人~三ツ星フレンチシェフの異世界料理道~

神城弥生

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「私は獣国第二王女の『メアリー・ヘラクレス』です!!突然で申し訳ありませんが、伯爵様にお会いしたいのですが!」

 獣人なのにヘラクレスが苗字なのか、というテツのツッコみはさておき。メアリーは伯爵邸に辿り着くと、門番が口を開く前にそうお願いする。

 門番は戸惑い、念のため彼女達の身分証を確認すると、風のように伯爵邸の中へ入っていく。暫くすると今度は慌てて出てきて、一同を中へと案内してくれた。

 流石貴族、といった造りの家にテツは感嘆の声を上げる。まず家にたどり着くまでに数分は歩かなければならなかった。綺麗に手入れされた庭や、途中にある噴水を通り家の中に入る。すると今度は長く広い廊下に埃一つない家具。しかし物が沢山あるわけでなく、考えられ配置された装飾品たちを見てやはり気品があると感じてしまう。

 ベルサイユ宮殿など、フランスで未だに公開されている昔の貴族の屋敷のような所に、当然のように人が住んでいるのだと考えると中々考え深いものがあった。

 暫く玄関で待っていると、メイドが数名やってきて案内をしてくれる。とある一室の前でメイドが立ち止まり、ドアを開け中へと促されると一同は中に入り、やっと伯爵と会う事が出来た。

「おお!これはメアリー王女。ご心配しましたぞ!よく生きておられた!」

 少し腹の出た、だけれども軽快に椅子から立ち上がり両手を広げ一同を出迎えてくれる男性、この人が伯爵なのだろう。高級そうな衣服に身を纏っているが、決して派手ではなく気品がある。貴族は昔からやましい生き物だ、というイメージのあったテツは、その考えを改めようと目の前の男性を見て思った。

「突然の訪問になってしまい申し訳ありません。お久しぶりですカプリ伯爵。少し太られました?」

 どうやらメアリーと伯爵は面識があるようだ。メアリーの言葉に伯爵は嫌な顔一つせず「これも獣国との友好関係の賜物ですよ」と腹を叩きながら笑った。

「しかし、どうやってここまで……。ん?そちらはアドルフ殿ではありませんか!いやいや、これまた久しい!元気でおられましたか!」

 その言葉にテツは驚いたが、これまで大雑把な印象があったアドルフが彼女達の前に出て、綺麗なお辞儀をしたことにテツはさらに驚かざるおえなかった。

「お久しぶりです、カプリ伯爵。そして俺は今はただのアドルフです。敬語は不要ですよ」

 アドルフの言葉に、伯爵は一瞬顔を顰め「そうでしたな」と返す。だがすぐに表情を戻すと「立話しもなんなので」と近くのソファーへと促す。

 いつの間にか扉の前に立っていたメイドに伯爵が合図をすると、すぐに目の前のテーブルに香りのいい紅茶が運ばれる。メイドが一礼をし、扉の前に戻ったところで伯爵が口を開いた。

「改めてメアリー王女、お元気そうで何よりです。此処に来た、という事は獣国への報告と、乗船されていたお仲間の救助の件で間違いありませんか?」

 流石伯爵とったところだろう。既にこちらの考えはお見通しのようだ。

「流石伯爵様。お察しの通り、私達はその件で参りました。まずは現在の状況をお聞きしても?」

 伯爵は「そうですな」と少し考え状況を頭の中で整理させた後、説明を始めた。

「メアリー王女を乗せた船が難破したと聞いた我々は、直ぐに準備をし救出の為に船を何隻も用意しました。そして現在クルーの半数は既に発見し、この街で保護しております」

 伯爵の言葉に、メアリーはほっと胸をなでおろし、レイ達は喜び手を合わせた。だが伯爵の顔はあまりすぐれていない。まだ話の続きがあるようだ。

「ですが、もう半分のクルーが見つかっていません。報告を受けてから既に9日が経とうとしています。こちらも力は尽くしていますが……」

 その言葉を受け、先ほどまで喜んでいた彼女達の動きがぴたりと止まる。遭難して9日経つとどうなるか。さすがのテツでも最悪の事態を予測できてしまう。

「それに最近になり、運河で魔物による被害が増大しています。このままでは獣国との貿易に支障をきたす程です」

 伯爵の話では、今までこんなことはなかったそうだ。ここカプリの街がここまで栄えたのは、異種族との貿易の拠点だからだ。つまり長い事この街は貿易を行ってきた実績がある。代々それを守ってきた伯爵が言うのだから間違いないだろう。

 メアリーが意を決し、自分達も捜索に参加させてほしい、と伝えようと思ったところで、先ほどの門番が中に入って来た。

「失礼します。騎士隊長のケイト様がお見えになっています」

 伯爵は一度メアリーに確認をとってから「入れ」と言う。騎士隊長ケイトとは以前クラーケン戦で一緒になった人だ。「またトラブルか」とアドルフが天を仰ぎ、テツはそれをみて苦笑した。

