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ノアとミアとミリアと

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「通してくれ!!急いでるんだ!!通してくれ!!」

 いつものように教会でノアを手伝うというクエストを受けていた時、冒険者たちが慌てて入ってくる。彼らは血や土で汚れ、ひどい恰好をしながら4人で一人の男を担いで来た。担がれている男性はどうやら片腕を失いそれをタオルで覆い血を何とか止めている状態だ。

 この世界には光魔法を使える人間は少ない。

 理由としては光魔法を学ぶには一つそれを使える冒険者に教わる(だが簡単にそれを教えてくれる人はいない)、一つ教会で学ぶ(だがそれをすれば冒険者になれず神父になってしまう)という事があげられる。

「……これは酷いな。時間も経ちすぎている……。これは儂では間に合わぬかもしれぬ……。」
「おい!!ふざけんな!!こいつは最近子供ができたんだ!!何とかしてくれ・・・!!」
「……お主ら今から起こることを決して他言しないと誓えるか?」
「何だって誓ってやるよ!!だから早くしてくれ!!」
「……チャールズ。無詠唱を使う事を許す。今回はな。……できそうか?」

 俺は教会から目を付けられないように極力詠唱をしている、フリをしている。

 だが今回は特級魔法以上じゃないと間に合わないだろう。彼に「クリーン」の魔法をかけると両手をかざし目をつむる。

 彼の腕に魔力を集中させ、彼の腕をイメージ、神経から細胞の一つ一つまでも意識し魔法を使う。

「……「エクストラヒール」」

 すると肩の傷口からゆっくりと骨、筋肉、そして皮が再生され腕が完全に再生された。

 因みに俺は集中するために目をつむったんじゃなく、ただその光景がグロテスクで嫌いだったかあら目を瞑っただけだった。

「……無詠唱、だと?」

 冒険者たちは驚き思わず固まってしまう……。

「う、ううん……。あれ……?俺は…?」

 先ほどまで腕を失っていた男性は意識を取り戻し冒険者たちはそれに反応し歓声を上げた。どうやらうまくできたんだ、と心から安堵しため息をつく。

 冒険者たちは何かを言いたそうな顔だったが、「感謝する。約束は必ず守る」とだけ言い残しお布施を渡してきて立ち去って行った。

「うむ。見事じゃったぞ。……それでは今日はここまでにして協会は閉めよう。……今日も勉強していくか?」
「うん。もちろん」

 俺達は教会の扉を閉めて窓のカーテンも全て締め切り外からでも今日っじゃ協会は閉店だとわかるようにする。その後俺はいつののように教会の奥にある質素なノアの部屋に行き床に敷いてある絨毯をめくる。

 教会には必ず外敵から身を守るための避難所が備えられている。

 まぁ地球で言う地下シェルターのような場所だ。今はそこを俺の練習所とし、そしてノアの書斎と化している。

「……うむ。しかし先ほどの「エクストラヒール」は見事じゃった。これで特級魔法までは合格じゃな。まぁ目を開けてやれればもっといいんじゃが……」
「だって気持ち悪いじゃん」
「はっはっは!!お主は冒険者には向いてないな。冒険者になればそれ以上の光景を見ることになるて。まぁよい。今日は復習をしよう。初級魔法から神級魔法までの光魔法の説明はできるかな?」
「もちろん。初級から「傷を少し治す、病気の症状を和らげる」「傷をいっぱい治す、簡単な病気を治す」「致命傷な傷も治す、ある程度の病気を治す」特級魔法から「欠損部分を再生する。、ほとんどの病気を治す」「特殊な病気でも直し欠損部分も治す」そして神級が「どんな病気でも、どんな怪我でも直す」……でしょ?」
「ざっくりしてるのぉ……まぁそうじゃ。そして「王宮」以上の魔法を使えるのは儂を含めこの国では数名しかおらん。・・・どうじゃ?わしの凄さが分かったか?」
「……それ何回も聞いたよ。聞き飽きたよ、復習だって何回めだよ・・・」
「いいか?何か一つの事を成すためにも、それについての莫大な知識や経験が必要になるのじゃよ。その事を忘れてはいかん」

 ノアは実はすごい魔法使いらしい。

 と言うか教会でも偉い立場で俺が生まれる前まで教会のトップある神官長を務めていたという話だ。なぜこんなところにいるのか、と聞くと「それを話す気はない」といつも話をはぐらかされてしまう。

 俺達はそんな話をした後、ノアは執務を俺は医学書の本を読むことにした。

 この世界の魔法はイメージだ。

 だが光魔法を使う際は体のさまざまな器官を知っておく必要がある。それをリアルにイメージすることによってその効果高められるからだ。この世界の医学書は地球にも負けておらずかなり詳しく知ることが出来る。

 ……まぁそれも全て古代魔道時代の代物らしいが……。

「……ねえ。そういえば何で神官長をやめたの?」
「またか……。じゃがこれだけは覚えておけ。目に見えるものだけが正しいとは限らぬ。真実を観たければあらゆる方向から物事を見る事じゃて……。それじゃそろそろお帰り」

