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血の誓いと決闘

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「じゃあ必ず来いよ!いいか?俺達はまだ同じパーティーじゃないが仲間だと思ってる。辛くなったらいつでも会いに来るんだぞ?」
「そうよ!待ってるからね!」
「本当に一緒に来ないの?」
「しょうがないだろ。チャールズはクエストがあるんだから」
「うん。ごめんね。またね」

 「赤き狼」の4人はクロスの町に帰ることになりそれを見送っていた。ジルは子男爵の長男の為家族からの呼び出しは断れなかったようだ。俺は一人クエストをこなさなくてはならない為この街に留まった。あれから一か月俺は何度も様々な町に行き雨を降らせる仕事をしていた。

 現在小さな冒険者が「特級魔法」を使い雨を降らせる問い噂が広まり各地から沢山の依頼が来ている状況だ。俺はそれを一つ一つ丁寧にこなしていき、様々な冒険者に護衛についてもらっていた。冒険者も様々居て無口なパーティーから良く喋るパーティー、盗賊と結託して俺を売り払おうとしたパーティー(もちろん捕まえてギルドに差し出した)まで様々だ。前世ではこんなに色々な人と話をする機会などなかったので十人十色という意味がやっと分かった気がした。

「あ!!チャールズ君お疲れ様!!ギルマスが依頼があるからって呼んでるよ!!」
「はぁ~。またですか……」

 そろそろ旅に出たいのだが。そんなことも言えず階段を上りギルマスの部屋に入る。そこにはギルマスの他に4人のパーティがいた。

「お、噂をすれば来たか。チャールズ今回の依頼はどうだった?」
「別に」
「がっはっは!!そうか。相変わらず暗い奴だな!まぁいい、今回の依頼は俺からだ」
「ギルマスの依頼?」
「ああ、とりあえずこいつらを紹介させてくれ。こいつらはAランク冒険者の「血の誓い」のメンバーだ」
「じゃあまずは俺から。「血の誓い」のリーダーをしているイーサンだ。獲物は大盾とこの片手剣だな」

 イーサンは黒い髪に銀の鎧に身を纏ったさわやかお兄さんだ。

「じゃあ次は俺な。アンドレア、剣士だ。宜しく」

 アンドレアは獣人だ。獣人は珍しくないが最近は数が減っているという噂を聞いている。犬のような耳にしっぱが生え身軽そうなもこもこの服を着ているイケメンお兄さん。

「次は私ね。ウェンディ。獲物はこのは弓よ」

 身軽な狩人のような恰好をしたセクシーなお姉さんの手には頑丈そうな赤い弓が握られていた。

「ん。アグネス。魔導士」

 アグネスはエルフだ。エルフも今の国王になってからその数が減ったと言われている。身長は……俺と同じくらいか?」

「ん。今小さいと思ったでしょ。私こう見えて24歳」
「……え?」

 エルフは平均身長は人間と変わらないはずだ。だがアグネスは俺と同じくらいの伸長をし、ない胸を張って威張っている。なんだか残念だな。

「よし。自己紹介は終わったな。で、こっちがさっき話したチャールズ。10歳だが「特級魔法」を使う優秀な人材だ。そしてクエストだが「血の誓い」と組んでダンジョンに挑んでほしい」
「ダンジョン?」

 ダンジョンとは魔物の住んでる洞窟のようなものだ。様な、とはダンジョンは正確には洞窟の形をした魔物だと言われている。そのダンジョンの最下層部には大きな魔石がありそれをエネルギーに生きている。ダンジョンの出現突然で諸説あるが魔力溜まりができると急に出現する厄介な存在だ。魔物を引き寄せ早く潰さないと周囲に人的被害が出てしまう。

「ああ、ダンジョンだ。まだ報告に上がってきたばかりでな。早めに潰しておきたい。戦力過多かもしれないが「血の誓い」を呼んだのもその為だ。そして「血の誓い」には「光魔法」を使える奴がいない。そこでチャールズ、お前の出番ってわけだ」
「本当うは大きなクエストの時は教会に協力してもらって僧侶を呼ぶんだがそれよりも君の方が優秀だと聞いてな」
「ああ、だが俺はまだ納得できないぜ?こんな子供を連れて行って死んでみろ。寝つきが悪くなっちまう」
「まぁまぁ。それはまずは実力を見てからでもいいだろ。チャールズ。ちょっとイーサンと決闘しろ」
「は?」