「失礼します。ん?メ、メアリー王女!?ほ、本物か!?」

 ケイトは部屋に入ってくるや否や、メアリーの姿に驚き固まってしまった。流石に他国の王女相手に失礼な発言だったが、メアリーは気にすることなく立ち上がり頭を下げた。

「初めましてケイト様。貴方様が我々を必死で救出しようとしてくださっていたのは聞きました。心よりお礼申し上げます」

 捜索対象の突然の出現と、一国の王女の頭を下げさせてしまった事にケイトは慌てふためき、その頭を上げさせようと必死に言葉を探す。
 くつくつ笑うアドルフにケイトは人睨みし、何とか頭を上げたメアリーを見計らい、伯爵がケイトにこれまでの状況を説明する。

「そうでしたか。貴殿らには本当に感謝する。同時にメアリー王女様、誠に申し訳ありません。我々がもっと早く発見することが出来れば……」
「いえ、貴方方が懸命に捜索してくださっていた事は伯爵様から聞いております。それにテツさんとアドルフさんと出会い旅が出来てとても楽しかったですよ」

 微笑みながら話すメアリーに、ケイトは歯を食いしばりながら頭を下げる。誰が見てもメアリー達がまだ救出されてない仲間の事を心配していることは分かる。それなのに気丈にふるまう少女に対し、力及ばなかったことが悔しいのだろう。

「騎士隊長ケイトよ。それよりも話があって参ったのだろう?」

 伯爵の言葉にケイトはハッとなって、ここに来た理由を話し出した。

「実は、行方不明だった残りの乗組員を発見しました」
「何ですって!?」

 メアリーは両手を胸の前で組み思わず立ち上がる。まさに願ってもみなかった朗報だろう。

「はい。先日部下の船が運河の上にある小さな小島で彼らを発見したとの報告がありました。しかし二隻向かったはずの船が一隻しか戻らず、更に発見したはずの彼らを乗せていない事を聞くと、どうやらまた巨大な魔物が小島の周りに生息していた事がわかりました」

 ケイトの言葉に、メアリーは思わずソファーに座り込んでしまう。

 二隻向かった船の内、一隻がその魔物にやられ、乗組員はその小島に取り残されてしまったようだ。ただ不幸中の幸いだったのが、長期的に運河を捜索しようとしていた船だったので、食料が大量に積まれており小島の脇に沈没したため彼らは暫くは食いつなげるだろうとのことだ。

「そこでカプリ伯爵の兵をお借りしようと思ってきたのですが、どうやらその必要がなくなったようです」
「ん?どういう事だ、騎士ケイトよ」
「はい。ここにいる冒険者テツ、アドルフ両名は、先日現れた巨大クラーケンを討伐した実績があります」
「なんと!?それは誠か!?」

 驚く伯爵とメアリー達をよそに、ケイトはテツとアドルフの方を向き座り直し、頭を下げ二人にお願いをする。

「こんな事を冒険者に頼むのは間違だとわかっている。だが時は一刻を争うのだ。獣国の方々も、部下たちもいつまでもつか分からない。どうか貴殿らの力を貸してくれないだろうか?」
「私からもお願いいたします。どうか、仲間を助けてください」

 ケイトの言葉の後、間髪入れずメアリーが立ち上がり頭を下げ、レイ達もそれにならって頭を下げる。。伯爵も「クラーケンを倒せるほどの実力なら」と二人を向かわせることに賛成した。これでテツとアドルフ以外の皆が二人に頭を下げている図になってしまった。

 部屋に沈黙が訪れる。ここで断れば二人は悪役のようになってしまう。だが騎士がどうとか王女がどうとか、そんな事流れ人の自分には判断できないので、アドルフを見ると彼は腕を組み暫く何かを考えた後口を開いた。

「はぁ。どうするよテツ」

 ここで俺に振るなよ。さっきの考えてた間は何だったんだ。とアドルフを睨みながらテツは、とりあえず疑問に思っていたことを聞いてみることにした。

「はぁ。すみません。それを決める前に一つ質問いいですか?」
「ああ。報酬なら貴殿らが望むものをできるだけ集めよう」
「あ、いえ。そんな事じゃなくて、とりあえずその魔物は美味しいんですか?」
「「「「は?」」」」

 テツの言葉に、一同は思わず変な声をだしてしまう。唯一テツの性格を理解しているアドルフだけは、腹を抱えて大きな声で笑いだしてしまった。

「あ、ああ。魔物はサーペントという巨大なウミヘビだ。普段海にしか生息しない為、中々食べる事は出来ないが、その味は保証しよう」

 なんとか正気に戻り、ケイトは「何でこんな質問するんだ」と疑問に思いながら答える。

「ああ、そうだ。お前はそういう奴だ。あー腹が痛い」

 暫くしても笑いやまないアドルフを再び睨むテツに対し、「悪かった悪かった」とアドルフは腹を撫でる。

「あー、色々考えちまった自分が馬鹿みたいだ。騎士隊長ケイト。その依頼受けるぜ。その代わり報酬はその魔物だ」

 未だ呆然とする伯爵達をよそに、アドルフはそう言うと再び笑いだしてしまう。暫く笑いやまなかったアドルフにテツが怒りの鉄拳を入れた所で、漸く話が進み、二人は今度はサーペントと戦う事が決まった。
 
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