 ノアはたまに訳のわからないことを言いだす。

 まぁよく分からなかったので俺は「はいはい」と聞き流し帰宅した。

 ……今思えばもっとノアの話を真剣に聞くべきだったなと本当に思うよ。


 帰宅後俺は夕食をとりミアと遊んですごすのが日課となっている。
 本当にこの子は天使だ。もう「お兄ちゃん」としっかり言えるようになり、最近では俺の真似をして剣を振ったり魔法を使ったりしている。まだ初級魔法も使えずいつも両手を捏ねながら「ふぬぬぬ」と可愛らしい呪文を唱えている。
 それが成功したことは見たことないがいつも頭を撫でてあげると「ふへへ~」と言いながら素直に撫でられて抱き着いてくる。最近ではよくわからないクマのようなぬいぐるみを抱きしめていつも持ち歩いているところも可愛い。

 と言うか全部かわいい。

 うん。今日もうちの妹は天使だ・・・。

 ……本当に天使だったよ……、もっと可愛がって遊んでやる時間を作ってあげられたらどんなに良かっただろう……。


 俺は今日は伯爵邸に行っていた。

 最近では馬車の迎は断り走って伯爵邸に向かっている。足から「ウィンドボール」の小さいのを何度も出し馬のように早く走る練習をしながらだ。

 この魔法は母さんも伯爵の部下の魔導士もできなかった。

 俺は思ったより器用らしい。

「お、来たな。じゃあやるか」
「うん。よろしく!!」

 俺は騎士団長のケイトに今日も稽古をつけてもらう予定だ。

 始めてケイトに負けた後、俺はケイトの弟子入りをし実践訓練をしてくれ、ケイトからしても無詠唱で様々な魔法を使い剣術も使う俺の存在は珍しく訓練になるからと言っていつも付き合ってくれる。

 今では俺の兄のような存在だ。

「そろそろ俺に参ったと言わせてくれよ?」
「無茶言うなよ。俺はまだ中級剣術から抜け出せないでいるんだ。それに……。」
「ああ、お前の弱点もあるからなぁ。まずはそこを直さないと。」

 俺には重大な弱点がある。

 相手を殺す、と言うことが出来ない。

 と言っても最近は魔物の討伐にも参加し魔物などは殺せるようになった。

 だが人間相手は話が別だ。
 俺は人間相手だとどうしても急所を狙うことが出来ず、そして相手に隙ができても攻撃することをどうしても躊躇してしまう。

 まぁ15年も地球の日本で育った俺にはやはり「人を殺す」という事にどうしても抵抗があるのだ。

「だがそれを出来なきゃいつまでたっても成長できないし、いざとなった時殺されちまうぜ?」
「うっさい。分かってるっての……」

 そう言い残し俺はケイトに初級魔法の「ファイヤーアロー」を飛ばしてから斬りかかる。
 結果としてもちろん今日も俺はコテンパンに打ちのめされ今床で大の字になって寝転がっているところだ。

「あ!!チャールズ!来てたなら顔くらい出しなさいよ!!」
「おっと、お姫様のお出ましだ。今日こそ決めちゃえよ?」
「……うっさい」

 今ではビビが俺の事をすいてくれているとはっきりわかる。

 そしてそんな気持ちを真っ直ぐに向けてくれる女性に出会ったのは俺は初めてで、そんな俺もいつしかビビの事を好きになっていた。その事をケイトに相談した所大喜び。

 それから何度も茶化され、俺は何度もケイトに相談したことを後悔した。

 俺達は庭にあるテラスで本を読みながら話をするのが定番のデートコースとなっている。俺は伯爵たちから貴族のたしなみから様々な事を学び、今ではかなりの知識が付いてきた。と言うかこの体はかなり賢くできておりおり、一度読んだ本は大抵お玉に入ってしまう。

「……うーん。チャールズ。この問題がわからないわ」
「あ、これはね……」

 時々俺は2歳年上のビビに勉強を教えている。ビビは来年から王都にある魔道学校に入学するからだ。

 魔道学校は本当は12歳~入学が可能なのだがビビが「もっとチャールズと一緒にいたい」と駄々を捏ねたことで一年引き延ばしになったそうだ。

「なるほど!!さすがチャールズ!!よく分かったわ!!これはお礼ね」

 ビビはそう言うと俺の頬にキスをしてきた。

 俺は顔からつま先まで痺れたような感覚と体が一気に火照ってくる感覚に襲われ身動きが取れなくなる。

「ふふ。チャールズは普段戦闘ではもの凄くかっこいいのに、こういうのは本と苦手なのね。可愛いわ」

 そう言うとビビは今度は俺の頭を撫で始める。
 精神的には20歳を超えてるはずの俺だが、ビビに撫でられるのは嫌いではなく素直にされるがままになっている。地球では恋愛などとは無縁だった俺だが今回はどうやら春は早めに訪れたようだ。

 最近ではケイトの訓練を口実にビビに会いに来ているようなものだ。

「……ねえチャールズ。私達結婚しない?」
「……へ?」

 突然のビビの告白に俺はどうしたらいいかわからず黙って頷く。 

 本来男から告白と言う事をするべきだろうし、いやいや、その前にまだ付き合ってもいないのに結婚って・・・いやいや、俺たちは付き合っているのか?デートも何回もしてるしこれは付き合っているのか?

「このことはまだ二人の秘密ね?」

 ビビは可愛らしくそう言うと顔を真っ赤にして屋敷の中に入っていった。

 俺は気づいたら家に帰ってきていた。

 どうやって帰ったか覚えてはいないが、どうやら俺は浮かれているらしい。

 俺の顔を見た両親は何かを察したらしく、今日の夕食はいつもより豪華だった……。
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