 クエスト依頼の参加不参加も決めぬ間に何故かイーサンと決闘することになり、ギルドの地下の闘技場に行くことになる。

 話を聞いた冒険者たちが集まりいつの間にか観戦者の数は50人を超えていた。まぁそのほとんどがAランク冒険者見たさに集まったわけだが。

「おい誰だあのガキ。なんでAランク冒険者と決闘なんかしてんだ?」
「知らねぇのか?あいつああ見えて「特級魔法」を使うって話だ。中身は実はおっさんという噂もあるしな」
「おっさんだと?そうか……身長が伸びなかったのか。可哀想に……」

 誰が中身はおっさんだ。確かに精神的にはもう21歳だが。というかそんな話信じるなよな。

「すまないね。うちのメンバーが君の事まだ認めてないようでさ」
「というかまだクエストに参加するとは言ってないんですが……」
「ん?ギルマスの依頼を断るにはそれなりの理由がないと罰が待ってるんだよ?それでも君は断るのかい?」
「それって実質強制なのでは……」
「あっはっは!そうだね。ある意味そうかもしれない。っとそろそろ始めるか、さ、どっからでもかかってきなさい」

 なんでこんなことになってしまったのか。だがやるからには負けるのは悔しいので勝つ気でやろう。

「ではいきますよ?「アイスシャワー」!!」
「お、いきなり無詠唱で「中級魔法」か!やるな!!」

 イーサンは驚きはしたが簡単に剣で全ての氷を叩き落して見せる。その険速は速く俺にはブレてしか見えなかった。だがこれで終われない、足から魔力を流しイーサンの後ろから「サンドニードル」を出しイーサンは避けるが体制が崩れる。その隙に「ブースト」を使い一気に距離を詰め剣を振るう。

「うぉ!?速いな!」

 完全に隙をついたはずなのにイーサンは剣を軽々と受け止める。これがAランク冒険者の実力か。俺は魔法と剣を使い様々な攻撃を仕掛け続けるがイーサンは顔色一つ変えずにその全てを受け止める。さすがに悔しくなってきた俺は一度距離をあける。

「ふぅ。予想以上に強いな君は。Bランク冒険者って言われても不思議じゃないよ」
「どうも。でもそれを顔色一つ変えないで受け止める貴方は化け物ですね」
「まぁね。これでもAランク冒険者なものなので」

 その余裕に腹がたち拳を握り魔力を集める。俺の集める魔力の量に流石にイーサンの顔色も変わりその眼は鋭くなる。

「「ファイヤートルネード!!」」

 拳くらいの細さの竜巻を造りそれをイーサンに飛ばす。彼はそれを剣に魔力を溜め一刀両断する。炎の竜巻は真っ二つに割れ結界が貼ってある壁際まで飛んでいきそれを破壊する。だがその隙に俺は俺の体くらいある炎の玉をイーサンに放ち駆け出す。

 イーサンは再びそれを切り裂くが、その爆風で後ろに吹き飛ぶ。俺は「ブースト」で先回りしし首筋に剣を振り下ろす。

「うん。今のはやばかった……」

 いきなり後ろから声がしたと思ったら俺の首筋に剣が添えられる。

「そこまで!!勝者イーサン!!」

 ギルマスの声で試合が終わり、一瞬の静寂の後に歓声が鳴り響く。

「……今何したの?」
「ふふ。魔力をずらしたのさ。そうしたら見えてる俺と実際の俺の位置が少しずれるのさ。まぁ君ならすぐできるようになるよ」

 そう言うと手をひらひら振りながら闘技場を去っていくイーサン。

「という事でだ。明日からよろしくなジャック」

 アンドレアはそう言うとイーサンの後についていき、残りの二人もそれについていく。

 「一応合格ってこった。お前さんはAランク冒険者に認められたんだよ。よかったな」
 
 いつの間にか近くに来ていたギルマスに頭をガシガシと撫でられる。負けて悔しかったがいい経験になった。やはり上には上がいるものだ。

 その日はそこで解散になり、次の日馬車に乗りダンジョンを目指すことになる。初のダンジョンに多少緊張しながら眠りにつく。
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